魔王、間接的に様子を覗う
「あ、魔王様、終わったみたいですよ~♪」
未だ、エルフに特徴的な笹穂耳をピコピコとさせながらエルミアはPhantom9をご機嫌で飛ばし、光学式望遠レンズが捉えた映像を手元のコントローラーに備え付けられた専用ディスプレイで確認する。
「状況はどうなのです、エルミア」
つい先程、グレイドが展開した転移魔法に反応してうたた寝から目覚め、軽く伸びをしていたスカーレットが少々乱れたブロンドの髪を整えながら尋ねた。
「ん~、街道沿いの林の中まで分かりませんけど、見える範囲では撃破4、捕虜6ですぅ。後、此方に損害は有りませんけど…… 商隊の馬さん4頭が負傷なのです」
「如何致しましょう、おじ様?」
ふむ、旅先で病気や負傷をして動けなくなった馬は連れて帰る事も不可能なので、その場に捨て置くか、苦しませずに安楽死させるわけだが……商隊ともなれば馬車の積み荷もあろう。
「グレイドは治癒魔法を使えたか?」
「そうですね…… 彼の奥方が御存命の頃、患った大病を治療できないかと治癒系魔法の研究をしておりましたので心得があると思いますわ」
当然ながらに治癒魔法は万能な訳ではない。負傷に効果はあっても致命傷を受けて著しく生命力を失った者を癒す事は出来ないし、病に於いても効果があるものは限定される。
特に悪性腫瘍などの代謝異常を患っている場合は悪化させる事も…… 恐らくは亡きグレイドの妻も手の施しようの無い病気だったのだろう。
「そうか、ならば予定通りに任せておこう」
「じゃあ都市で合流だね、イチロー、はむッ♪」
「~~♪ (うまー)」
銀と黒の人狼娘達が何を食んでいるかと言えば、4WDピックトラックの荷台に積んであった食料の中から干し肉を取り出して適当にぶつ切りしたものだ。
相応に硬いはずだが彼女達の牙と顎の力の前では無意味で、直ぐに腹の中へと消えていく…… これで夕食まで静かにしてくれればいいんだが。
ヴィレダとベルベアを一瞥した後、俺は遠方に小さく見えるミザリア領の中核都市ブレアードに視線を流した。
……………
………
…
着実に行軍していく遠征部隊から数キロ先、彼らが進む街道とは別の経路の途上では件の魔人グレイドが治癒魔法の術式を組み上げて、柔らかく暖かな魔力の籠った風を吹かせていた。
それは矢傷を負い、転倒して足を挫いた馬達に纏わりついて負傷を癒していく……
「おぉ… ありがとう御座います、騎士様!これで大きな損失を出さずに済みました。いやはや、馬4頭ともなるとかなりの痛手だと落ち込んでおりましたので……」
流石に商家の家長であるマルコはこの二角獣を駆り、大規模な魔法を行使する銀髪の騎士の正体が魔人だと気付いているが、警戒する様な態度を一切見せずに陽気に接する。
内心ではそうでも無くともだ……
一応、ご領主がノースグランツ領の魔王に援軍を求めたという話は聞き及んでいても、相手が尋常ならざる者だとすれば油断する訳にはいかない。
その心配を他所に彼の愛娘であるリディアは互いに挨拶を済ませたばかりの初老の騎士に問う。
「ガイエン様、あの方は……」
「ん、グレイド殿か? さては惚れたな、お嬢さん」
「ッ、えっと……」
彼女は頬を染めてやや俯いてしまう。それは都市エベルの若い娘たちの一部が警邏に出た彼の魔人に対して見せる反応と同じだ。
(人に近い姿形をした魔族というのは大抵容姿が整っておるからな、イルゼお嬢様も……)
時折、魔王殿に向ける視線に同様のモノを感じていたガイエンは思わず溜息を吐き、それにグレイドが反応して問い掛ける。
「如何した、ガイエン殿?」
「いや、なんでもありませんよ。それより、もう出発できますかな、マルコ殿」
「はい、大丈夫です。短い距離とは言え、護衛までして頂けて…… このお礼は必ずさせて貰います」
深く頭を下げた後に彼は娘を伴ってキャリッジに乗り込み、それを見届けた遠征軍の騎士達も騎乗し、一路都市ブレアードを目指した。
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