天狼、軍議を取り纏める
「これで戦術的な部分に関して大体の理解が済んだな……ヴィレダ、纏めてくれ」
「ん、任された」
銀糸の髪から覗くケモ耳をピンと立たせ、天狼娘が応接室に持ち込まれた某大手文具メーカー製のホワイトボードの前に歩いていく。
其処にはミザリア領南部の地図がマグネットで張り付けられており、彼女は先ず山脈地帯の中程に位置し、長らくリベルディア騎士国を監視してきた城塞都市ワルドに複数の青丸のマグネットを張り付けた。
「ここが迎撃拠点のワルド…… んっと、それに対して“りべるでぃあ”?は南西の尾根を越えてくるはず」
確かその付近にリベルディアの水平坑道が幾つかあり、物資の搬入が確認されている。その事に触れながらも、ヴィレダはさらに険しい峰がある城塞都市ワルドの南東側を示す。
「えぇ、山岳部では進軍経路が読まれやすいですから、百名程度の伏兵を先行させて想定外の場所に潜ませておくのも手ですわ。というか、私ならやりますね」
「うぅ~、スカーレット、それあたしの台詞ッ!」
やや不機嫌になりながらも、彼女はそのルート上に赤丸のマグネットを幾つか張り付けた。なお、マグネットの一番大きなものが1000名の兵隊を表し、次が500名、最後の小さいものは100名を表すので、戦力差も視覚的に得られる。
「戦力分布はこんな感じで、これだとほっといても城塞と地の利を持つミザリアが守り切るけど…… さっきも言っていた通り、ドラグーンが相手にいるのが問題だよ」
「そうですね、ミザリア領では部隊運用できる数の飛竜はいませんから…… 勿論、私達のノースグランツ領にもおりませんよ?」
領内で一度も飛竜を見ていないから、イルゼ嬢に言われるまでもなく理解の範疇なんだが…… なお、ドラグーンの駆る飛竜が上空から吐き出してくる火球は脅威度が高い。
「…… 航空戦力の有無が戦局を左右するか」
「つまり、私と麾下の吸血飛兵で飛竜どもを蹴散らせば援軍としての面目が立って、ベイグラッド家に恩を売れるわけですわね、おじ様」
小首を傾げながら、俺達の軍事的な目標を確認してくるスカーレットに頷き、再度ヴィレダに視線を戻す。
「こんなところだよ、イチロー」
「ありがとう、ヴィレダ」
説明を終えた彼女が傍にきて頭を突き出してくるので、とりあえずポフポフしておく。
「~~♪」
(くッ、皆の前では避けたいのだが……)
周囲の目を気にする俺の視界を挙手するグレイドの姿が掠める。
「一つ具申があります、我が王よ」
「聞かせくれ」
「今回の遠征の編成ですが、意図的に外見が人に近しい種族で構成されています。戦力的にも吸血鬼族や人狼族などが適しているのは分かりますが、輜重兵卒だけでもコボルト族に置き換えては如何かと……」
ふむ、敢えて魔物の姿をした種族が援軍に駆け付ける状況にするわけか…… その方が後にミザリア領と良好な関係を築き易いのかもしれない。
「わかった、編成は任せる」
「御意に……」
その後も持ち運ぶ装備や糧食、その集積地と輸送手段などの必要事項を詰め、会議は恙なく終了した。
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