魔王、藤堂氏と会う
朝から吸血執事のゼルギウスが用意した純和風の食事をスカーレットと済ませた後、リーゼロッテを拾いにひとつ上層となる青銅のエルフ達が詰める中央工房区画へと足を運ぶ。
「ところでイチローおじ様、今日、受取りに行く圧縮機というのは?」
「あぁ、俺もリーゼロッテのレクチャーで理解したが、様々な地球の工場で使われている製品だ。主にガスや空気などの気体を圧縮するらしいな…… 身近なところではエアコンにも付いている」
「ん、イリアが“使いすぎ注意”と張り紙をしていたマンションにあったアレですの…… という事は動力が電気ですわね」
因みに電気は余剰電力を如何に処理するかが問題だ。
発電中に許容量を超えてしまえば電線がスパークして焼き切れるとか、電解コンデンサや電球辺りが爆発して惨事になるからな……
その辺りも年齢不詳の青肌エルフと話を詰めなければ、などと思いながら開け放たれている彼女の工房の入口をくぐる。
「リゼッ、少し遅くなってすまない」
「ん、構わんのじゃぁ、昨夜は妾が疲れさせてしまったでのぅ♪」
「……………… (おじ様、最近は私の所に来てくれませんのに)」
隣からジトっとした視線と圧力を感じるが…… 不可抗力だ。
都市エベルに俺達の居住区を建設する手前、どうしてもリーゼロッテと一緒に行動する事が多くなり、結果的に借りができてしまう。
後でスカーレットの機嫌は取るとして……
「地球製の工業機械を受領する前に確認しておきたいんだが…… エベルでの電力供給は大丈夫なのか?」
「先日、“造成”の概念装でレオンに都市湾岸部を整地してもらったじゃろ?」
そう言えば、ちょっと前に朝から彼女に拉致されて夕方まで只管、居住区の湾岸部を整地させられてヘロヘロになったな……
「あそこに蒸気式火力発電所を造るのじゃッ! 余剰電力は熱に変換して “ひーとぱいぷ” を経由させ、海水で冷やしてしまえば良いからのぅ……」
水冷式か…… 何となく湾岸と発電所の組合せで原子力発電所を連想してしまうな。
「安全重視で頼む」
「勿論なのじゃッ!!」
長い笹穂耳を動かしながら元気にリーゼロッテが頷く。
「…… では、おじ様、そろそろ参りましょうか」
「あぁ、そうだな」
スカーレットに軽く返事をしつつ、転移ゲートを新宿区のマンションまで繋げてイリアと合流した後、藤堂商事が保有する倉庫の一つに向けて再度転移ゲートを開いた……
「お待ちしておりました、イリア様」
上品なスーツに身を固めた老紳士が奇麗な角度で頭を下げる。イリアからの資料で見た藤堂商事の現会長、藤堂聡一郎だ。
「トウドウ、人払いは?」
「済んでおります」
その言葉通り、倉庫内には俺達の他には誰もいない。
「イリア様、その方々が……」
「えぇ、私の仕える方々です。そっちの青肌エルフは違いますけど」
「む、何か棘のある言い方じゃのぅ……」
「いえ、私はリーゼロッテ様の配下ではありませんので」
何やら口争いを始める二人に苦笑しつつ、老紳士が腰を折る。
「はじめまして、藤堂聡一郎と申します」
「宜しく頼む、藤堂」
元サラリーマンとして挨拶へは丁寧に返したいところだが、スカーレット達の目があるからな。取り合えず、さらっと返事をしておいた……
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