魔王、次の一手を読む
「彼らは来るのでしょうか、おじ様?」
スノーピック社製の大型テント内にて、植物性油を使用したランタンの照り返しを受けて仄かに煌めくシルバーブロンドの髪を揺らし、小首を傾げた吸血姫が深紅の瞳で見つめてきた。
「ん、そろそろだと思うが、ミツキからの連絡は無いな」
「………… きっと…… 大丈夫、もぐ」
本日初の言葉を発しつつも猪肉を齧り、尻尾をフリフリする黒狼娘には起きるかもしれない事態に備え、本隊から離れて此方に残ってもらっている。どうやら、暫し後の戦いを確信している様子だが…… 自ら狩ってきた猪を捌き、ゼルギウスに頼んで焼いてもらった猪肉の香草焼きに表情は緩み切っていた。
「ベルベア……」
「んぅ?」
最後の一切れを平らげた彼女の頬に手を添えて、口周りの汚れを麻製手巾で丁寧に拭ってやる。人狼族は年頃の娘であっても無駄にワイルドだからな……
「あぅ…… あり、が… とう」
僅かに頬を染めて照れながらもケモ耳をぴこぴこさせ、無言で豊満な身体を摺り寄せてくる黒狼娘と対照的に、正面のスカーレットからやや冷たい視線を投げられてしまう。
思わず顔を逸らして、我関せずに寝そべって “公道最速を目指す” という、ある意味では迷惑な連中が切磋琢磨する漫画を楽しそうに読み耽るエルミアへと視線を転じ、そのマイペース振りに軽い溜息を吐く。
現在、俺たちはスカーレット麾下の吸血飛兵100名と共にミザリア領の中核都市を出立し、城塞都市へと向かって1日半ほど進んだ場所で陣を張り、鬼姫からの連絡を待っていた。
救援にいくはずだった城塞都市ワルドを落としたリベルディア騎士国の兵力を鑑みれば、これ以上に彼らがミザリア領内へと侵攻してくるとは思い難いが、油断は禁物だ。
(輜重兵を含んで3000名前後の旅団規模か……)
彼らが進軍を強行すれば、魔族占領下のノースグランツ領を警戒しているシュタルティア王国も動かざるを得ない。結果、奥地まで喰い込んで伸びてしまった補給線を脅かされながら、他領からの増援を加えたミザリア領兵と対峙しなければならない。
得策とは言えないだろうし、俺ならば城塞都市で地盤を固めて近いうちに自国へ併合する。
(現にノースグランツ領でそれに近い事を実践中だしな)
ただ、腰を落ち着けるには時期早々である事を否めない。
詳細を持ち帰った伝令兵の報告によれば、城塞を護っていた騎士長が潔く負けを認めて撤退した事もあって、ミザリア領兵は未だ大半が健在だ。
後発のクリストファ率いる大隊、援軍のヴィレダ率いる魔族中隊が彼らに合流すればその総勢は2200余名になる。侮れる数でもないため、リベルディア騎士国としてはもう一手打っておきたいはずだな。
そこで活きてくるのが中隊規模のドラグーンと、これも報告にあった黒色火薬の爆弾だ。進攻速度の速い竜騎兵のみで中核都市ブレアードへの爆撃を敢行し、城や街に被害を出して相手の戦意を喪失させる。
上手くやれば有利な条件で今回の国境紛争を終わらせ、自国に城塞都市ワルドとその周辺を編入する事も可能だろう。
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