魔王、階層奪還に向けてブリーフィングを行う
その翌朝、早朝から人狼小隊18名、吸血鬼小隊18名、コボルト小隊20名を集めてブリーフィングを行う。場所は青銅のエルフ達の工房区画から見て反対側に位置する訓練場だ。
「皆、資料は行き渡りましたね?」
スカーレットが紙束を掲げて皆を見渡す。そのワープロソフトで作成されたA4サイズの用紙には“部外秘なのじゃ!”という自己主張の強い横長スタンプが押されていた。
「では“ぶりーふぃんぐ”を始めます、先ずは現状の確認から…… ゼルギウス、お願いします」
「皆様、手元の資料に記載されているように、先の戦闘で我らはギリアム様を含む人狼兵17名、コボルト兵20名、魔人兵2名を失いました」
なお、魔人というのは外見が人間と同じであるものの、魔力が高くて非常に長命である種族だ。人に混じって暮らせない事も無いが、外見年齢がいつまでも変わらないので、一所には留まれない。
実は俺の出自も魔人族だったりする。
「ただし、シュタルティア王国の人間達にも少なくない損失がでています。故に現在は地下30階層にて拠点を設営しながら、後続を待っているとの報告が31階層の守備隊から来ております」
「シュタルティア? 聞いた事が無い国だな」
「イチロー様、旧魔族の支配地域にこの300年で新興の国が幾つかできています。シュタルティアもその一つで、このダンジョンを含む領土を主張する国です」
顔を耳元に寄せて小声で説明してくれたスカーレットに頷き、再びゼルギウスの言葉に耳を傾け、概要の説明が終わるのを暫し待つ。
「…… 以上の事から、明日には地下30階層の奪還を行う事になります。つきましては、今日はそのための準備をコボルト達が、手元の資料にあるAZ-47の射撃訓練を人狼と吸血鬼達で実施します。これでよろしいですかな、お嬢様」
「ありがとう、ゼルギウス。では、人狼と吸血鬼の皆さんは残ってくださいね、事前知識なしに銃器を触るのは危ないですので、先ずは座学から入ります」
無言で頷いた人狼と吸血鬼たちが手元の資料を捲ると、そこには銃器の基本原理や構造、取り扱いの注意点などが記載されている。
そして、俺も昨日勉強したばかりの初心者なので、リーゼロッテが纏めた資料に目を通していくが…… 文章の語尾が所々“のじゃ”になっているので読みづらい。
「う~っ、あたしには分かんないや、ベルベアはどうなの?」
「…… (フルフル)」
相変わらず、黒狼の彼女は無言でジェスチャーをする中、おもむろに若手の吸血鬼が質問をしてくる。
「姫様、AZ-47とやらの矢じり…… いえ、弾丸はどれくらいあるのでしょうか? 弾倉というものが理解し難いのです」
「良い質問ですね、オルグ」
「はっ、ありがとう御座います」
躊躇いがちに質問したところ、何やら褒められた吸血鬼が嬉しそうに傾注の姿勢となった。
「弾倉は矢筒だと考えてください。1個に付き、30発の弾丸が入っています」
「なんと、ここに30発もの弾丸が!?」
「ただ、これから配るAZ-47に元から付いていた弾倉にどれだけの弾が残っているのか、その詳細は不明です。鹵獲品ですからね…… 一応、予備弾倉が一人に付き1個支給されます」
そろそろ、具体的な実技に入るため、スカーレットに目配せをして自然な形で後を引き継ぐ。
「予備弾倉があると言っても、単射で撃たないと弾丸が一瞬でなくなるぞ。それとセレクターはセーフティーにして渡すから、暫くは触るな。あと、決して誰かに銃口を向けるなよ!」
手元のAZ-47を掲げてスカーレットと立ち位置を代わり、皆の前で昨日の練習成果を披露する。
「最初にマガジンキャッチを押して、弾倉を取り出して残弾を確認する。それが済めばマガジンを戻して、コッキングレバーを引くわけだが、このモデルはセーフティーになっているとレバーが干渉するので……」
延々と取り扱い方を説明した後、暴発を警戒して魔法障壁内で各自に取り扱いを練習させ、何とか射撃訓練に辿り着いた。
一番手を担当したのは人狼の青年だったが、タァアアーーンという音と反動にピンとそのケモ耳を立たせていたのが印象的だ。
なお、ヴィレダが遊び感覚でトリガーハッピーの如く撃ちまくったので、思ったよりも弾丸を消費してしまう。
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