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シーン2

ファーラストの町はシグナやリシアの村とは比べ物にならないくらいの数の家が立ち並び、主だった通りは石のブロックで舗装されていて行き交う人々の数も多い。

 最初はそんな光景に心がはしゃいでいたシグナだが、流石に慣れてこれが当然と感じるようになってきてはいた。

 「しかし……こんな物をわざわざ二人で買い出しに行く必要があったのか?」

 茶色の紙袋を両手で抱えたリシアが不満そうに言う、店で使う調味料の買い出しをストークから頼まれシグナと二人でこうして歩いているのである。

 「町の人と交流し顔を覚えてもらうのも冒険者にとっては大事な事だってストークさん言っただろ?」

 シグナには何となくは分かった、町の人だって頼みごとをするなら顔見知りで信用できる相手の方がいいはずだし、自分達だって知り合いである人達のためなら余計にがんばれるだろうからだ。

 「まぁ……そうなのだろうけど……」

 応えながら何気なく周囲を歩く人達を見回してみる、昼過ぎとあってか買い物に向かったり帰るとこだったりと思える婦人が目立つが子供もいれば老人もいた。

 そんな中には明らかに身体を鍛えていると分かる男達もいる、武器を携帯していなくても冒険者か、あるいは非番の衛兵あたりだろリシアには分かる。

 当たり前だが冒険者とて仕事中以外で街中で武器を持つ事はない、魔物相手などの自衛の為に武器の所持は一般人でも認められてはいるが、必要もない場所で持ち歩けば周囲の者を怯えさせるだけだ。

 結果、誰も彼もが武器を持ちたがりかえって治安は乱れてしまうだろう。

 治安を守るために武器は必要であっても、武器そのものが治安を良くするわけではないのだ。 冒険者は正義の味方ではないが決して悪しき存在になってはいけなうのだ。

 それはリシアがストークから教わった冒険者の心得であるが、似たような事を父から教わっていた。 剣は人を守る力にもなるが同時に人を傷つけ命を奪う危険な力でもあり、むやみやたらに振りかざすものでは決してないと。

 そんな事を考えていると。「ん?」と不意にシグナが足を止めたので「どうしたの?」と尋ねた。

 「いや……クリム?」

 「あれ? シグナとリシア?」

 何かの店先を眺めていたクリムはこちらに気が付くと駆け寄って来た。

 「二人共今から帰るとこだったの?」

 リシアの持つ紙袋を見て言うと、「ああ、そうだけどクリムは?」とシグナが聞き返す。

 「わたしはアイビスさんから食材の買い出しの頼まれものだよ」

 冷蔵庫のチェックでいくつかの食材が足りなくなっていると気が付いて頼まれたのである。

 「そうなのか、なら一緒に行こうか?」

 「もう、買い物くらい一人で行けるよ! シグナ達は先に帰っててよ?」

 少し拗ねた声で言って駆け出していくクリムの後姿を、シグナは肩をすくめながら見送った。

 「やれやれ……子ども扱いしちまったかな……?」

 そんなシグナに「ふふ、仲が良いんだなあんた達は?」とどこか楽し気に声を掛けるリシアである。

 「まあ、兄妹みたいなもんだからな」

 「兄妹か、うふふふ」

 意味深げに笑う仲間の少女に「ほんとだぞ?」と言ってから、先程クリムの立っていた店の前に歩いて行くと、「あいつは何を見てたんだ?」と並べられた商品を見渡してみた。

 アクセサリーなどの装飾品を扱っているらしい、確かにクリムも女の子なのだからこういう物にも興味はあるのだろうとは思える。

 「さっきの子が見てたのはそいつだぜ?」

 店員らしい男が出て来て言う、子供くらいの身長だが手足が短く顔も中年のおじさんというべき男はドワーフだ。 人間とは別の種族になるのだが両者の関係は基本的に良好で、こうして人間の町で暮らしてるものもいる。

 「このペンダント?」

 銀色の楕円形の土台に蒼い小さな石がはめ込まれたシンプルなデザインのそれは、同じものがふたつ並んでいた。

 「ああ。 あの嬢ちゃん、こいつから何か力を感じるってな」

 そこへ「力って……何だそれは?」とリシアも会話に入ってきた。

 「ここに並んでるのは全部俺が作ったもんだがな、そいつはある冒険者から譲り受けた石を使ってあんのさ」

 何でも邪気を払い持ち主を守る力が僅かながらあるらしい、真偽は彼には分からないがちょっとしたお守りのようなもだろうと言う。

 「気になってしばらく迷っていたが……持ち合わせがなかったらしい」

 シグナは値段を見てみる、手が出ないほど高いというわけでもないが今の自分達が買うには少し思い切りが必要だった。 持ち合わせがなかったというのも本当だろうが、彼女の事だからやはりそんな無駄遣いは出来ないと考えたのだろう。

 「やれやれ……」

 純粋にアクセサリーとしてもだろうが、危険な冒険者をしていくとなれば気休め程度でもお守りくらい持っていたと思うのだろう。 シグナも先を考えて無駄遣いは避けるべきと堅実な考えをする一方で、偶には妹分の望みも叶えてもいいかもという想いもあった。

 そんなシグナなので、後ろではリシアが興味深げな表情で成り行きを見守っているのには気がついてはいない。

 「仕方ないか……」

 やがて決心したシグナがそう言った。



 カウンター奥に一人で座っているストークは、数週間前の出来事を思い出していた。

 「……エターナリア、お前んとこの弟子の面倒見ろってどういう事だ」

 カウンター席に座っている友人は「ん? 言ったままの意味だよストーク?」と何でもない事のよう言ってから、紅茶の注がれたティーカップを手に取る。

 「あの子達も世界を見てもいい頃合いだと思うの、小さな村に引っ込んでいては視れない世界をさ?」

 「それも分かるが……何で冒険者なんだよ?」

 冒険者は決して安全な仕事ではない、命を落とす事もあるし逆に誰かの命を奪う事もないではないのだ。 

 人殺しはもちろん重罪ではあるが、冒険者のような職業の場合にその時の状況を考慮され軽い罪で済む場合もある。 例えば誰かの護衛の最中とか、遺跡で見つけた宝を横取りされようとして戦いになった場合だ。

 だからといって人を殺しは最大級のタブーであるのは、冒険者も含めこの世界に生きる人間には当然の倫理観だ。

 「だからストークに頼むんだよ? あなたの事は信頼してるよ?」

 「勝手な言いようをするな……お前は……」

 最後に冒険をしたのは十年近く前になるか、カウンターの向こうの銀髪の女性はその時からまったく変わらない美しい容姿をしている。 いや、冒険者の仲間として出会った時からというべきか。

 「それにね、あたしはあの子達に冒険者としての未来を強要するつもりはないよ? 二人の……シグナとクリムの未来はあの子達のものだからね」

 だから止めたいと望むならそうさせてほしいと言う。 無論あまりにも安易な理由でともいかないだろうが、ストークならその判断をきちんと出来るだろうと信じている。

 ひとつの事から簡単に逃げ出す事は決して子供の為にならないが、大人のエゴで無理やりに縛り付けるのも同様なのだ。 逃げるという行為は立派な選択肢のひとつであり決して恥すべきものではない。

 「分かったよ。 お前さんの頼みだし、この店だって冒険者がいないんじゃ恰好がつかねえからな」

 しばし考え込んだ後でストークはそう言った、この時の選択は間違っていたとは思わない。

 冒険者は危険な仕事である反面、普通に街中で暮らしていては出来ない様々な事を経験出来る。 それは元冒険者であるストークはよく知っているが、自分の娘にその道を歩ませようという気にはならなかった。

 親としては平凡でもいいから幸せな一生を全うしてほしいと、そんな風に思ってしまうのである。 しかし、若い冒険者を助けるために冒険者の店をやろうというのも、ある意味では親心に近いものだととも思える。 

 自分の子供は危険に晒したくないと願いつつ他人の子供には危険な事をさせる手伝いをする、それは身勝手なエゴなのだろうかとも感じるストークであった。



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