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シーン2


 シグナ達が出発したのは次の日の朝だった。 必要と思える物は揃え、道中で必要になると思い付いたものは途中で寄る村で買うつもりだ。 もちろん必ず手に入るとは限らないが、そうやって各地の町や村で何が手に入るのか覚えていく事も冒険者としての経験となる。

 三日目まで順調だったが、そこでトラブルが起きた。 昼くらいから大雨に振られたのである。 互いの声もよく聞こえない程の大きな音で大地を打ち付ける大雨の中、どうにか雨宿り出来そうな洞穴を見つけて跳び込んだ。

 「やれやれ、これじゃ今日はもう進めないな……」

 二人の少女がびしょ濡れになった服を奥で着替えている間、そちら見ないようにするのも兼ねて外の様子を伺っていた。 空を覆う黒く分厚い雲は、果たして明日は晴れてくれるのだろうか?と思わせる。

 「……もういいよ」

 クリムの声に振り返り奥へと戻ると、毛布で身体を包んだ二人はランタンの明かりを挟むようにし座っていた。 マナテリアをエネルギー源とするランタンの光は焚火程ではないが熱を発する、おそらくはこういう場合を想定して作られているのだろうと理解したシグナである。

 見ると折り畳まれた毛布が置かれていた。 傍に腰を下ろしそれで自身を包むと、その暖かさに安心感が湧いてきた。

 「わたしが火の魔法を使えたら良かったねぇ……」

 敵を攻撃する、つまり誰かを傷つけるというイメージが強い火の魔法だったが、必ずしもそうではないのだと知る。いつだったか、「魔法は単なる力で、結局は使う人次第なんだよ?」とエターナリアに言われたのを思い出す。

 「ないものねだりしても仕方ないさ」

 「シグナの言う通りだな。 それよりも今後をどうするかだ」

 これで予定より半日は遅れる事がほぼ確定し、明日の天候しだいでは更に遅れる事になるだろう。 期限のある依頼ではないし食糧や水も余分に用意してはいるから今回に限っては問題は何もないと、それを三人で確認し合う。

 その後で「……でも、この先。 もしも期限付きの依頼を受けた時は……」とシグナが切り出すと、「うん、充分に余裕を持って早く行動しないとだね?」とクリム。

 「でも準備は疎かにしてはいけない……大変なものだな冒険者というのは」

 リシアもそう言って肩をすくめる。

 その彼女に頷きながら、冒険とは迷宮を攻略したり魔物を倒す事だけではなく、そこへ行く道中……いや、もっと前の準備段階からが冒険なのだろうなと考えていた。


 翌朝には雨はずいぶんと小さくなっていたが、空模様を見ればまだ安心も出来ず、結局昼近くなってからの出発だった。 行こうと思えば行けなくもないが、確実に行けると思ってから行こうというシグナの判断である。

 そして二日後の昼過ぎに村には無事に到着した。 

 すぐに宿を探し部屋を確保する、二人部屋をクリムとリシア、そしてシグナが一人部屋を使う。 それからリシア達の部屋で今後の行動の検討を開始した。

 「買ってくるものは食料とランタン用のマナテリア?」

 「ああ、どっちもいざって時に切れたら大変だからな」

 確認するクリムに答えたシグナが、それでいいよな?という風にリシアを見ると、彼女は黙って頷く。

 「私は村の詳しい人を捜して遺跡までの道のりを聞いてこよう」

  地図で調べ事前に決めているルートはあるが、何かの理由で通れなくなっていたり、もっと安全で近い道があるかも知れない。 情報を集めるのに越した事はないというリシアの提案だった。

 しなければならない事はそのくらいだったので、シグナはどちらを手伝うかという問題が残る。 手伝いと言ってもどちらも一人で充分ではあるから付き添い程度であっても、二人に任せて自分は宿でのんびりという選択肢はありえないのが彼の性格である。

 「なら俺はクリムと行くよ、この村で何が手に入るのかも見ておきたいからね」

 それから二手に分かれて宿を出る、シグナとクリムは道ゆく人に聞きながら目当ての物が売っている店にやって来た。

 宿屋もだが、旅人や冒険者相手の商売がこういう小さな村でも成立する程度には人々が町や村を行き来するのが現代の事情なのである。 

 乾物屋の店先に並べられている干し肉やら干物を見回しながら必要な量を相談する、魚の干物の値段がやや高いのは海から遠いからであり、そんな場所でも魚が食材として食べられる程には物資の流通はあるからなのだ。

 ここから遺跡までは後二日かからない程度だが何かあった場合を思うと数日分は余裕を持っておくべきだろう。

 「あんたら冒険者かい?」

 店のおばちゃんが尋ねてきたのに「そうです」と答えたのはシグナ。

 「この村で問題は起こってないはずだけど……?」

 冒険者はトラブルの解決屋というが、このような村では多くの者の認識である。

 盗賊などのように警戒するような無法者でもないが、何もなければ特に関わり合う事もない連中というところだ。 

 無論、中にはモラルに欠ける冒険者もいるが、そういった連中はあくまで一部という認識もまた広まっているのは、先人たちの努力といったところなのである。

 「わたし達は遺跡探索に行く途中なんですよ」

 おばちゃんが「ああ、そういう事かい」と納得すると、シグナは四日分の干し肉が欲しいと告げた。

 その後でマナテリアを別の店で購入した二人が宿に戻る頃には、空が少しづつ紅く染まり始めていた……。

 


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