吸血姫、長めの独白をする
遠征中の魔族一行があずかり知らない間に城塞都市ワルドが陥落した翌日の朝、他人の城だというのにぐっすりと眠る想い人の寝顔を眺めて、ベッドから上半身だけを起した一糸纏わぬ金髪紅瞳の吸血姫が薄っすらと微笑む。
(去年までは、似たような光景を見ても焦燥感しかなかったのですけど)
あの時はシュタルティア王国軍に地下ダンジョンが攻め込まれており、とても今の様な余裕も無く、下手をすれば次の春を迎えられない可能性すらあったのも事実だ。
皮肉な事に散り逝く同胞達の数が増えるほど、ダンジョン全域に彼女が仕掛けた大規模儀式魔術“吸命陣”を経由して、落命時に拡散される魔力が聖杯に満たされた自身の血へと溜まっていたのだが……
(成功の確信を持っていた訳ではありませんでしたから)
迷宮内で死亡した王国兵どもから集めた魔力など単なる燃料に過ぎないが、同胞を護る為に命を賭した皆が最後に残した魔力を無駄にする事はできない。
(う、思えば私、相当に追い詰められていたのですわね、精神的にも)
しかし、当時の魔族を率いていた吸血姫が不安や弱さを見せれば、それが配下に伝播して士気に関わってしまう。一度だけ、妹の様に思っているヴィレダに弱音を吐いた事があったものの、“あたし以外にはゼッタイに話さないようにッ”と念を押されてしまった。
「本当に、苦労したのですよ?」
目覚めた彼女の主は期待通りに同胞達を導いてくれたけれども、全てがそうではない。途中で攻め入って来た騎士令嬢を拾ってきて、人魔の共栄などと言い出した。
「まったく、もう」
思わず、暢気に眠っている彼の髪に触れて手櫛で掻き揚げ、瞑目しながらスカーレットは自身の胸裏を確かめる。実際のところ、大きく数を減らした魔族が今後も生き延びていくには、この惑星で最も栄えた種といえる人間達とどこかで調和するしかない。
(それに…… イルゼやマリの事は嫌いじゃない)
彼女の性格なのか人間そのものは嫌いであっても、成り行きで親交を深めた相手は嫌いになれない様だ。どうやら総論反対、各論賛成という捻くれた状態に改めて気付く。
「私も意外と天邪鬼なのかもしれませんわ、おじ様」
苦笑を浮かべながら、奇麗な黒髪を撫でていた手を頬に、さらには首筋へと降ろしていき、思わずゴクリと喉が鳴る。
「お寝坊な貴方が悪いのですわよ?」
軽く自分に言い訳をして、吸血姫が美味しそうな首筋へと唇を寄せて……
カプ、チュー
「…… スカレ、目覚めの吸血はどうなんだろう?一般的ではない気がするぞ」
「おはようございます、おじ様」
にっこりと微笑む彼女の口元に手を伸ばして、滴る俺の血を拭ってやる。
「できれば、普通に起こして貰いたい」
「善処します、私は天邪鬼ですので♪」
いや、吸血鬼だろうがと、ツッコミたくなるのを押さえて起き上がり、荷物から水の元素を封じた魔石を取り出して客間に備えられたバスルームへと向かう。
城付きのメイドを呼んで湯を用意してもらうのも面倒だと、持ち込んだ水素石と魔力と反応させてお湯を造りだして注ぐ。
自らの居城と違って面倒だと感じながらも入浴を済ませ、スカーレットと入れ代わりで部屋に戻って身なりを整えていると、不意に客室の扉がノックされた。
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