魔王、無駄飯喰らいを押し付けられる
「率直に言いますと、ノースグランツ領からの援軍が欲しいのです」
「ふむ、先程の理屈でいけば、ノースグランツ領兵が出払って戦力が低下すれば、エルゼリス領とヴェルギア領から此方が狙われると思うのだが?」
静かにベイグラッド家の次男坊は頭を左右に振って否定の意を示す。
「都市エベル陥落とその後のノースグランツ領各都市の恭順から半年以上経ちます。その間にノースグランツ領は占領状態では無く、独立に近い状態になったと我々は考えています」
確かに、共同で新区画を作ることから始まって、最近では青銅のエルフ達が市街地で設備の補修や改善を引き受けたりもしている。
なお、見た目が人と変わらない魔人族、肌の色が青白いだけで外見は森人族の青銅のエルフ達、耳としっぽを引っ込めた状態の人狼族などは普通に都市エベルで出歩いている…… 警邏を行うグレイドなどは無駄に男前だから一部の街娘たちの間で噂になっているぐらいだ。
「確かに、領内は占領下という雰囲気では無いが…… 何が言いたい」
「領民の協力がある状況ではそう簡単に攻め落とせないという事ですよ、魔王殿」
さらにクリストファは俺の隣に座るイルゼ嬢に視線を投げかけて問う。
「失礼ながら、今のイルゼ殿と魔王殿の関係を見ても良好に見えます。もし、都市エベルを巡る戦いで魔族達が傷つき倒れた時、貴女は中立を貫けると断言できますか? 一度は地下ダンジョンで情けを掛けられた貴女が?」
金糸の髪を弄りつつ碧眼を閉じて黙考した後、イルゼ嬢は重めの溜息と共に言葉を吐き出す。
「私は領民にとって最善の行動を取るつもりですけど、断言はできませんね…… この身の愚かさは理解しています」
「王都の方々は地下ダンジョンで行方不明になった後、魔族と共に帰還した貴方を魔族側だと考えています。故にノースグランツ領兵との戦闘も想定しているわけですよ。先の王国海軍の出兵はその事の確認も兼ねていました」
確認する前に旗艦を沈められましたけどね、と彼は付け加える。
「先の王国海軍の敗退、地下ダンジョンで敗北を喫した敵性新技術の存在など、今のノースグランツ領は早々に手を出せない存在です。それに国境防衛に助力するとあれば、そのタイミングで攻めるほど王都の方々も馬鹿ではありません」
(そう言われた所で鵜呑みにできないし、援軍を出す意味もほとんどないな……)
という考えが顔に出ていたのか、次男坊が先回りする。
「もし、有効な援軍を出して頂けるならば…… 我がミザリア領はノースグランツ領の “独立” を支持し、その一部となりましょう。父の書状になります」
俺はクリストファが懐から取り出した書状を拒否し、領主であるイルゼ嬢に渡すように促す。
「ッ、これは礼を失しました、申し訳ありません」
「構いませんよ、クリストファ殿、読ませて貰いますね」
ざっと目を通したイルゼ嬢が俺にそれを渡し、此方も内容を理解する。
「…… つまり、ゲオルグ殿はシュタルティア王国には先が無いと思っているわけですね?」
「というよりは、あなた達の将来性を買っているのですよ、父は」
その今更な言葉にイルゼ嬢が顔を手で覆い、苛立った表情を隠す。
「少し前に小娘扱いして、領地を奪おうとしたくせに……」
「ですが貴女は領主になった、それを含めて再評価されたのかと思います」
「それにもし、ミザリア領が陥落すれば次に狙われるのはノースグランツ領の可能性もあります、どうでしょうか?」
ちらりとイルゼ嬢が顔を覆った手の隙間から視線を向けてくるので意見を伝える。
「相手が信用できるか否かの問題はあるが悪い話ではない。現状ではミザリア領はリベルディア騎士国への対応、王都のあるヴェルギア領は地下ダンジョンでの敗北からの立て直しで動けないが、いつまでも平穏が維持できるわけでは無いからな」
ゲオルグ・ベイグラッドが信用できるか否かは援軍を率いて駆けつけた際に見極める事もできるだろう。
「機に乗じて地力を増やしておくのも良い。少なくともノースグランツ領とミザリア領が手を組めば、王国に残る二領とも拮抗できる」
「ですね…… クリストファ殿、大事なことですから即答はできません。今日は泊まっていってください」
「では、お言葉に甘えさせて貰います」
その後に仲間内で話し合った結果、ヴィレダ率いる人狼突撃兵とスカーレットの吸血飛兵を中心とした戦闘部隊、それに技術担当として青銅のエルフから選出した第三工房エルミア班を加えた総勢300名の中隊規模の増援を送る事になった。
なお、夕食時にふと捕えている赤髪の大男を思い出したので、後でその弟に聞いて見たら “この忙しい時に帰って来られても困るので、暫く養ってくれと父が……” などと言われてしまった。
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