魔王、建築現場を視察する
復水器と蒸気の流れを制御するピストンバルブを利用したレシプロ構造の魔導式蒸気機関を搭載したトラックが騒音を鳴らしながら、開通したばかりの2車線の道路の片側を走る。
なお、魔導式蒸気機関ではタンクの水は発熱の魔石を組み込んだボイラ室で暖められて蒸発し、ピストンを動かす圧力となるため、実にクリーンな動力なのだが……
「…… すまない、もう私の魔力が尽きそうだ」
「あ~、トラックの魔導式蒸気機関は結構、大型だからなぁ……」
途中で速度を落として停車し、運転を交代する青銅のエルフの技師たち…… 現状、青肌エルフ娘のエルミアの教習を受けた第3工房区画の技師たちだけが蒸気自動車の運転が可能である。
“速度が出るゆえ危ないでのぅ…… 妾は免許製を提案するのじゃッ!!”
とは、彼らを纏める中央工房区画の工房長リーゼロッテの言葉だ。
本来、事故が多発するほど蒸気自動車は普及しておらず、走行区間もほぼ直線であるが…… 念のためということであろう。
なお、教習のために草原地帯に一周0.8㎞程度のコースが作られたのだが…… そこにはドヤ顔でドリフトを極めるエルミアの姿があったとか……
勿論、いつもの如く金髪紅瞳の吸血姫に鉄拳制裁を受けたのは言うまでもない。そんな事もありながら、第3工房の青銅のエルフ達は無事に免許を取得できたのである。
…… その過程で何人かの青肌エルフ達がエルミアに毒され、走り屋モドキとなってしまったのは機密事項だ。
何でも深夜の時間帯に地下ダンジョン-都市エベル間の道路の一部を封鎖して、一対一のレースを行っているとか…… その内、不運と踊っちまいそうである。
まぁ、その前に一部の魔族達の間で深夜のレースの噂が広まり、ギャラリーなども出始めたために件の吸血姫の知る所となり、彼らも成敗されるのだが……
その彼らも、今は真面目に無骨なスチールで組まれた蒸気トラックへ第1工房製の蒸気機関や耐火煉瓦などを積んで都市エベルの魔族区画へと向かう……
「もうすぐ、追加の木材と蒸気機関が届くのじゃ! 到着次第、蒸気機関式粉砕ミルを組み立てるでのぅ。それが終わったら、”くりんかー” 焼成用の炉も造るのじゃ~!!」
鉄骨や木材を運ぶミノタウロス兵やその姿に若干の畏怖を抱きながらも、共に建築に携わるエベルの大工達に紛れて、ちょこまかと動く青銅のエルフ達の姿が見える。
「建築組が骨組みを立てて、“こんくり”を流す型枠を用意する前に現地生産を可能にしないとのぅ」
陣頭指揮を取る藍髪に黄金瞳の小柄なエルフが声を張り上げて、同族に指示を飛ばしていく。
「精が出るな」
「お疲れ様です、リーゼロッテ殿」
「ん、レオンにイルゼ? 視察にでも来たのかのぅ」
「あぁ、エベルの大工達が参加しているだろ? 気になってな……」
ざっと見る限りでは、問題なく共に作業をしている様に見える。
「…… 特にトラブルはなさそうですね」
同じように周囲を見渡していたイルゼ嬢も頭を軽く下げる大工達に手を振って応じながら、そう呟いた。
「うむ、妾から見ても今のところは順調と言えるのじゃッ! むしろ、妾達の “こんくり” の製造の方を急がねばらんのじゃぁ……」
「リゼには苦労を掛けさせてしまうな」
「別に構わんのじゃッ!!褒美はちゃんと貰うでのぅ……」
ずずいっとリーゼロッテがその小柄な体を寄せてくる。
「…… お手柔らかにお願いします」
思わず敬語になってしまった……
「?何故に敬語なのです、魔王殿」
「いや、気にしないでくれ……」
不思議そうに問いかけるイルゼ嬢へ適当に応え、またリーゼロッテの夜襲を受けてしまいそうだなと考えつつも、俺は区画整備の進捗状況を確認したのだった。
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