魔人、野盗を制する
今回は魔人グレイドがメインのお話です。
「我が王の命だ、私を恨んでも構わんッ」
装甲を施した二角獣の手綱を左手で繰り、突撃槍を右手に握り込んだ魔人グレイドが野盗達を蹴散らしながら駆け抜ける。
「なぁッ!う、あッ……ぅッうう…ッ」
「ひッ、うぁああッ、あがッ!?ぁ…ぅ……」
すれ違いざまに繰り出された槍撃は野盗二人を革鎧ごと貫いて致命傷を与え、彼らを串刺したまま力強い二角獣の走りと共に連れ去っていく。
「ふッ!」
短く呼気を吐いた魔人は乗騎を旋回させながら得物を真横に一閃し、衝突の慣性が衰えて重量を増していく槍から野盗二人を振り払うが…… 小気味良い音を鳴らして柄が折れてしまった。
「ふむ、軽量化し過ぎたか…… 後で青銅のエルフ達に報告が必要だな」
「な、な、なんだ、貴様あぁああッ!!」
突如、転移門から現れた二角獣の騎士に唖然としていた野盗の頭目が我に返り、討ち捨てられた仲間の姿に青筋を浮かべて、怒鳴りながら掲げた手を振り下ろす。
その合図で少し離れた林から援護射撃が行われるはずだが……
「な、何故だッ!!ええいッ、くそッ」
焦りを浮かべた頭目が再度、手を振り上げる様をグレイドは冷ややかに見詰める。
「既にガイエン殿が対応済みだ…… 遠見の魔法で丸見えだったぞ」
「ぐううッ、頼りにならん奴らめ!」
頭目が街道沿いの林を睨みながら悪態を吐くと、そこから野盗達の弓使いを倒した五名の騎士達が姿を現す。
近くで見れば、その騎士鎧に刻まれたリースティア家の紋章に気付くだろう。今回の遠征に同行して調整や折衝を行うノースグランツ領の騎士長ガイエン・オルニクスとその配下だ。
彼らを含む援軍に商隊護衛のうち矢傷を受けてない剣士達を加えても、残りの野盗達と頭数は同じだが…… 装備や技量の差が著しいため既に野盗達の勝ち目は無い。
「お、お、御頭ッ、無理だ!」
「林の連中はもう殺られちまってッ、ぐげッ!?」
「お、おまッ、ぐぶッ……ッあぁ……」
青白い顔で狼狽える野盗達の隙を突き、商隊護衛の剣士二人が斬り込んで、それぞれ野盗達の胸板と脇腹をロングソードで貫いて絶命させた。
「ひッ、きゃあああぁッ!?」
飛び散る血飛沫に若い娘の叫びが響く中、負けじと野盗の頭目も怒鳴り散らす。
「くそがッ、お前ら逃げ、うぉ!?」
最後まで言わせる事もなく、スキンヘッドを掠めて裂傷を負わせながら、グレイドが放った魔弾が彼方へと飛んでいく。冷や汗を浮かべながら頭目が見詰める先では、二角獣の周囲に自分達と同数の魔弾を浮遊させた魔人が泰然としている。
「…… 全滅するか、降伏するかを選べ。どちらでも良いが…… ただ、余り血を見せるのも気が引ける」
「あっ……」
へたり込む薄紅色の服装の娘と一瞬だけ視線を合わせ、すぐさまグレイドは野盗達へと注意を戻し、無言で返答を促す。
「わ、わかった、降参する」
「そりゃそうですね、死にたくないですし……」
率先して、武器を投げ捨てて両腕を上げた頭目に続き、護衛の剣士と睨み合っていた野盗なども次々と得物を投げ出して降参を示していく。
「後は任せてよいか、ガイエン殿?」
「承知した…… 商人、縄はあるか?」
「はい、直ぐに用意します、ノースグランツの騎士長様」
「む、貴殿、面識があったか? すまない、覚えておらんのだ」
自身の立場を知るような商人の反応に歴戦の騎士が首を捻るが……
「いえ、商いで都市エベルに寄った際にお見受けしただけです」
「そうか、ならば良い」
それだけで顔と名前を憶えている辺り、商人としてマルコは逞しいものである。事実、野盗達に襲われて馬を使い物にならなくされ、実質的に此処に置き捨てていくしかないという損失を出したものの、転んでも唯では起きるつもりはない。
心の中でこの縁をどうにか商売に繋げられないかと算段する父親の考えなど知らず、リディアは風貌の整った銀髪の魔人を熱の籠った瞳で追いかけていた。
”皆様に楽しく読んでもらえる物語” を目指して日々精進です!
ブクマや評価などで応援してくれれば、本当に嬉しく思います!!




