青銅娘、同類を見つける
「よく来てくださいました、魔王殿!」
「あぁ、久しいな……」
護衛達を押しのけて姿を見せたミザリア辺境伯の次男坊と短く挨拶を交わすと、隣に立つガイエンから酷く不機嫌そうな声が届く。
「これはクリストファ殿、地下ダンジョン遠征の際は大変お世話になりましたな…… 何も伝えられず野営地に置き去りにされたお陰で、良い勉強をさせて貰いましたぞ」
以前、俺達が都市エベルを占拠した直後、そこを中核とするノースグランツ領の将兵達の離反と魔族の攻勢を警戒し、撤退の時間を稼ぐためにクリストファは件の領兵を率いるガイエンに策を弄した事がある。
そのせいで、何も知らされずに地下ダンジョン周辺の森付近に取り残されてやっと事態を把握するという失態を彼らは晒したのだが……
「あの時は申し訳ありませんでした。私も自身に付き従うミザリア領兵の命を預かっておりましたので…… きっとガイエン殿も同じ立場なら同じ事をしたでしょう?」
壮年の騎士長の鋭い視線を受け流して、クリストファは悪びれもせずに言ってのける。
「ふん、所詮は過ぎた話だ。ただ、今回も我らを謀ったら……」
この援軍遠征に際して同様の事が起きない様、釘を刺そうとするノースグランツ領の騎士長を遮って、次男坊の斜め後ろで足を止めたミザリア辺境伯が言葉を挟む。
「…… ガイエン殿、今までリベルディアとの国境紛争で多くの血を流して来た我らが連中と通じているとお考えか?」
鋭い眼光でノースグランツ領の騎士長を黙らせたミザリアの領主ゲオルグが視線を転じ、状況を察して傍に寄って来たスカーレットや俺と対面する。
「魔王殿、此方が父のミザリア辺境伯ゲオルグ・ベイグラッドに御座います」
「援軍に感謝する、魔王殿」
「下手をすれば此方に飛び火するし、対価は貰うので構わんさ」
「…… 慈悲深い我が王に感謝なさい、人間」
無駄に尊大な態度で豊満な胸を反らすスカーレットはいつも通りの平常運転で、長年に渡り敵対してきた人間達には基本的に見下した態度を取る。
まぁ、性根は良い子なので最近は総論反対、されど各論賛成の考えとなっていて、人間種全体を嫌っていてもイルゼやマリなどの個人単位ではそうでもない。
(でもな、初対面の人間を無駄に威圧するのは勘弁してくれ……)
今も彼女は濃密な魔力をまき散らしており、ゲオルグ達を威嚇していた。その視線を真正面から受けながらも委縮する事無く、ミザリアの領主が謝意を述べる。
「勿論、感謝しているとも。今回は正直厳しい状況であったからな」
「そうですね、父上」
「ん、分かっていれば良いのです」
取り敢えず、スカーレットの初対面の人間に対するいつもの通過儀礼が終わり、一息ついたところでこの場に似つかわしくない少年の元気な声が野営地に響く。
「班長、このサスペンションのボルト、緩んじゃってます!!」
「うぅ、やっぱり振動がある部分はそうなるのですぅ」
「締めときますよ♪」
「頼むのです、レド君」
何故かエルミア率いる青銅のエルフ整備班にさらりとした金髪が眩しい12歳ほどの美少年が混じって、4WD蒸気トラックのメンテナンスに参加していた。
「しかし、デフロック機構ですかぁ、カッコイイですね!!」
「ふっふ~、それのお陰で前輪と後輪の回転差が吸収されるのです♪」
「分解して良いですか?」
「ん~、レド君にはまだ早いですぅ」
(くッ、余りに馴染んでいて突っ込むのが遅れただと!?)
我に返って、仲良く機械弄りをしながら笹穂耳をぴこぴこさせている青肌エルフ達を糺そうとするも、意外な御仁に先を越される。
「…… レドリック、大人しくすると言うから連れてきてやったはずだが?」
「だってお父様、目の前にこんな素晴らしい技巧を凝らした芸術品があるんですよ!我慢できるはずがないじゃないですか!!」
機械油で白い頬を汚しながらも満面の笑顔で、スパナ片手に掌へと乗せた複数のボルト&ナットをずずいと見せてくる。
「これ一つにしても、僕たちはとても劣ってます。見てくださいよ、彼らの使用する全てのボルトとナットのサイズが用途に合わせて統一されているんですよ!この事実がどれだけの意味を持つか…… お父様やクリス兄様なら分かりますよね!!」
「はぁ、わかったから落ち着きなさい」
どうやら彼もゲオルグ殿の息子らしいが、諫められても興奮冷めやらぬ様子で小難しい話を続けるその姿は何処かリーゼロッテを彷彿とさせた……
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