魔王、次男坊をもてなす
「待たせてしまったな……」
「いえ、お気になさらず、こちらこそ急に来訪して申し訳ありません。お初にお目にかかります、シュタルティア王国ミザリア辺境伯ゲオルグ・ベイグラッドの次男、クリストファと申します。以後お見知りおきを」
都市エベルの小城の応接室に通されていたのは明るい茶髪の若い男だ。線が細く、飄々とした印象を受ける。そして、その背後には従者だろう背丈はそれほどでも無いが、鍛え抜いた体格の壮年の男が佇む。
「この者は私の護衛として連れて来たジグル・ヴェスタという者です」
クリストファの紹介に合わせてその男は丁寧にお辞儀をする。
「イチロー・タナカだ、宜しく頼む。イルゼ殿とは知己か?」
「えぇ、親父が色々とリースティア家にちょっかいを掛けていたのでその折に……」
「その節はお世話になりました。お元気そうですね、クリストファ殿」
隣で不機嫌さを隠さない金髪碧眼の令嬢を一瞥しつつ、クリストファにテーブルにつくように勧め、イルゼと共にその対面に座ると、頃合いを見計らって侍従のマリが菓子と紅茶を出す。
「話す前に少し喉を潤させてもらう、そちらもどうだ?」
「これは?初めて感じる香ですが…… 落ち着きますね」
それはそうだろう、この王国には今のところ飲み物と言えば酒とハーブティーぐらいしかないため、ほとんどの人間は紅茶など飲んだことはないはずだ。
ノースグランツ領でも栽培させたいのだが、残念な事に冷帯気候のこの土地では不可能だ。従って、地球からの輸入品としてしか入手できない。
「アールグレイティーだ、そっちの黒いのはチョコレートだな」
「これはもしや、噂に聞くテラ大陸の……」
元々、地球関連の事は魔族の中でも技術に関わる青銅のエルフ達と一部の者達しか知らない事で、都市エベルを含むノースグランツ領民には内緒にしていた。
その折、イルゼと一緒に新区画の工事現場を歩いていたヴィレダがエベルの職人たちに圧縮機や発電機などのオーバーテクノロジーの出元を聞かれ、咄嗟に吐いた嘘が ”海の彼方にあるテラ大陸” だ。
そこには見た事も無い先進的な技術と美味しいものが溢れているという…… そんな ”狼少女” の適当な嘘が独り歩きして、気が付けば都市エベルではその噂が蔓延していた。
(…… なるほど、都市内部に密偵兵くらいは潜り込ませているか)
「では、頂きます」
目の前のクリストファという男は出された食べ物を警戒していたようだが、好奇心が勝ったのか、恐る恐るティーカップに口を付ける。
「ッ、これは……ッ、此方も頂きます!」
瞬時に表情を色々と変化させ、おもむろにチョコレートを摘まんで口に放り込むと、そのまま沈黙してしまった。
「どうかされたのですか、クリストファ殿?」
その様子を訝しがって、碧眼を細めながらイルゼ嬢が問う。
「いや、失礼しました。イルゼ殿、このアールグレイの茶葉とチョコレートをベイグラッド家で仲買させてもらう事は可能でしょうか?上手く行けば双方の家に利があると思いますッ」
「それは……」
チラリとイルゼ嬢が此方を窺うので、首を左右に振る。
「申し訳ありません。テラ大陸由来の品は貴重ですから、商うだけの数が揃わないのです」
「あぁ、いや、すみませんつい……」
「で、本日の用件は何なのだ、まさか茶葉を買い付けに来た訳ではあるまい」
わざわざ、イルゼ嬢に俺の同席を頼んだらしいからな……
別作品の書籍化関連作業につき、更新頻度が落ちてるので自業自得ですが、
ブクマ……飛んでいきますね……orz
それでも読者様が一人でもいる限り完結まで頑張りますよ!!




