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七重奏 三幕

 窓から薄く射し込む弱い陽に、徐に目を開ける。僅かにぼんやりする頭を働かせ、今日やることを思い出す。

「……聖樹の朝露を採らないとな」

 シキは採取用の小瓶を取り出し、静かに神殿へ向かった。神聖や無垢を通り越して、不気味さすら覚える程の純白。そんな彫刻に囲まれた神殿を通り、その奥の白色の扉を見据える。

「預言者様ですね。どうぞお通り下さいませ」

 聖樹へと繋がる扉を守護する、二人の衛兵の片割れが言う。

 白色の扉を押し開き、聖樹セフィロトを見上げた。青々と生い茂る葉の透き間から、淡い陽が射し込んでいる。聖樹の葉から滴る露を、小瓶に満たしていく。聖樹セフィロトの露――特にその朝露――には、非常に高い魔力、霊力が宿っていると言う。それを魔導具に取り込むことで、触媒として魔力を増幅させられる。

 ややあって、露が小瓶に八割程度溜まった。

「こんなもので足りるか。そろそろ戻って朝食にでもしよう」

 誰にともなく独り言ち、聖樹に祈りを捧げて扉を閉じる。

 家に戻ると、既にユキが起きてきていた。

「シキ兄、おはよう。朝ご飯どうしよっか?」

「そうだな……エッグベネディクトでいいか?」

「うん、じゃあオランデーズソース作るよ」

「助かる」

 二人で台所へ向かう。ユキはオランデーズソース、シキはそれ以外を用意することに。台所は二人で並んで作業出来て、対角線上にコンロが二つある。そのため平行作業も問題無く、早く作れるようになっている。

 ユキは鍋に水を入れて火に掛け、沸騰を待つ間に材料を用意。卵を一つとレモンを半分取り出し、スクイーザーでレモン果汁を絞る。

「シキ兄、ホワイトワインビネガーある?」

「そこの下の棚にあると思う」

「んー……あ、ほんとだ」

 シキの言った場所から、ホワイトワインビネガーを取る。

 水が沸騰したので、鍋を一度鍋を火から下ろす。ボウルに卵黄のみを割り入れた後、ホワイトワインビネガー、レモン果汁を加えて湯煎に掛ける。

 シキも鍋に水を入れて火に掛け、その隣でフライパンも火に掛ける。その間にベーコンは薄く切り、イングリッシュマフィンは半分に。そしてサラダ油と塩を取り出す。

「悪い、そっちのビネガーを取ってくれ」

「ちょっと待ってね、はい」

「ああ、ありがとう」

 卵液をかき混ぜているユキは、後ろ手でシキに渡す。ビネガーを入れるのは、ポーチトエッグを作る際、酢で卵白を凝固させるため。そうでないと卵白が拡散し、楕円形を作れない。

 フライパンが温まったら、サラダ油を広げて熱する。十分に熱したところで、ベーコンを焼く。同時に沸騰し始めた水に、ホワイトワインビネガー、塩を少々加える。泡立て器で渦を作り、卵を一つ片手で静かに割り入れる。殻を捨ててベーコンを返し、両面を十分に焼いていく。

 ユキは卵液が固まらないよう、湯煎に掛けたり下ろしたりしつつ、手早く卵液を混ぜている。暫く時間が経っているため、大分ソースも完成に近付いた。

 シキはベーコンを何度か返し、焼き斑を減らす。少し早くフライパンの火を止め、ベーコンは余熱調理。火の通った卵を掬い、もう一度同様に卵を割り入れる。

 同時にイングリッシュマフィンを、こんがりと焼く。

「結構もったりしてきたし、そろそろ大丈夫かな」

 ユキが静かに言い、ボウルを湯煎から外す。その後バターを溶かし、澄ましバターの部分だけ取り出す。ボウルに加えてよく混ぜ、塩胡椒で調味して完成。と言いたいところだが、ユキは若干焦った。ホワイトワインの存在を忘れ、入れ忘れてしまったためだ。

 一応それが無くても、ぎりぎり大丈夫だったと思う。若干心配なユキは、取り敢えずシキに尋ねることにした。

「ホワイトワイン忘れてたけど……まあ多分セーフだよね?」

「そこまで問題は無いかもな。壊滅的に不味くなるわけでもなし……」

 シキは答えながら卵を掬い、焼き終わったマフィンも取り出す。

「それなら良かった。後は盛り付けだね。お腹空いたなぁ」

 ユキが言いながらマフィンを取り、ベーコンとポーチトエッグを乗せ、オランデーズソースを掛けて、マフィンの上部分を乗せる。シキもそれに倣い、皿に乗せて食卓に運ぶ。

「いただきまーす」

 ユキは言うや否や食べ始める。一口噛めば、卵黄やバターの濃厚な味に、ベーコンの塩味が広がる。加えてレモンの酸味があるので、全体的にしつこくならない。

「うん、美味しいね……ってまだ食べてないし。先に食べちゃったら?」

「……そうだな、いただきます」

 昨日考えていたプランを確認し、取り敢えず食べ始めることにした。

「そうそうシキ兄、明日どうしよっか?」

「何か依頼でもしようとは思う」

「あー、そうだね。もう二日休んでるのか」

 エッグベネディクトを頬張りつつ、ユキがシキに話し掛ける。他愛ない話をして食べていると、時間は意外と早く過ぎた。

「ごちそうさま。食器洗っちゃうね」

「悪いな。それなら材料の用意はやっておく」

「おっけー」

 各々作業をして、グロリアのギルドへ向かう。他愛ない話をして歩いていると、直ぐにギルドに着いた。

「《預言者(オラクル)》のお二人さん。明日で構いません。少しお時間を頂戴してもよろしくて?」

 ギルド内に入ると殆ど同時に、トワに呼び止められた二人。

「別に構わないが、何故だ?」

「人前で話すのは憚られますが、奴らが動き始めた可能性が高い。その確認をしに行きたいので、それに着いてきて頂きたいのです。杞憂であればいいけれど、わたくし一人では心許ないので」

「それなら行ってみようよ、シキ兄」

 シキは言葉を濁すトワが気になるが、悪意は別段感じない。取り敢えず着いていくだけなら、と了承する。

「では明日、ここでお待ちしております。正式なものではありませんが、依頼としておきますわ。勿論、それなりの報酬も」

「わかった」

「ありがとうございます。それと、引き留めてしまって失礼しました」

「別に気にしなくて構わない」

 トワと別れ、テレポーターへ向かう。

 セレニアのギルドに転移し、ルカの姿を探す。

「あ、シキくんとユキくん。ちょっと待っててね」

 シキはラクトの函と聖樹の朝露を、ユキはヴァンの函を用意して待つ。

「うん、確かに。一時間程度で作業は終わるから、好きなときに来てね」

「ありがとう。じゃあまた後で」

 ルカと別れ、もう一度テレポーターへ向かう。

 フィーユのギルドに転移し、レイが出迎える。

「お、早く来といて良かった。オレもさっき着いたばっかなんだ」

 薄い緑色をベースにしつつ、淡い赤色や黄色なども差してある。ギルドの観察をしていると、レイが二人を呼んだ。

「そろそろ行こーぜ?」

「うん、じゃあ今日は頑張るよ!」

 ユキがギルドを出ようとすると、レイが慌てて止める。ユキの出ようとした大通り側、その反対側に家があるためだ。

「そ、そっちじゃない!こっちから出ないと行けない!」

「あ、ごめん。そんな出口あるなら迷いそう……」

 そんなこんなで、レイの家へ向かう。

 フィーユはその名に違わず、一片の葉の形をした街。大通りを中心として分岐する道は、上空から見れば葉脈にも見える。

 大通りは露店街になっており、少し道を曲がれば住宅街。ギルドは下端部に近く、殆どの道の始点である。大通りは言わずもがな、幾つかの短い路地も繋がっている。

 街の装飾も大抵葉の形をしていて、同じようでよく見れば違う形だ。それらは緑色の濃淡が殆どで、あまり代わり映えしない。そのためフィーユは迷いの都、との異名を持っている。

「ギルドから見て三番目の角を左で、次は最初の角を右。それで二番目の角を右に曲がって、最後の角を右……その突き当たりが、オレの家だよ」

 レイが歩きながら場所を言う。地図が無いと本当に迷いそうだ、とシキは思った。

 特に何を話すこともなく、レイの家に着く。かなり広く大きな家だが、外観にあまり飾り気は無い。

「うわ、豪邸じゃん」

「そーでもなくね?」

「……それは嫌味と取れば良いんだよな?」

「ちょっ、シキの家のこと言ってないし!」

「あはは、うちを比べたらね」

 などと話しつつ家の中に入る。

「キッチンはこっちだよ」

 あまり物の置かれていない、生活感の無い玄関を通って台所へ。

「さて、始めるか」

「了解!オレは何すればいい?」

「取り敢えず材料は量ってあるし、小麦粉をこれで振るいに掛けて。あとオーブンどこ?」

「わかった、オーブンはユキの後ろだよ」

「ありがと」

 ユキとレイが話している間に、シキは卵を溶いて鍋を用意する。その鍋に水と牛乳、バターを入れて置いておく。ユキはオーブンを余熱し、天板にオーブンシートを敷く。フレッシュクリームを冷やし、後は振るいが終われば次の行程。

「振るい終わったら教えてくれ」

 レイは首肯し、暫く振るいの音だけが響く。

「シキ、取り敢えず細かくはなったよ。こんなんでいける?」

「ああ、問題無い。次はこれが沸騰したら火を止めて、小麦粉を一度に加えて混ぜる。手早くやらないと、上手く馴染まないから気を付けろ」

「が、頑張る」

 レイが声を掛けると、シキは準備していた鍋を火に掛け、レイに交代する。

「ずっと混ぜてるだけって退屈だね……」

「そうなんだけどね……ってレイ焦げる焦げる!底からちゃんと混ぜて!」

「え、あ、まじか、ごめん」

 ユキは若干焦ったものの、焦げ付いていないようで安心する。それから僅かに経ち、軽く沸騰が始まった。

「小麦粉入れるんだよね?」

「いや、もっと確りと沸騰してからだな。それに火を止めてからだ」

「うん、覚えてなかった。簡単な作り方的なのないかな」

 レイが話しながら混ぜていると、本格的に沸騰し始める。そろそろ小麦粉を入れるか、とシキは思い声を掛ける。

「レイ、小麦粉を入れてくれ」

「火を止めてから、一気に入れて急いで混ぜるっと」

 行程を口に出して確認しつつ、その通りに出来るように意識する。

「これってゴールどこ?」

「鍋肌から剥がれて、一塊になるくらいかな」

「その後は……」

「卵液を少量ずつ加え、滑らかになるまで馴染ませる。生地が逆三角形にゆっくり落ちて、薄い膜を引く程度になれば良い。そうしたら艶が出るまで混ぜる」

「出来る自信ねーや、それ」

「ちょっと難しいよね……ボクも得意じゃない」

「それなら俺がやれば問題無いか?」

 レイもユキも大きく首肯した。

 生地が一塊になったので、生地が熱い内に卵液を少量加える。レイはシキと入れ替わり、その塩梅を観察することに。

「暫くはこんな感じで混ぜる。一旦生地を持ち上げてみて、生地の落ち具合を確認。これだとまだ速いな……」

「なんかすげーな。こんなん無理だろ……」

「まあ慣れだよね、後は。ボクも最初は失敗だらけだったし、やれば出来るようになるもんだよ!」

「習うより慣れろ、とも言うしな……生地はこれくらいだ。逆三角形、ゆっくり落ちる、薄い膜を引く。実際に持ってみるか?」

「おう、後は混ぜるだけならオレがやるぜ」

 シキの手際の良さで直ぐに終わり、後はレイが艶がでるまで混ぜる。

 ユキは絞り袋を用意し、生地を詰められるようにしておく。

「ふぅ、こんなもんでいいか?」

「うん、大丈夫だね。そしたらその生地をこれに入れて、生地を絞り出していくから」

 生地を入れた絞り袋を受け取り、シートの上に二つ絞り出す。

「大体これくらいの大きさと、生地の幅を維持すればいいよ。まあ、一回やってみて」

「……ん、こんな感じか?」

「そうだな。悪くないんじゃないか」

「後は表面を平らに均していくよ。水で指先を濡らしてやるんだ。今回はボクがやっていくね」

 レイは慎重に等量、等間隔を維持して生地を絞り出し、ユキが表面を均していく。

 シートに乗る分を絞り終え、生地も殆ど使いきれた。

「後は霧吹きで湿らせて、オーブンで二十分程焼く。そして少し温度を下げて、十分程焼けば生地自体は完成だ。但し、生地焼き固まるまでは、絶対にオーブンを開けないように」

「生地が膨らんで割れて、割れ目の中に焼き色が付くまでね。じゃないと萎んじゃうから」

「おっけー、じゃー焼いていくぜ」

 レイがオーブンで焼き始め、二人はボウルと氷水を準備する。

 それを見たレイは、何かやることがあるか尋ねた。

「あれ、まだやんの?」

「フレッシュクリームを泡立てる。それが終わったら暫く休憩だな」

「それは任せた。流石にオレでも腕が痛い……」

「あれだけ混ぜてれば仕方無い。先に休んでて構わないぞ。後は俺がやっておく」

「さんきゅ!目の前のダイニングにいるから、終わったら来いよー」

「ボクも先に休むね」

 シキは一人で残り、フレッシュクリームを泡立てる。手早くやってしまえば、そこまで時間は掛からない。フレッシュクリームは甘味を含み、砂糖は少し加えれば事足りる。確りと角が立つまで泡立て、保冷しておく。

 シキは一息吐いて、今日の作業風景を思い出す。シキはあまり作業していないが、レイに教えつつよく話していた。普段はユキと少し話すか、一人で作業することが多い。その方が効率的ではある。

「……こういうのも悪くない、か」

 自分も随分変わったな、と軽く自嘲しながら独り言ちる。

 その半分ぼやけた思考を振り、シキも休憩することにした。

「シキ兄、取り敢えず飲み物でもどう?」

「ミントウォーターならあるぜ」

「頂くが、意外だな。あまり嗜まないと思っていた……いや、そうでもないか」

「何か褒められてない気がする……」

 ミントウォーターで喉を潤し、他愛ない話に花を咲かせる。

 例えば、少し前の依頼の話。美味しかったご飯の話。趣味や好きな物の話。

 主にレイが話しユキが乗る形で、シキは殆ど聞き流していたが。

「そろそろ時間かな。ボクが行ってくるよ」

 そうして暫くした頃、ユキがオーブンの様子を見に行く。少し温度を下げて、十分焼くことにした。湯通し用のお湯も一緒に準備し、後で温められるようにしておく。

 ユキが戻ったその後の待ち時間も、特筆すべき何かは起こらなかった。

 退屈しない時間を過ごし、次の行程に。ユキがシューを取り出し、その焼き上がりを確認する。焼き目は確りしていて軽く、皮の表面は固くなっている。焼き上がりに問題は無い。

「うん、良くできてるね。じゃあクリーム詰めちゃおう。ボクは紅茶の下準備しとくね」

「それなら俺が一つやるから、後は真似してくれ」

「わかった。ティーセットはユキの右側の棚の、下の方に置いてあるぜ」

「うん、これだね」

 ユキは最初にお湯を沸かす。ティーポットとティーカップを、一度湯通しして温める。

 シキがシュー用の口金を用意し、絞り袋に取り付ける。シューの一つにクリームを詰め、その注意点を教える。

「入れる量はそこまで多くない。クリームの入れ過ぎは食べるとき、シューが破裂する原因になる」

「んー……これくらいでいい感じ?」

 レイは一度やってみて、シキに尋ねた。

 シキは実際に持って、その重さを確かめる。若干多い気はするが、誤差の範囲内だろう。ユキに一度渡して、二重確認をする。

「もうちょっと少ない方がいいかな?破裂はしないだろうけど、これ以上増えると微妙だね」

「おっけー、じゃーこれくらいだ」

 何となく感覚を掴んだようで、殆ど安定した量を詰めていくレイ。

「あ、お湯がそろそろいいかも。レイ、シッキムどこにある?」

「棚の上の方だからオレ取るよ。ちょっと待ってて……はい」

 レイがユキでは届かない位置から、容易く茶葉を取って渡す。ユキは若干複雑な気分になりつつ、ポットに茶葉を量っておく。少し冷まして粗熱を取り、そのお湯を注ぎ茶葉を蒸らす。

「本来はこれを積み上げて、チョコレートソースやベリー、パウダーシュガーなどで飾る。今は取り敢えず幾つか積んで、そのまま食べよう」

「それと大抵は、中のクリームはカスタードかな。これもアレンジ的な?」

「ふむふむ……まあちゃちゃっと運ぶか。」

 ダイニングに運び、食べる用意をしていく。丁度アフタヌーンティーの時間だ。ユキが紅茶を注ぐと、マスカテルフレーバーが香る。

「あ、これセカンドフレッシュだ。ほんといい買い物……」

「セカンドフレッシュ?」

「ああ、クオリティーシーズン――旬の時期のようなもので、ダージリン系は三回ある。その二回目……暑い時期のそれだな」

「へー……昨日ユキが言ってた、オータムルナ?もそれか」

「オータムナルね。後はファーストフレッシュだよ」

 透明感の強い橙色の水色で、見た目も美しい。先ずはストレートに一口飲む。強く深い味ではあるが、ダージリンより渋味は少なく繊細。甘味も感じられる柔らかさに、爽やかな後味が残る。

「よし、やっと食べられる……」

「ほんとありがとな!」

「この程度なら礼には及ばない」

「あ、少しゆっくりしたら、ボクたちは帰るね」

「したら帰るとき言えば送るぜ。迷子になったら帰れなくなるしな」

「悪い、頼んだ」

「お、美味いなこれ。作れるように練習しよ」

「これ破裂しそうなんだけど……」

 などと話しつつ、プロフィトロールを摘まむ。

 暫くアフタヌーンティーを満喫し、二人はお暇することにした。

「もうそろそろ戻る?結構いい時間な気もするし」

「それならギルドまでな」

「助かる。プロフィトロールを少し貰えるか?」

「別にいいけど、なんで?」

「知り合いの魔導具製作技師に、魔導具の調整を頼んでいるんだ。そこで差し入れにでも、と思ってな

 幾つかのプロフィトロールを、崩れないように容器に移していく。ルカには依頼報酬ではあるが、色々と頼んできた。流石に何もしないのは、仕事という意味では良くない。

「なるほどね。じゃー着いてきてー」

 家から出て、逸れないようにレイに着いていく。

 来た道を反対に進めばいいのだが、分岐が多すぎて迷う。景色が反転するだけで、ここまでわからなくなるものか。否、景色が反転しているのに、代わり映えしないからだろう。来たときにも思ったが、帰りこそ痛感した。迷路都市や迷いの都の異名は、決して伊達ではない。シキもユキも同様に、レイがいなかったら帰れない、と感じた。

「大通りから外れるだけで、ここまで迷いそうになるとは……」

「よく覚えてられると思うよ。しかもレイの家結構奥だし」

「なんか意外だな。二人とも記憶力いいし、一回で覚えるかと思ってた。特にシキはな」

 心底意外そうにレイが言う。シキはあらゆる魔法を使い、文武両道で何でも出来る印象がある。ユキは詠唱魔法の文言を、全て対応させて覚えているらしい。そう思うと、この程度造作無いと思っていた。

「瞬間記憶は得意ではない。精々本の序章程度が限界だな。それに視力も低いから、細かい部分は見えないんだ」

「ボクは短期記憶は早く抜けるんだ。定着すれば忘れないけど。……シキ兄はオッドアイだから、視力低いのは仕方無いよね」

「まじか。知らなかった。アルビノだから長袖とフードで、陽を避けてるのは知ってたけど。戦闘中とかどうしてんの?」

「特にどうとも。魔力の質や流れ、音などの視覚以外からの情報だ。調整すれば遠くまで見えるし、魔力で調節はしているぞ。眼鏡は戦闘中に割れたり折れたり、使い勝手が悪いんだ」

「うわ、そんな頭回んねーな。しかも眼鏡割るとか、戦闘激しくね……?」

「魔法の余波が強くて……シキ兄もだけど、特にボクは大魔法を使うから」

「あぁ……確かにあれは酷いもんなぁ。って着いたぜ」

 気付けば、ギルドの目の前だった。三人はテレポーターへ向かう。

「二人とも、今日はありがとな!また機会あったら、そんときはよろしく!」

「こちらこそ。じゃあ、また今度ね?」

「ああ、そうだな」

 レイは二人を見送り、光柱が消えた後に独り言ちた。

「誰かと家にいて作業するなんて、何年振りだろ。楽しかったし、それがシキとユキで良かった……まあ、帰ったらまた独りなんだけどね」

 寂しそうに笑い、されどその言葉は誰にも届かない。届いてほしい誰かにも、伝えられない。

「なんて、思ってるだけじゃ変わんないか。だったら楽しまないと損だよな」

 感傷的な気分を紛らわし、家路に着いた。

 一方シキとユキは、ルカから魔導具を受け取りに行く。

「あ、来た来た。早く渡したかったんだよ。間違いなくわたしの最高傑作。壊れるのは有り得ないだろうけど、ちゃんと大事に使ってね」

「ありがとう!前よりちょっと透明感がある」

「俺たちからの差し入れだ。受け取ってくれ」

「いいの?」

 ルカからヴァン、ラクトの函を受け取り、プロフィトロールを渡す。

「口に合えばいいんだけど……」

「美味しそうだよ。それにしても、心付けっていうチョイスか……シキくん小粋なことするんだね」

「そうか?意識したつもりは無いが」

「あ、じゃあわたしこれから仕事するよ。差し入れありがとね!」

「こちらこそ、調整まで良い仕事で助かった」

「また機会があったらよろしくね!」

 ルカと別れ、テレポーターへ向かう。

「転移・グロリア」

 光柱に包まれて転移し、聖樹に祈りを捧げて家に帰る。

 二人はまだ知らない。明日の一幕が、二人の運命を変えることを。或いは、それもまた因果の一巡り。変えるように見えるだけで、定められたものかも知れないが。

遅くなりました、すみません。涼音です。

災難って続くときは続くんですね。PCが無いので、携帯壊れてデータ消失、設定資料の裁断機混入、謎のエラーにより文章消滅などなど、試練でした。

それでも月初に出す、という最低限の目標は達成できたので、それで取り敢えずよしとします。

さて、お食事と会話ばかりです。書いててお腹減りました。美味しそう……

これを日常パートといっていいのかわかりませんが、ちょっと情報を出してみました。文章量が少ないのと、最早ご飯つくって食べてるだけ、というのでは流石によくないかと思いまして。

あと、今回紹介したレシピ以外にも、作り方はあります。あくまでも一例です。シッキムのマリアージュも、和菓子なんかでもいいですし。

次回、四幕は二部構成にしようか悩んでおりますが、戦闘パートなので楽しみにしててください!

焦ってルビ忘れてたごめんなさい!一ヶ所直しておきました。

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