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魔王、銃と銃弾の分析を頼む

目的を果たして中東からダンジョン最下層の謁見の間に帰還した直後、スカーレットとヴィレダ、ベルベアの女性陣は肌や髪に付いた砂を落としたいと言い出して、仲良く3人で風呂に向かう。


因みに気が付けばゼルギウスもいない、スカーレットに割り当てられた居住区の屋敷へ帰ったのだろう。この最下層は俺の私室と謁見の間、スカーレットの居住区画、ヴィレダの私室と人狼兵の詰め所がある。


さらに上層に上がれば彼女たちの眷族が暮らす居住区などもあり、人間達に奪われた地下30階層は結構、魔族の生活圏を護る最終防衛線に近い…… 少なくとも、水源の地底湖を敵方に抑えられると生活がままならない。


ダンジョンは中央部が吹き抜けのため、幾つかの雨水を集める仕組みと貯水池も持っているが、地底湖に依存する部分が大きいのは事実だ。


「兎も角、戦利品を各種類2個ずつ工房区画まで持っていくか。青銅のエルフ達は引き籠もりだからな、取りに来いと言っても無駄だ」


仕方がないので、この場に残る吸血鬼と人狼にも手伝ってもらって各種銃器などを1階層上まで運ぶ。


なお、頑張って転移ゲートを拡張して、根性で持ち帰ったピックアップトラックは謁見の間の片隅で異彩を放っている。


前提として転移には空間座標が必要であり、今のところダンジョンでゲートを開けるのは私室と謁見の間だけなので、行くついでに工房区画の座標も調べておいた方が良いだろう。


それにしても、テロリスト連中は何故トヨダの自動車が大好きなのか…… 彼らの宣伝動画によく出てくるため、米財務省からトヨダ本社に問い合わせがあったのは有名な話だ。


……………

………


地下49階層に棲む青銅のエルフ達は幾つかの集団に分かれて工房を持ち、錬金術で素材を錬成加工した武具や生活用品なども生産していた。


人狼の連中が使うかぎ爪や打撃用ガントレット、吸血鬼達の好むサーベル、ゴーレムなども此処で製作されている。


多種多様な生産物が生まれる場所のためか、雑多で活力のある雰囲気を感じつつも工房区画を人狼や吸血鬼達と歩き、全ての工房を束ねる中央工房へ辿り着く。


工房の外には“でん”と置かれたガソリン式の発電機があり、五月蠅いエンジン音を響かせて悪目立ちしていた。


稼働中は吸気と排気が必要なため、本体を室外に置いているのだろう。そこから延長コードが伸び、壁に開けられた穴を経由して工房の中に入っている。


その工房の一室で目にしたのは高速でノートPCのキーボードを叩く、青銅のエルフの女性達であり、中心にはリーゼロッテがいた。


「皆で何をやっているんだ?」


興味を惹かれて彼女のPC画面を覗くと、驚いたことに既にOSの言語が異世界の言葉に差し替えられている。


「ん、レオン。いや、今はイチローじゃったか?」

「別に呼びやすい方で構わない」


「では、昔から慣れているレオンでお願いするのじゃ!」

「あぁ、そうしてくれ。それで、これは?」


「ふっ、よくぞ聞いてくれたのじゃ! 既存の素材の組み合わせで錬成可能な素材を“でーたべーす”化しておる! ゆくゆくは各工房にPCを設置して“いんとらねっと”経由で情報共有するのじゃ」


リーゼロッテのPC上ではC#で作られたっぽいアプリが起動し、オープンソースのDBと連動していた。


なお、PC購入の翌日、どうにかインターネットに接続できないか試行錯誤した結果、極小のゲートを展開して街中に飛び交うフリーWi-Fiの電波を拾う事で接続可能となっている。


そこから暫くリーゼロッテに捕まって、何時間もゲートの維持をさせられたのは言うまでも無い…… 正直、疲れるので常時接続できるわけではないのが難点だ。


だが、イントラネットであればクライアント・サーバ間の優先接続だけで実現できるため、彼女は上機嫌で進捗と展望を説明してくれる。


「良い考えじゃろ、妾を褒めても良いんじゃよ?」


えっへんと無い胸を張る彼女をスルーして目的のものを渡す。


「すまないが、急ぎこれの製造ができるかを検討してくれ」


「おぉ、これは銃と弾丸じゃな? この前、“いんたーねっと”で調べたのぅ…… こうも早くに実物が手に入るとは素晴らしいのじゃ!」


満面の笑みでリーゼロッテが伸ばしてきた手を掴み、事前の警告をしておく。


「銃もそうだが、RPGと手榴弾は危険だ、注意して取り扱ってくれ」

「分かっておるわ、先ずは構造を解析するだけじゃ」


なお、青銅のエルフ達の固有技能には構造解析がある。その黄金瞳<おうごんどう>に魔力を宿して無機物の構造を見抜く技だ。


「大丈夫だと思うが、慎重に頼むぞ。リゼに怪我をされてはかなわない」


「ふふっ、妾を心配してくれるのか? ありがたいのぅ。安心せい、お主の愛した玉の肌に傷などつけんよ」


話の流れに乗じて微笑を浮かべたリーゼロッテに背を向け、そのまま踵を返す。彼女は以前の若かりし俺の初めての相手であるため、その手の話題で絡まれると非常にやり辛い。


まぁ、錬金術の腕は確かなので、彼女に任せておけば自動小銃AZ-47と弾丸の製造も何とかなるだろう。


「幸いな事に黒色火薬はこっち側にもあるし、硝石の錬成も可能だからな」


上手くいけば然程の時間を要さずに惑星ルーナ産の銃器が揃うはずだ。ただ、現在進められている地下30階層の奪還には鹵獲<ろかく>した武器が使われるため、実戦投入は少々後になる。


「先ずは明日の階層攻略か……」


ひとり呟きながらも何やらまた力仕事を頼まれた人狼兵達を残し、工房区画から最下層の自室へ戻って、扱い慣れない銃器の習熟に多大な時間を費やした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『俺の若かりし頃の初めての相手』 これはドキドキですね! 魔王にも青春があったのですね! [一言] シバさんがこのような作品を書かれていたとは! 見落としておりました! 面白いです! こ…
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