魔王、戦は準備が長いと思い出す
一通りの方針が決まれば、後は実際の準備に移る。
当面の最大の問題は約一月後に魔族の混成中隊300名が装備や糧食を持って城塞都市ワルドに到着しているか否かだ。因みに転移ゲートを使えば一瞬で到着するが、コツコツと溜めてきた俺の魔力が吹っ飛ぶので却下だ。
最悪、ゲオルグ・ベイグラッドが失態を犯してミザリアが敗北する場合は転移で逃げる必要があるし、留守中に何某かの予測不能な事態が地下ダンジョンを含むノースグランツ領にあった場合にも備える必要がある。
などと考えながら、都市エベルの魔族区画に併設した駐機場へと向かう。
「進捗はどうだ、エルミア?」
「魔王様!お疲れ様です。もうバッチリですよぅ、見て下さい!この魔導式蒸気機関搭載の4WDピックアップトラック達を!!」
によによする青銅娘の指差す先には先行して組み立てられた2台のト〇タのピックアップトラックのデッドコピー品があり、背後ではさらに2台の組み立てが行われている。
「4WDか…… 開発計画は以前からあったが、前輪と後輪の同期はどうなっているんだ?」
前輪と後輪の回転数を同期させなければ各部に負荷が掛かり破損するはずだ。
「以前にトウドウさんに取り寄せてもらった機械式“せんたーでふ”を分解して、組み立て直す事を何度もやって構造を理解したので、今回は其れなのですぅ!あ、もちろん、オフロード想定で直結機構もありますよぅ♪」
「今回は移動距離が長いからな……大丈夫なのか?」
一応、率直な心配をぶつけてみた。
「試作機の走行テストは600時間で、24時間耐久テストやりましたけど、一技術者として大丈夫とか根拠のない事は言えないのですよぅ…… でも、魔王様?ミザリア領の南部山脈地帯までには悪路もありますから、馬力は要るのです!!」
運用予定の蒸気四輪駆動トラックは4台で、そもそも実地試験を兼ねているからな…… 積み荷も必須のものでは無く、余剰分を積み込むつもりではある。
「何事も挑戦か…… 」
「そうなのじゃッ!それにミザリア領の南部山脈までは平地を行軍経路に選んだからのぅ、そこまで “しゃふと” や “ぎあ” に負担はなかろう」
「あ、リーゼロッテ様、乙です~」
背後から掛けられた声に振り向くとそこには青肌金眼の年齢不詳エルフ娘と銀髪長身の魔人グレイドが佇む…… まぁ、気配で気付いていたがな。
「出立の挨拶に参りました。これより、麾下の魔人兵40名と共にノースグランツ領南端の都市リトルテに先行します」
「本隊の受け入れ準備と糧食などの集積管理、それに警護か……」
一応、原則としてミザリア領兵と合流以降の糧食はベイグラッド家がエルゼリス領から買い付けた分を回してくれる事になっているが、自前でも十分な量を用意しておくに越したことはない。
その為、中核都市エベルと第二の都市エルメリアからの物資がミザリア領との境にある都市リトルテに集められている。なお、物資や必要経費はイルゼ嬢に相談してノースグランツ領持ちという事にしてもらった。
兎も角、それらの物資の扱いもあり、先行して指揮を執る者が必要な訳だ。
「では、宜しく頼む。此方もそんなに待たせはしない」
「はッ、直ぐにでも都市リトルテに向けて立ちます」
既に旅装束となっている魔人族の長が一礼の後に辞する。
(さて、後すべき事は何だったか……)
「なぁ、レオン、戦は事前の準備が大変じゃのぅ……」
確かに戦闘自体が1日だけで終わる事もあり得るが、入念な準備を怠るものに勝利はない。
「まぁ、そんなものさ…… 直に俺も此処を出る。留守は任せたぞ、リゼ」
「ん、任されたのじゃッ」
彼女とイルゼ嬢にノースグランツ領を託して、明後日に遠征軍を率いて俺は都市エベルから出立し、その二日後に都市リトルテにてグレイド達と合流する。
そして、物資の補給を済ませた後にミザリア領内へと足を踏み入れたのだった。
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