城塞、陥落する
今回は割と真面目にリベルディア兵とミザリア領兵の攻城戦を書いてみました!
「奴ら、正気か?このまま城塞南門を落としにくるだと!?」
最前列のリベルディア歩兵たちこそ、頭上に大盾を構えて防御陣形で突撃してくるが、後に続くのは碌な攻城兵器を持たない単なる歩兵に過ぎない。
「でも、割と本気かもですよ、騎士長」
「ッ、ドラグーンが来ます!!」
城塞都市ワルドの南門へと迫る歩兵連隊の後方、30騎程の飛竜兵が抑揚をつけて空を舞う。それを視認したタイミングで東西の城壁から警鐘がなり、攻撃を受けている事実が告げられた。
「ちッ、弓兵隊は眼下の歩兵を、弩兵隊はドラグーンを狙え!十分に引き付けろよ!!」
「「「応ッ!!」」」
指揮に応えて弓を構え、矢を番えた弓兵達が城壁の端に足を掛けて身を乗り出し、押し寄せてくるリベルディア兵に狙いをつける。一方で、やや多めに南門へと配した32機のバリスタを扱う射手も向かい来る竜騎兵へと狙いをつけるが……
「…… なんだ、来る気が無いのか?」
射手の一人が思わず呟いた通り、敵竜騎兵は弩兵隊と一定の距離を保ったままを維持しており、この距離ではお互いに攻撃を当てる事が難しい。
「来られても、最初に殺られるのは俺達っすけどね」
「ッ、煽って無駄な弩矢を使わせようって魂胆かよ」
それにしては歩兵達が突出しすぎており、既に弓兵隊から射かけられ、大盾で凌ぎきれずに喊声に悲鳴が混じってくる。
「第四射準備、放てッ!」
「「「うぐッ、つああぁッ!!」」」
各弓兵隊の小隊長達が互いに連携しながら、盾持ち歩兵の後方に詰める突撃兵へと着実な損害を与えていく様子に、指揮を統括する騎士長ゼルライトは拭い難い違和感を覚えた。
(ッ、この無駄な吶喊は一体なんだ、意味があるのか!?)
暫しの瞑目の後、彼は考えを切り替える。
「初手から勝機の無い突撃などあり得ないッ、魔術師隊から連絡は!」
「遠見の魔法で敵本陣を窺う事はできませんが、他は特に異常なしです」
その答えに苛立つ騎士長の眼下では、遂に少なくない犠牲を払いながらもリベルディア歩兵連隊の突撃兵達が城門に辿り着こうとしていた。
「ちッ、何がしたいんだ連中はッ!」
破城槌すら持たずに押し寄せてくる数百名の敵兵に対し、城門付近の領兵達が脅威を感じた瞬間、唐突に月明かりが遮られる。彼らが見上げる先には……
「キシャアァアァッ!!」
「ッ、馬鹿な竜騎兵だとッ、いつの間に!?」
「くるぞッ、迎え撃てッ!!」
忽然と上空に現れた10騎の竜騎兵が陶器に黒色火薬を詰めたモノを次々に落下させ、その後を追わせるように2匹の飛竜に火球を吐き出させる。そして、城壁を護る弓兵や弩兵達の頭上で陶器製の火薬玉が炎に包まれ、炸裂音を響かせて弾け散った。
「「う、うわあぁあああッ」」
「げはッ、ううぅ……」
「ぐうぅ、ッ、ううッ」
刹那の後、爆風で城壁から墜落した者達の悲鳴、飛び散った陶器片に鎧ごと貫かれた者達の呻き声が辺りに響く。その悲惨な光景に軽く眉を顰めながらも、ドラグーン第二小隊を指揮するリディックが気勢を上げる。
「後続の空路は確保したッ、城門に向かう!」
「了解っす」
「死なない程度に頑張りますよ」
防空網の一角に穴を開け、バリスタを警戒していた第3から第5の竜騎兵隊が此方に飛んでくるのを確認しつつ、自身は緊張感にやや欠ける部下達と共に城門付近目掛けて急降下していく。
途中で再び飛竜達に複数の火球を吐かせて、城門の上や内側に控えるミザリア領兵達を焼き払った後、城門直上の城壁と内側に半分ずつの騎士が降り立った。
「急げッ、三重構造らしいからな」
城門裏に降りた騎士二人が素早く ”旋回式かんぬき” を縦に動かして金属板で覆われた城門を開け、さらに城門直上の騎士達は ”落とし格子” の巻き取り機を操作し、やはり鉄で補強された格子を引き上げていくが、相手も黙って見ているわけでは無い。
「ッ、させるかよ!!」
「射殺せッ」
城門が破られようとしている状況に気付いた弓兵達が駆け寄って、巻き取り機を動かす竜騎兵へと一斉に矢を放つ。
「風の護りよッ!!」
周囲を警戒していた竜騎兵が魔力を籠めた右手を突き上げ、突発的な上昇気流を生じさせて、弓矢を上空へと舞い上げて初撃を凌いだ。
「うぅ、そんなに持たないですよ!」
「大丈夫だリリア、もうちょっとで……ぐはッ!?」
突如、遠方からバリスタの矢が風の防壁を突き抜け、巻き取り機を操作していた竜騎兵の腹を貫通する。
「ひッ」
「ぐうぅ、はッ、こ、此処までか……ッ、う」
小柄な女性の竜騎兵が手を伸ばすも、届く事は無く…… 数歩よろけた仲間が城壁から落下した。
「くそったれッ!!」
怒鳴りながらもリリアと共に周囲を牽制していた竜騎兵が巻き取り機にしがみ付いて、落とし格子の引き上げを続けるが、城壁上の敵弓兵達が左右に割れて、今度は反対側の半壊したバリスタが彼を狙って矢を放つ。
「ッ、ぐぶッ、ははっ、役目は果たした、ぜ……」
大量の血を吐き出しながら呟く竜騎兵の言う通り、既に落とし格子は引き上げられて固定されており、城門自体も開いていた。
「ん、頑張ったね」
労いの言葉と共に死に逝く仲間を支えた彼女の下へと、最初に防空網を崩した場所から後続の竜騎士20騎程が追い付き、上空から単発式の火縄銃や飛竜の火球を放って周囲を制圧していく。
「大手柄だな、第二隊!この戦、勝てるぞッ!!」
「もうちょっと、早く来ればいいのに……」
「……そう言ってくれるな、うちの隊も矢雨の中を飛んできて3名程堕ちてるんだ」
「そう、ごめんね」
短く言葉を交わしたあと、第3小隊長の竜騎兵とその副官が跳ね橋を持ち上げている二本の鎖を緩めて橋を降ろすと、城門前に集まっていたリベルディアの突撃兵達が城塞都市へと雪崩込んでいく。
その様を眺めながら、都市ワルドを護る騎士長ゼルライトは顔を手で覆って天を仰いだ。都市内には衛兵達が日頃常駐する小城もあり、第二の城壁として機能するが、防衛のために都市へと集った各地のミザリア領兵1400名程を収容できるはずもない。
なお、少数で立て籠もったところで、バリスタの数も少ない小城では被害が増すばかりだ。さらにこの場を凌いだところで、大損害を出せばミザリア領に先は無い。
「……………… 撤退だ、ベイグラッド様と合流しよう」
「ッ、分かりました、城塞各所に伝達します」
「あぁ、城壁のバリスタは全て燃やしてくれ、次に来る時は味方に吸血鬼の飛兵もいるからな」
そう命令を出した彼は周囲の者達を纏めて北門からの撤退を始め、リベルディア軍は一夜にして城塞都市を攻略する事に成功した。
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