魔王、野営用テントに拘りを持つ!
「着きましたですぅ~、魔王様♪」
満面の笑顔で操縦を堪能したドローンのバッテリーを魔導式蒸気発電機に繋げ、赤熱の魔石に魔力を送り込んで充電しながら、エルミアが中継地点の都市ブレア―ドへの到着を告げる。
「さて、ミザリア領の中核都市に至ったわけだが……」
戦時招集をかけているとは言え、都市ブレア―ドの各所に配した兵の数は1個大隊600名程度だろう。やり様によっては現有戦力の1個中隊300余名で制圧が可能な訳だ。
ぞろぞろと武装した魔族を率いて都市の中に入る訳にも行くまい。
「おじ様、野営の準備にはいりますけど、よろしいでしょうか?」
「あぁ、そうしてくれ…… ヴィレダ、準備が終われば飯だぞ!」
「ご飯、ご飯、夕ご飯♪ 皆ッ、さっさとやるよ!」
「……… お腹…… 空いた… 急ぐ」
本日最初のまともな発言がソレなのは如何なものと思うぞ、ベルベア……
ともあれ、スカーレットの全体指揮に従い、至極個人的な理由で黒髪赫眼の黒狼娘が人狼兵達をテキパキと指揮し、スノーピック社製のテントを組み立てていく。
スノーピック社は登山具の老舗製造会社であり、創業者自身がアウトドアマンとして欲しい物を作り出した経緯から愛用者も多い。本社が自然あふれる場所にあって、時には野外に張ったテントから社員が出社するという筋金入りの優良メーカーだ。
何故そんなに詳しいかって?
社畜の頃、会社に缶詰めになっていた反動か、システム開発の区切りが付けば自由を求めて大自然へと旅立っていのさッ!!
そんな訳で藤堂氏から今回の遠征に合わせ、かなりの数の同社製品を取り寄せてもらっていた。この世界の移動式テントよりも遥かに合理的で持ち運びやすいからな。
(まぁ、それでも全員分とはいかない……)
行軍に際しては武器、弾薬、食料などの多くの物資が必要であり、いくら蒸気機関式4WDトラックや小荷駄馬を有していても限界がある。基本的には階級の高い者や傷病者が優先的にテントを使用し、あぶれた者は防寒具を纏って焚火を囲んだりするのだ。
ある意味、獣化すれば天然のモフモフを纏う事ができる人狼族は便利だなと思いながら、尻尾をフリフリして大鍋を持ち出した銀狼娘を眺めていると、都市外縁部の街並みから衛兵達が近付いてくる。
その中には都市エベルの小城で会ったベイグラッド家の次男坊の姿も見えた。
「ということはつまり、あの中心で護られているのが……」
「えぇ、ミザリア領を治めるゲオルグ・ベイグラッド卿です」
いつの間にか本隊に合流して此方に戻ってきていたガイエンの耳打ちを聞きつつ、俺は白髪交じりの壮健な顔つきの男を見据えた。
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