城塞、攻撃に備える
押しに弱い魔王が吸血姫に襲われていたその夜、リベルディアの歩兵連隊二千数百名が国境を越えて城塞都市ワルドに迫っていた。
煌々と暗闇の山間部に灯る松明の光を眺め、城塞都市の防衛を任された騎士長ゼルライトが南門に集められたミザリア領兵達に激を飛ばす。
「ドラグーンどもは何処から飛んで来るかわからんッ、如何に犠牲を減らせるかはバリスタの射手次第だ!一騎打ち落とすごとに弩兵隊へ酒樽をくれてやると伝えろッ、ただし全てが終わってからだがな」
「はッ、伝達してまいります」
頷いた若い兵士が走り出すのを見送り、今一度だけバリスタの配置を振り返る。リベルディア兵が侵攻してくる南側に当然多く配置しているものの、手薄な方面を作ればそこを突かれてしまうため、集中的な運用はできない。
(となれば、狙って当てるしかない…… 期待はできないな)
実際のところ、取り回しの悪い弩弓で素早く動く飛竜を仕留めるのは難しく、故に先程は一騎落とす毎に報酬をくれてやると豪語した訳だ。
「奴らが正面から猪突猛進してくれたら有難いんだがな……」
「それはあり得ないでしょう、ゼルライト様」
「有難いどころか、弩兵達にくれてやる酒代で破滅しますよ」
周囲を固める騎士達が上官の言葉に軽口を叩き合うが、これが初陣となる若い騎士は不安な表情を隠せない。
「援軍の到着まで後6日程と聞きました…… 持ちますかね?」
「味方の被害や城壁の破損は避けられないが、何とかなるだろう」
確かに斥候より報告のあった中隊規模のドラグーン部隊と彼らが用いる火薬は脅威である。それでも6日程度で敵国を長年抑えてきた城塞都市が落ちるとも思えない。
さらに言えば、中核戦力である敵歩兵連隊がばらして運んできた攻城梯子や小型投石機を組み立てるまでの日数も掛かる。
(それに連中の作業を大人しく見守ってやる事もない)
既に数日前から弓兵を核とした中隊を少々離れた山林に潜ませており、いざ攻城兵器の組み立てが始まれば火矢で横やりを入れてやる手筈になっていた。
副次的な効果で城塞外の山林から奇襲があり得ると相手に印象付ければ、心理的負担を与えて攻め手を緩ませる事も可能かもしれない。
色々と画策を行うゼルライトであったが…… 前提条件として攻める側は余程の愚か者で無い限り、勝算を立てているものだ。
夜の内に城塞都市まで接近して包囲陣を敷き、攻城兵器を用意してから城塞に挑む。なんて事を敵方の指揮官は考えている訳では無い。
寧ろ、何も考えていなかった。
「フレスト師団長、私は何故ここにいるのだろう?」
「…… 王子、貴方が次代のリベルディア王となる為です」
「私は争ってまで、父上の後を継ぎたくない」
第三王子であるアルフレッドは嫌そうに言葉を濁す。
「重々承知しておりますとも、ですが素行に問題がある第一王子や、浪費癖が治らない第二王子に国政を纏める事が出来るとも思えません」
対外的に伏せられているものの、実は半年前からリベルディア王は大病に臥せっており、王宮では王位を巡る争いが起こっていた。
竜騎士達を配下に持つ第一師団長を務めるフレストからすれば、どう考えても良識派の第三王子一択にしか思えないのに王位継承権という現実の壁が其処にはある。
そこでシュタルティア王国内で起きた魔族による騒乱を機に、兼ねてより因縁のある城塞都市ワルド攻略の指揮を第三王子が執るように仕向け、大きな手柄を上げさせようというのだ。
それらの事情もあり、実質的にリベルディア兵達を率いるフレストは勝つための策を弄していた。
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