魔王、騎士令嬢を揶揄う
今日も今日とて、都市エベルの新区画は活況である。
都市エベルとノースグランツ領を占領してから既に四ヶ月程が経ち、高炉と転炉、コンクリート工場、主要な行政関連の建物などは完成している。
今は未完成の化学工場、実際に移民するコボルト達の住居が建設中だ。
「よし、屋台骨をたてるぞッ!」
「せーのッ!」
人族の大工達もいつの間にか、違和感なくミノタウロス族と共に家の柱などを立てていた。
「さすが、博愛主義の星の使徒と言ったところか」
「昔はただの異端者だったのじゃがのぅ……」
うんうんと隣でリーゼロッテが頷く。
当時は人族と魔族の戦火が激しく燃え上がり、留まるところを知らなかったからな…… かく言う俺も、無数の同胞を殺されて歯止めが効かなくなっていた。それは相手側も同じで、本当に泥沼だった。
最早、相手を信用するなど論外で互いに潰し合うしか道も無く、やりたくもない殺し合いをお互いに強いられるような殲滅戦じみた状況で “全ての命は星から生まれたもの” と調和と博愛を唱えた星の使徒達は敬意に値する。
(それに…… 惑星という概念を300年前の時点で獲得していたその見識にも恐れ入る)
未だにこの世の周囲を太陽と双子月が周遊していると思っている者達が多いのだ。最近、魔族側では青銅のエルフ達の啓発活動もあって、地動説が主流となったが…… イルゼなどは最初から “この世界は丸い?当然でしょう” という具合だった。
そんな調子だから、白夜教などから異端者として迫害されてきたわけでもある。ある意味、星の使徒達が当時保有していた知識は異常と言える水準だったのだ。
「お、イルゼ嬢がきたようじゃな」
リーゼロッテの視線の先を追うと、噂をすれば影というやつで…… イルゼ嬢が侍従のマリと護衛代わりの天狼娘を連れて通りの向こうから歩いてくる。
「あ、イチロー」
パタパタとしっぽを振りながら小走りに寄ってくるヴィレダの頭をポフポフしつつ、不意に思い出したイルゼ嬢の使徒名を呼んでやる。
「視察か?ご苦労だな、第六使徒 “星辰のイルゼ殿”」
「ッ、いじめですか?魔王殿ッ!!」
「おぉ、第六使徒様ッ!!」
「星辰の聖者様ッ!」
作業をしていたエベルの職人達、つまり、星の使徒の信者達が跪いて首を垂れる。先日、ノースグランツ領で布教に務めた功を労われて、不死王領域の王都アウラにあるという聖庁から第六使徒 “星辰” の位階を与えられたのだ。
第六使徒 “星辰のイルゼ”…… この厨二病を患っていそうな使徒名を連呼されているイルゼ嬢の笑顔はどこか引き攣っていた。
そして、ややジト目で俺を睨みつけてくる。
「…… 視察ではありません、相談です」
「ん、何かあったか?」
「今朝、ミザリア領からの使者が来ました。あまり待たせるわけにもいきませんし、どうすべきかと……なのに、もうッ!」
どうやら、揶揄うタイミングが悪かったみたいだな……
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