シーン4
シグナとクリムは村長の家に泊めてもらい翌朝に帰る事となった。
「では、気を付けてお帰りくだされ」
「何か……迷惑かけちゃってごめんね?」
村の出入口まで見送ってくれたのは村長とリシア、それに彼女の母親だった。
三十代後半くらいの芯の強そうな女性は、「娘を助けて頂いて、ありがとうございます」と頭を下げた。
「いえ、私達もリシアさんに助けて貰いましたからお互い様です」
「そうですよ」
間違いなく本心である、実際勝ち目がなかったとは言わないまでも、二人だけだったら必ず勝てていたかは分からない
そして三人に別れを告げ、二人の若い冒険者は帰路に着いた。
「とにかく二人共無事で良かったよね?」
並んで歩くシグナにホッとした顔で話かけると、「そうだな」と笑顔で返ってきた。 それはクリムが良く知っている、二人で思いっきり遊んだ帰り道でずっと見てきた幼馴染の少年の顔だった。
行きに通った道をそのまま戻り、同じだけの時間を使って〈紅の誓い〉に帰って来た。
「お疲れさん、どうやら依頼は達成したみてえだな」
白いエプロンを付けてカウンターに立っているストークは酒場のオヤジだし、昼食時を終えお客のいなくなったテーブルを拭いているアイビスも普通にウエイトレスに見える。
「もちろんです!」
「はい、何とか……」
ストークは二人の返事を聞いてから一回奥へと引っ込み、小さな布の袋を二つ持って戻って来た。 それをカウンターの上に「そら、これが報酬だぜ」と置く。
シグナとクリムはそれぞれ手に取ってしばらく嬉しそうに見つめていた。
ベテランの冒険者のそれと比べれば決して多くはないだろう、それでも自分達の力で何かを成し遂げて初めて貰った報酬である。
少年達の達成感で満たされている顔をストークは知っていた。
かつて自分達も冒険者として初仕事を成功させた時、西の空が紅く染まっている中で、仲間達とこれからもずっとみんなで冒険者をしていこうと誓い合った、その時と同じ顔をしていたのだから。
「とにかく疲れただろう? 今日はゆっくり休みな」
数日後、彼らの元へ予想もしていなかった来客があった……それは当分は会う事もないだろうと思っていたリシアであった。
「あたしもまだまだ力不足だって分ったからさ、あんた達と一緒に冒険者をやらせてくれない? きっといい修行になると思うからさ!」
唖然とリシアの顔を見つめていたシグナとクリムは、次に揃って顔を見合わせて……。
「「ええぇぇええええええっ!!!!?」」
……と、店中に響き渡る驚きの声を上げたのであった。