魔王、いいように弄ばれる
そんな感じで射撃訓練を終え、改めて見えてきた問題もある。
基本的に人狼族は身体能力の高さで闘争を生き抜いており、武器は拳とかぎ爪だ。本能的に逃げるモノを追いかける習性から飛び道具の類も好まない。結果、命中精度がすこぶる悪かった。
そこで考えたのが人狼突撃兵という運用方法だ。
つまり、当たらないなら近づいて撃てばよいという発想転換である。元々、俊敏な動作で弓矢を躱し、一瞬の隙を突いて近接戦闘に持ち込む彼らだ。それを踏まえれば、銃の命中精度が十分となる距離まで近接する事は難しくないだろう。
(そもそも、攻撃の射程自体は延びているからな)
一方でスカーレットを含む吸血鬼達は玄人志向だ。扱いが難しかったり、上手く出来なかったりするものに興味を持ち、その腕を上げようとする。1発撃っては考え込み、互いに意見を躱し合った後、その内の一人が黒い靄のような翼を展開してAZ-47を手に飛翔した。
彼らは背に魔力の翼を作り上げ、風の魔法を駆使して空を駆ける飛兵であるため、自分たちの得意な形で運用できないか試しているといったところか……。
弾丸が勿体ないのでセーフティーをかけさせた上、ヴィレダが率いる人狼族にはAZ-47を保持した状態での素早い動作や跳躍をさせ、スカーレット率いる吸血鬼達は飛翔状態から狙いを付ける訓練を集中的にさせていく。
そんな折、ひょっこりとリーゼロッテが訓練場へやってきた。
「おぉ、皆、励んでおるようじゃな! 良いことじゃのぅ」
「どうしたリゼ、訓練場ほどお前に似合わない所もないだろう?」
「つれないのぅ、寂しいのじゃ。折角、これをやろうと思ったんじゃが……」
その彼女の掌には先程から見慣れたもの、消費量を気にしていた弾丸が在る。
「早いな、おい!? 昨日の今日でできたのか?」
「ふっ、妾にかかればこんなものなのじゃ! そもそもレオンよ、これの外装金属は既知であるしのぅ、鋳型さえ作ってしまえばどうとでもなるのじゃ。じゃが、残念ながら火薬は黒色火薬じゃ…… アンモニアが、アンモニアが手に入らんのじゃ!」
何やら可愛らしく憤っているが、俺にはアンモニアが火薬製造にどう絡んでくるのか分からない。
「“はーばーぼっしゅ法”は理解できても、この世界ではハードルが高すぎるのじゃ。アンモニアさえできれば、空気から火薬や肥料も作れるし、良い事ばかりなのじゃが、うぅ……」
「あぁ、そうだな (よくわからないが……)」
「因みに、弾丸の点火薬は雷酸水銀なのじゃ。硫黄と硝石から硫酸を作って、それと硝石で硝酸を作ったものに水銀を溶かしてアルコールで処理すると結晶が取れるでのぅ。さぁ、試してみるのじゃ!!」
(理解できない話ばかり聞いて、矢鱈と不安になってきたな)
だが、リーゼロッテはもはや断る事が出来ないくらいに期待を込めた目をしており、仕方ないので弾倉を引き抜いて試作弾丸をセットした。
「……侭よ」
覚悟を決めて引き金を引くと、何事もなく普通に弾丸が射出されて訓練場の壁面に弾痕を残す。
「うむ、上出来じゃ! 素材さえ揃ってしまえば複雑な構造ではないのじゃよ♪点火薬の雷酸水銀は環境の問題もあるでのぅ、改良が必要じゃがの」
「よくできているな、大したものだ…… ありがとう、リゼ」
「良いんじゃよ、褒美はもらうからのぅ」
最近の彼女は地球の製品に興味が尽きないようで、今度は何を強請られるんだろうかと思いつつ残りの訓練を終えたその夜、明日に備えて寝ようとしたところにリーゼロッテがひょっこりと寝室を訪ねてくる。
「ん、何か俺に用でもあるのか?」
「ふふ、それはのぅレオン…… 褒美を貰いにきたのじゃあ~!」
唐突にリーゼロッテがダイブして来て、ベッドに押し倒されてしまった。身体の上に乗っかり、覗き込んでくる彼女の藍色髪が滝のように流れ落ちて頬を優しく撫ぜる。
「任せておくのじゃ、レオン。昔のように妾がリードしてやるからのぅ」
「ちょ、待てッ!?」
「待たないのじゃあ~♪」
強引に跳ね除ける事はできたが、気が引けてしまった事もあり、彼女の良いように弄ばれてしまう。
……………
………
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