鬼姫、不死王領域から帰還する
不死王領域の王都アウラの北側にある聖城、その玉座の上に甲冑姿の黒衣を纏った骸、リチャード・ワイズマンが微動だにせず、ただ座している。
二百数十年の間、彼と骸の騎士達は今を生きる自国の兵士たちを率いて只管に専守防衛を貫いてきた。そもそも、高位のアンデッドだろうとその在り方は最後に抱いた無念に縛られる。
“終極”の魔法使いを父に持つ若き王であったリチャードが死の間際に抱いたのは、このままでは敵国から臣民を救う事ができないという焦燥のみ。
不世出の大魔法使いの子息のために魔導の資質があり、戦いの中で心臓を貫かれても倒れずに歯を食いしばり、無自覚のまま不死者となる。以後は心臓か止まっても身体の血を全て失っても剣を振るい、魔法を行使し続けた。
彼の影響下で死せる騎士たちも再び立ち上がり、王に剣を捧げて敵兵を迎え撃つ。
勝利の後、自らの死を悟った王と騎士達は腐敗し始める肉を魔法の焔で焼き払い、骸となって王都へと帰還した。その際に生き残りの将兵たちの言葉と尽力もあって、生前と同じく王として受け入れらたリチャードはこの地を治め続けて今に至る。
(まぁ、アンデッドを説得するなど不可能です。彼らは無念に縛られて行動しますから…… リチャード王の行動原理が理解できただけでも上々というもの)
件の不死王と立ち並ぶ骸の騎士達の前で跪く和装の鬼姫は早々に話を切り出す。
「陛下、今日は別れの挨拶に参りました」
「…… リベルディア騎士国か」
「えぇ、後一月もしないうちにシュタルティア王国と交戦を始めるでしょう」
「魔王殿は…… ふむ、ミザリア領を支援するのだろうな」
合理的に考えれば自明である。
シュタルティア王国はノースグランツ領を占領された事により内部の兵力を動かし難くなっているため、静観すればミザリア領は陥落する。
そうなれば次の標的はノースグランツ領かもしれない。ならばリベルディアと組めるかと言えば、勢力規模の問題で従属的同盟関係になるだけだ。
「陛下にもご協力いただければ嬉しいのですけど?」
「色々と臣下が献策してくれるのだが…… 心が動かない。その理由が生前の無念に縛られているからだと自覚していてもだよ、ミツキ」
表情のない骸の顔が一瞬だけ苦笑いしたような雰囲気を帯びるも、ミツキは微笑で応じる。
「ふふっ、言ってみただけです」
「でも、ミツキ殿が帰られてしまうと少し寂しいですね」
会話の区切りに合わせて、王の傍に控える黄金色の髪から狐耳を覗かせた妖狐がミツキに言葉を紡いだ。彼女は不死王と接触を持つにあたって協力を取り付けた星の使徒の高位司祭、第4使徒 “星彩のリウ” と呼ばれる女性で、王都アウラでミツキはとても世話になっていた。
「えぇ、私もそう思います。我がノースグランツ領も多くの星の使徒が暮らす地ですので、いつか訪れて貰えれば歓迎致します」
「はい、その時は宜しく願いますね」
人懐こい微笑を受けながら、再度この城の主に向き合う。
「我が君は人魔の調和を考えております故、王都で見聞させて頂いた事はとても有意義でした。僅かな間ではありますがお世話になりました事、感謝申し上げます」
深く頭を下げて謝意を示し、ミツキは最後に別れの言葉を残して謁見の間を去る。
「さて、王都から出ない事には転移方陣を開けませんね」
勿論、転移阻害の魔導装置が王都全域を影響下に置いているためだ。なお、王都周辺には極小の転移方陣を扱える鬼人兵をノースグランツ領との連絡要員として潜ませており、彼らと合流する必要もある。
「帰還したら次はミザリア領、私も援軍に組み込まれているのでしょうか?できれば地下ダンジョンの屋敷でゆっくりとお茶を飲んでいたいのですけど……」
黒髪をかき揚げながらそう呟き、ミツキは王都アウラの街並みを足早に通り過ぎていく……
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