魔王、硝酸系物質を考察する
「ん、朝か……」
天上を見上げ得るとそこはイルゼの居城に間借りした一室のものでは無く、久しぶりの地下ダンジョンの寝室のものが目に入る。
ダンジョンの構造的に中央部の吹き抜けから差し込む朝日に開いたばかりの目をやや細めていると、隣でもぞもぞと藍髪の頭が揺れる。
都市エベルの新居住区を視察した際から数日、蒸気機関式粉砕ミルと小規模な高炉も2基ずつ組みあがり、現地でコンクリートの原料となる “クリンカー” の生産を軌道に乗せたとリーゼロッテから報告を受けた。
で、例によってその日の夜、寝床に彼女の襲撃を受けたわけだ。
「ふむ、研究が行き詰まったり、逆に一段落着いたら忍び込んでくる傾向があるな……」
などと冷静に傾向分析をしていると、リーゼロッテの笹穂耳がピコピコと動き、ぱちりと黄金の瞳が開く。
「ふぁ~、レオン、おはようなのじゃ……」
と言いながら、再び目を閉じたので、そのまま放置して魔導式蒸気機関のポンプを組み込んだシャワーを浴びにいく…… タンクの水をいつも適度な温度に保ってくれている人狼兵には感謝が尽きない。
さっぱりした後に寝室へと戻ると、今度は完璧にリーゼロッテも目を覚ましていた。
「レオン、妾も風呂を借りるでのぅ…… それと朝食はどうするのじゃ?」
「最近、こっちにいる時はゼルギウスの作ってくれたものを頂いている」
「という事は、スカーレットのところじゃな…… それは流石に妾でも朝からついて行くのは微妙なのじゃ」
暫し彼女と会話を交わしつつ身支度を整えると、ひらひらと手を振って寝室から出る。
「また後でな、リゼ」
「ん、分かったのじゃ」
今日の予定では藤堂商事が用意してくれた発電用タービンの資料と圧縮機を確認しに行く予定だ。それらは建設予定のアンモニア精製工場に持って行く。
アンモニアの精製ができれば、それから硝酸の精製が可能となり、そこから派生する亜硝酸ナトリウムはニトロ系物質の精製に使える。加えて、硝酸ナトリウムを精製すれば科学肥料となり、農作物の増産も可能らしいが…… 青銅のエルフ達の言っている事は小難しいので大まかにしかわからん。
これも惑星“ルーナ”が地球型だから通用するとの事だが……
(それにしても、圧縮機ってどれくらい大きさなんだろうな)
転移ゲートの魔法は距離的要素よりもそこを通過させる対象の質量が大きな負担となる。下手をすれば丸一日はグロッキー状態になってしまう。
まぁ、そこまで大きなものでも無いか……
取り留めの無い事を考えているとスカーレットの居住区に到着し、食堂の方から微かにみそ汁の匂いが漂ってくる。
ここ数日、老執事の中では日本食がブームであった。というよりも主である吸血姫が美味しいと言えば、それが奴の中で流行るのだろうが……
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