魔王、馬に蹴られない様にする
何やらハイテンションで部品の統一規格によるミザリア領内における工芸品生産の効率化、それらの補修の容易性向上をレドリック少年が語り出し、父親であるゲオルグが押され気味に頷く。
「それに工芸品の中には武具や農具も含まれますから、結果的に軍備増強や農作物の生産性向上にも資するわけですッ、さらに長期的には効率化によって得られた時間で……」
「あれは、リゼと本当に気が合いそうだな……」
「そうですわね、おじ様」
若干、疲れた表情で遠くを眺めるスカーレットを一瞥する。
一瞬、瞳をキラキラさせながら開発成果について、仲良くマシンガントークをしてくる二人の光景が脳裏を過り、リーゼロッテとレドリックに面識を作らせない様にしようと密かな決意を固める。
ただ、“類は友を呼ぶ” とも言うので、今や我らの拠点であるノースグランツ領とミザリア領が歩みを共にすれば、きっと何処かで出会ってしまうのだろう。
(仕方あるまいか…… ん?)
ベイグラッド家の者達が雑談する様を眺めていると、視界の端に邪魔とならず、無視もできない絶妙な位置取りで、野盗に襲われていた商隊を助けに行かせた魔人の姿が映る。
何か用件があるのだろうが……
「ご苦労様でしたね、グレイド卿…… して、そのご令嬢は?」
俺の疑問をスカーレットが代弁してくれる。何故かグレイドにはシルバーブロンドの髪を持つ若い娘が腕を絡めてぴったりと寄り添っていた。
「王命により、助太刀した商人の娘に御座います」
「初めまして魔王様、リディア・ディルトと申します。先程は窮地を救って頂き、本当にありがとう御座いました」
姿勢を正して、ぺこりと頭を下げる歳の頃16前後の娘から少し離れた後ろでは、父親らしき中肉中背の商人風の男も深く首を垂れる。
「構わんよ、袖振り合うも他生の縁というやつだ」
「その寛大な御心に感謝します (袖を振ると縁? 魔族の慣用句でしょうか……)」
よく分からないなりにも笑顔で謝意を示し、少し退いてグレイドの後ろに商家の娘が半身を隠すと、日頃はポーカーフェイスな魔人は少々気まずい表情を覗かせた。
「このディルト家の者達から誠意を示したいと…… 如何致しましょう」
「遠征軍の皆様をもてなす事は難しいですけれど、直接に助けて頂いたグレイド様やガイエン様を当家にお招きしたいのです……」
ベイグラッド家と面識のあるガイエンは俺達と一緒に都市ブレアードの城へ滞在する予定で、野営地の統括をグレイドに任せようと考えていた事もあり、少々思案していると隣の吸血姫から耳打ちされる。
(野営地の管理はヴィレダとベルベア、各小隊長たちで事が足りますわ。彼らとて魔族の将ですから…… それに “他人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られる” のでしたっけ?)
可愛く小首を傾げながら頬に人差し指を添えて、彼女はリディアと名乗った娘に視線を投げる。
(むぅ、やはりそうなのか…… あからさまに腕を組んでたからな)
確かグレイドの妻は160年程前に病死したと聞く、それに子息のシューレも既に独り立ちしており、浮いた話の一つぐらいあっても良いかもしれない。
「人間達との交流も必要だ、好きにして構わんが…… ゲオルグ殿と遠征の話を詰める必要があるから、ガイエンは此方に来てもらうぞ?」
「わかりました、ではグレイド様をお借りしますね♪」
「失礼致します」
寧ろ、スカーレットの見立てだとガイエンは邪魔もの扱いだろうし、上機嫌でリディア嬢はグレイドの手を取って商隊の中へと引き返していく。
「ああ見えてグレイド卿は押しに弱いですからね、既成事実ができて帰ってくるかもしれませんわよ、おじ様♪」
「奴の好きにすればいいさ……」
長命種の魔族はその長い人生で何度か妻を娶る事も普通で、都市ブレアードから出る際にもグレイドからリディア嬢との婚約報告を受けるのだが、その話は少し後の事となる。
そして、此方が話を纏めている間にあちらも話が終わっており、彼らの案内で護衛として散弾銃ブローニング BT98で武装した人狼突撃兵の十数名を連れ、俺とスカーレットは都市の北側に建つ城へと歩を進める。
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