魔王、航空戦力を考える
「やはり、飛兵の有効性は高いな……」
「何やら褒められているようで、嬉しいですわ♪」
意図せずに零れた言葉にスカーレットが微笑む。
特にこの惑星では人間側の竜騎兵や、魔族側の翼種は絶対数が少ない。そもそも、ワイバーンやハーピィ、吸血鬼も航空力学的に空を飛んでいる訳ではないためだ。
もし、純粋な生体構造のみで飛ぼうと思えば、どうしても体のサイズが小型の流線形となり、それに対して翼が肥大していく…… つまり、鳥類だ。
その観点から鑑みれば、どの種族も自重に対して十分な揚力を得られる姿形をしておらず、実際は魔力で起こした上昇気流を大きな翼に受けて飛翔し、風を操って大空を飛んでいる。そのため、長距離飛行や戦闘機動に耐えられる個体そのものが少ない。
数々の条件を乗り越えた飛兵は該当種族におけるエリートであり、育成に多大な時間とコストが掛かってしまう。そのため、ある程度の国力が無ければ飛兵隊を維持する事が困難なのだ。
(地球でもまともな空軍を持っているのは一部の国々のみだしな……)
例え空軍を名乗っていても、独立組の旧社会主義国やアフリカ諸国などの多くは各自で10機前後の旧式機を保有するに留まり、その半数は練習機と輸送機なので戦力としては微妙極まりない。
惑星ルーナでも地球でも航空戦力は貴重なのだと再認識していると、テントの天井付近に飴玉サイズの転移ゲートが開き、都市ブレア―ドにいるミツキの声が届く。
「我が君、配下の者が竜騎兵隊の影を捕捉しました、南西側からの侵攻です」
「よしッ、想定通りだな!」
吸血飛兵を本隊から分離させて別行動としたのは目立たせる事が目的で、都市に潜んでいる密偵の目を惹きつける意図があった。俺達の行動を監視して十分に都市から離れた頃合いを見計らい、満を持して強襲を仕掛けたのだろうが…… 何も高速な移動手段は飛行だけじゃない。
「膨大な魔力消費を考えなければなッ!」
素早くテントの外に飛び出して、俺は木々の合間に見える銀月を掴むように手を伸ばしながら、魔力を籠めて術式を構築する。これで俺が遠征中に気兼ねなく使える魔力のほとんどを失うが、機を逸しては何の意味もない、大盤振る舞いだ!
「此方と彼方を繋げッ、転移方陣!!」
事前に都市ブレア―ドの転移と遠見を阻害する魔導装置を操作し、識別用の固有魔力を登録してあるため、然したる問題も無く都市上空と繋がった巨大な転移門が夜空に浮かぶ。
「さぁ、飛竜狩りの時間です、征きますわよッ!」
「「「はッ、御心のままに」」」
魔力の波動を感じて、待機から即座に集合した吸血飛兵が次々と靄のような黒い魔力翼を展開し、魔法で起こした上昇気流に乗って上空の転移門を目指す。
「では、おじ様、いってきます」
「あぁ、また後でな……」
昏い森の中で紅い瞳を煌々と光らせた吸血姫が妖艶な微笑を浮かべた直後、突風を残して宙に舞う。
「きゃうッ、す、砂が目に入ったですぅ」
「あぅ…… エルミア、擦っちゃ……… ダメ」
実質的なヴィレダの姉であるため、面倒見の良いベルベアが珍しくちゃんと言葉で注意するのを一瞥した後、大規模転移門に飛び込んでいく吸血鬼達を見送る。
「やはり相当の魔力が消し飛ぶな……」
「うぅ、中隊規模の質量を転移させるとか無茶なのです…… あ、取れた♪」
まぁ、過去の大戦で “終極” の魔法使いがやってのけた記録から、理論的には有り得ると分かっていても、余りに例外的なので戦略の陥穽となる。
(これが決め手に繋がってくれれば良いのだが……)
紛争による犠牲は最小限に留めたいと温い事を考えてしまう自分を呆れつつ、全ての吸血鬼達が転移を終えた事を確認して門を閉じ、今度は眼前に通常規模の転移ゲートを開いた。
「さて、俺達も行くか…… 頼らせてもらうぞ、ベルベア」
「……! (ん、頑張る!)」
無言でピンとケモ耳を立たせて気合いを入れた黒狼の娘、青銅の技師エルフと共に俺も転移先であるベイグラッド家の居城へと踏み出す。
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