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魔王、大きさを読み違える

「ふむ、これが圧縮機、ガスコンプレッサ…… 勘弁してくれ」


トラックに積み込まれたままのそれを一目見て俺は鬱になった。先ず、トラックに積み込まなければ動かせない質量を持っている時点で想定外だ。


いや、俺が無知だっただけかもしれないが…… 転移ゲートは繋ぎ合わせる距離の影響をほとんど受けないが、質量によって消費魔力が決まる。


(圧縮機3台が中型トラックに乗っているだとッ!?)


つまり、下手をすれば最大積載量8tの質量を転移させろと?

暫し、瞑目して自身に宿る魔力の総量を確認する。


(馬鹿なッ、復活以来、コツコツと毎日溜めていた魔力の四分の一を使えと言うのかッ!)


動揺が顔に出ない様にして、ギギギッと油の切れた機械の如くリーゼロッテを振り向く。


「…… リゼ、これは本当に必要なモノなのか?」

「うむ、勿論なのじゃッ」


即答された……


「おじ様、取り寄せてもらう段階で前金を支払っております、返品は難しいかもしれませんわ」


どうやら、惑星“ルーナ”に持って帰る事が確定していると悟り、げんなりとした表情をする俺と上機嫌のリーゼロッテへと藤堂が説明を行う。


「HITA〇HI社製の中型ガスコンプレッサを3台用意いたしました、ご注文通り原料空気昇圧とアンモニア合成反応促進に対応しております」


「ところで藤堂、質量はどれくらいだ?」

「一基あたり1.5tとなります」


(くッ、3台で4.5tそれにトラックの重量を入れると…… いや、考えるのはやめておこう)


「因みに、リーゼロッテ様…… 普通に考えればアンモニアの精製をお考えのようですが、アンモニアの合成反応器、冷却・分離機器の類は必要ないのでしょうか?」


確かに、圧縮機数台だけではハーバーボッシュ法によるアンモニアの合成はできない。


以前、リーゼロッテに寝物語でアンモニア精製について聞かされ、眠る事すら許されずに朝を迎えた事がある……


確か、20世紀初頭、人口は増加の一途を辿り、食糧生産を向上させる化学肥料や資源採掘に使う火薬の超過需要が問題となった際、その原料である窒素化合物(アンモニア)を合成する方法が各国で研究されたという。


そこで当時の天才たちが、“窒素って空気にあるじゃん、そこから窒素化合物を作ろう” と考えたわけだ。そして、空気から火薬と肥料の原料を作るという当時は魔法の様に思われた試みを成し遂げたのがハーバー氏とボッシュ氏だ。


その精製過程では藤堂のいう合成反応器などが必要だったはず……


「確かに、空気から窒素を取り出すには酸化鉄を触媒とした合成反応が必要なのじゃ!そこで発生した混合気体を冷却すれば、液体アンモニアに分離するでのぅ……」


うんうんと、笹穂耳を動かしならがリーゼロッテが頷く。


「で、それに必要な残りの機器はどうするんだ?」


「……トウドウに調達させましょうか」

「いや、それには及ばんのじゃ、イリア」


軽く首を傾げて問う黒髪紅瞳の吸血令嬢に、ふるふるとリーゼロッテが断りを入れる。


「購入した方が早いのは分かっているのじゃが…… 全てを地球製に頼るのは妾たち青銅のエルフとしては悲しいのじゃ、せめて可能な範囲は妾たちでやりたいのじゃよ。でなければ、いつまでも技術的進展が起きないのじゃ……」


どうやら、将来的な発展のためにもという事らしい。


「確かにそうだが…… 可能なのか?」


「一応、赤熱の魔石を加工してヒーターを作って、ナトリウム溶液と酸化鉄触媒を用意すれば “あんもにあ” 合成反応器は用意できるのじゃ! 冷却・分離機器は氷結系魔導装置を開発しておるでのぅ…… 任せて欲しいのじゃ!!」


その後、試行錯誤を繰り返した彼女がアンモニア溶液の精製に成功するのはまだ先の話であるが…… それを原料とする化学肥料は都市エベルの農作物を劇的に豊かにし、増産される火薬は鉱石採掘の効率も大幅に上げる事になるのだった。

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