商人娘、画策する
その街道を進む二頭立て馬車に揺られ、何やら無言で思索に耽る商家のご令嬢がひとり…… 彼女の脳内では様々な思惑が流れていく。
(先ず、申し訳ありませんけれど……ノルド男爵との縁談は止めてもらいましょう)
つい先程まで、その相手と結婚する前提で得られる利益を鑑み、自身を納得させようとしていたリディアであるが、妥協は良くないと密かに考え直していた。
その切っ掛けとなった二角獣の騎士が窓から見える位置を通り過ぎ、ふと視線を奪われる。
(ッ、凛々しくて端正な方ですが…… 恋は盲目とも言います)
一度、軽く息を吐き出して再度、思考を加速させていく。
彼の御仁…… グレイド様は外見こそ人ですけど素養の低い私でも感じ取れる強い魔力の波動、魔人族と判断して間違いないでしょう。
そして、ガイエン様との気安いご様子を思い返せば、現状のノースグランツ領で騎士長に相当する地位があると推測できます。
(魔族での立ち位置も気になりますし、既に奥様がいらっしゃる可能性もありますけど……まぁ、関係はありませんね)
所詮は商家の娘ですから、有力な相手であれば妾でも構わないのです。それよりもグレイド様が人外種族だという根本的な部分が気に掛かります。
ミザリアの領主様が魔族の占領下にあるノースグランツに援軍を要請した以上、この地で商う私達ディルト家も何某かの影響は受けるのでしょうが……
(積極的に彼らと縁を持つとなれば話が違ってきます)
ちらりと向かいに座る父親を見遣ると、彼女と同じく何やら考え込んでいる様子。
(まぁ、お父様の事ですから…… いつも通り商売の事でしょうね)
私から見ても父は商魂逞しく、今も都市エベルに導入されつつある蒸気機関や噂のテラ大陸という地から輸入される数々の品を考えている事が推し量れます。
父は金銭欲以上に人々が求める物を駆け回って探し出し、手元に届けて笑顔になってもらう事へと情熱を傾けている節があります。
かつて都市レクトで伝染病が流行った際、不死王領域の王都アウラで買い付けた薬が偶々、高い効果を示して街の人達から涙ながらに感謝された事があるそうで…… 母の話ではそれを境に性格が一変したとか。
“自他共に喜べてこその商い” を信条とする些かお人好しな父のお陰で彼女は商人という職業を誇りに思っており、故に大事な話はちゃんとしておかなければと考える。
(さて、此処が正念場です)
「お父様、少しお話が……」
気合を入れて声を掛けたリディアであるが、実はマルコもノースグランツ領とそこに棲まう魔族たちとの繋がりを求めていた経緯もあり、殊の外に彼女の想いは肯定されて……
結果、商人の親子が都市ブレアードに帰り着いた際には二人とも満面の笑みで馬車を降りるのだった。
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