魔王、中東にて武器を調達する
そして今現在、俺達は中東のある街に潜伏していた。
此処は中東で猛威を振るっていた所謂、原理主義勢力崩れの武装集団の残党が数日前から支配している状態で、街並みの一部ではここ数年の内乱における戦闘のためか破壊の跡が垣間見える。
荒んだ風景へ紛れ込んだ住民の遺体も……。
「イチロー様、この地球という惑星は地域間格差が激し過ぎませんか？ 先日の日本国とはまるで違います」
「そうなのか、あたしは昨日、留守番だったから分からないよ。それにしても、熱いし、砂だらけだし、あんまり好きな感じじゃない」
風に吹かれて宙に舞い、肌へ纏わり付いた砂塵を鬱陶しそうに払って、やや拗ねた態度でヴィレダが愚痴を零した。
「確かに、言われると格差が大きいのかもしれない…… だが、俺も現状の“ルーナ”はそこまで知らないからな」
いつまでも、向こうとか此方では分かりにくいので便宜上、かつての故郷を惑星ルーナと呼ぶ事に決めて、仲間内で認識を統一してある。
今は違和感もあるが、そのうち慣れるだろうと割り切って背後を振り向く。
そこにはスカーレット率いる吸血鬼が数名、ヴィレダ率いる人狼が同じく数名控えており、中には見知った顔もいた。
「まさか、まだ現役とはな、もう良い歳では無いのかゼルギウス」
「いえ、スカーレットお嬢様を残して、家令たる私が隠居するわけにはいきません…… それにヴィレダ殿の事も亡きメイア様に頼まれております」
頭部に角を持つ吸血“鬼”の中に混じった老執事が飄々と答え、腰元の剣帯に手を添える。腕は鈍ってないとでも言いたいのだろう。
「さて、今回の目的は此処に居座る原理主義達の武器の入手だ。彼らは高速で鉛の弾を何発も射出する武器“銃”を持っている。防御結界の事前付与は行ったが、精々数発しか耐えられないはずだ。各自で十分に注意してほしい。危ないと思ったら逃げろ、“命を大事にだ”」
こんなところで同胞が戦死して、後に未確認生物発見とかになったら困る。
「特に血の気が多そうなヴィレダには気を付けてやってくれ」
「………… (コク)」
天狼娘の副官であろう黒狼の女性に一声をかけて釘を刺しておく。無言で頷いた艶やかな黒髪を持つ彼女はヴィレダの縁戚でベルベアとの事だ。
先程から話しかけても頷くだけで言葉が返ってこない、ヴィレダにも同じ対応なので嫌われている訳ではないと思うが…… まぁ、いい、行動開始といこう。
事前に遠見の魔法で確認した状況では、原理主義崩れの野盗と化した連中は総勢４０名程で、警戒に当たっている者は３０名、街の北側と南側に１５名ずつが展開していた。
それぞれにＲＰＧ(対戦車ロケット)を持った者がおり、ピックアップトラックに機関銃を取り付けた車両も数台ある。
はっきり言おう、まともに白兵戦を仕掛ければ被害は甚大だと！ ファイアーボールの魔法で一網打尽とかもできなくは無いが、それをやると目的の武器が手に入らない。
先ずは離れた物陰から北側の相手を窺いつつも手を伸ばし、眠りの魔法をかける。
「安らぎの中に落ちろ“スリープ”」
多少の個人差はあるものの、身体を傾げさせた男達が朦朧とした意識に逆らえず徐々に崩れていく。
というか、面白いほどにあっさりと効くな、こっちの世界には魔法なんてないわけで、当然に耐性も付かない故か……。
「イチロー、どうする？ 殺しても構わないのか」
「いや、暫くは寝たままだろうし、武器の回収だけでいい」
念のため少々時間を費やして様子を見た後、ヴィレダと人狼たちが素早く移動して目的のブツを回収し、スカーレット麾下＜きか＞の吸血鬼達が周囲に散って警戒を行う。
同様の行為を南側でも繰り返し、俺達は４０丁の自動小銃ＡＺ－４７、拳銃・手榴弾・ＲＰＧを数個、ピックアップトラック１台(頑張ってゲートを拡張して持って帰った)を入手した。
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