表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちいさなわたしのこえ  作者: ゲンダカ
1/3

#01 prologue

 殺し合っている。

 森の静寂のその合間、金属音がこだまする。

 かたや、爪。

 かたや、剣。

 異形が振るうその爪を、ことごとく剣が弾き返す。

 見たことはない。聞いたこともない。

 大きな躯と、赤い肌。この世ならざるモノだということ以外、彼女は何一つとして理解できなかった。

 しかし、それ(・・)と対峙する彼については、ひと目見ただけで理解出来た。

 ぼろを纏った青年。彼はたった一本の細い剣で、自身の倍はあろうかという怪物と見合っている。


 彼が、跳ねた。

 怪物が振りかぶる。

 爪と剣とが、また大きな音を立てる。


 悲鳴のようなその音が、彼女はたまらなく怖かった。恐ろしくて恐ろしくて、今すぐにでもこの場から逃げ出したかった。


 しかし。

 彼女の目は、彼に釘付けだった。

 怪物と剣を交える彼もまた、悪魔(イヴィル)のような顔をして。

 美しい剣を、でたらめに振り回して。

 怪物より、怪物らしく飛び回って。


 それでも。


 彼は、人間だった。

 その有り様を、彼女はただ見つめていた。


 きれいだ、と。

 知らず、彼女はこぼしていた。





―― ―― ―― 



「マリアさま! (おか)が見えましたよ! 今度こそ、ジパングですよ!」

 潮騒のなか、デッキの上で、高い声が響いていた。

「おおー、ほんとだねえ。でもねハンナ。前のもジパングだったんだからね?」

「いいえ、いいえ! あんなちいさな島がジパングなものですか! 金の家とか、なかったですし!」

「そんなんあるわけないだろう……。まあ、楽しみにするのは勝手だしね。好きにおし」

「はーいっ」

「…………………」

「おやヒルダ。おまえは静かだね」

「…………魔力が濃くて。気持ち悪いです」

「ふうん、そうかい。おまえは繊細だからそりゃあ仕方ないけれど、陸の上はもっと濃いよ? 今のうちに慣れときな」

「…………はい」

「――――さあて。どんなトコかねえ、エドってのは!」

 先頭に立つ彼女は、船員の誰よりも楽しそうにそう叫んだ。



―― ―― ――



「今日はなんだか外が騒がしいな、瓦版」

「そりゃあそうですよ旦那。どうもおかしな黒い船が、まっすぐお江戸に向かってきてるって話です。とんでもなくでっかいのが、四隻そろってずかずかと! どいつもこいつもてんてこ舞いってわけでさあ!」

「へえ、そうかい」

「…………知らなかったのは、旦那くらいのもんでしょうよ。まったく、浮世離れは変わりませんなあ」

「は。俺のようなのがそうそう浮世に混ざれるもんかい」

「そりゃそうだ!」

 瓦版と呼ばれた男は、なぜか嬉しそうにひざを打った。

 雨風がなんとかしのげるだけの小さな小屋。江戸の町に溶けるように、潜むようにたたずむその中で、男二人が話していた。

「で、仕事は」

 刀の手入れをしながら、旦那と呼ばれた男が尋ねる。

「へい。箕輪の円道寺がお困りのようで。丑の刻だとか」

「はー、円道寺。そこまで来たか」

「ええ、そうみてえですよ。こりゃあそろそろ……」

「ああ。根ッ子叩かにゃまずかろう」

 言って、ぼろを着た男が立ち上がった。

 瓦版は、やれやれとため息を漏らした。

「仕事熱心なのはありがたいですがね。旦那がやられちまうと、あっしを始めに大勢が困るんですからね? どうです、ここいらで弟子のひとつでも」

「いらん」

 手入れの済んだ刀を腰に差しながら、彼はそう吐き捨てた。

「―――――鬼殺しなんぞ、俺だけで十分だ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ