5 (1章 終)
「ねえクロコ、聞かせてくれるかな」
クロコに拘束されながらも、ラミアは平気な顔をして尋ねた。
「どうしてダールトンを殺したの?」
「はあ? あんたいまの状況わかってる?」
「話さないなら動かないよ。それはクロコも困るでしょ」
バイト・バインドのスキルを使ったのはラミアを取り押さえるすきを作るため。取り押さえに成功した今、硬直状態は逆に足かせとなる。ラミアを強引にでも動かすことができないからだ。
ラミアがみずからターンを消費しなければ、解除に180秒の時間がかかる。
この様子では脅かしても言うことを聞きそうにない。だが攻撃を加えて一撃死されても困る。逃げ切るまで人質は必要だ。
「……あの男が、コブランをみすみす死なせてしまったからよ」
「てめえ、まさか本当にそんな理由で……!?」
リザッドは声を荒らげる。
フーグが加入する前に居たパーティメンバーのコブラン――彼女の死を恨んでの犯行ではないかと言ったのはリザッド自身だったが、ただの軽口で本気ではなかったようだ。
「ダールトンの性癖の話は聞いたでしょ。あの男の戦いは守りたいからではなく、ただおのれの欲求を満たしたいだけなのよ。……戦況から見てコブランの死は避けられなかった。けれど、そもそもそういう戦況を招いたのは、あの男が仲間の安全より自分の欲望を優先した結果なのよ」
「バカな。あの作戦にそんな私情を挟んでいたとは思えねえ。だいたい俺やおまえも作戦は妥当だと認めたじゃないか」
「コブランを死なせたことにちがいはないわ!」
クロコは感情的に叫ぶ。
「あの男はいっつも自信満々に『おまえらを守ってみせる』なんて調子のいいことを言って……! その結果がこれよ。いまだにあの男を慕うあなたたちだって許せない。なにがいいのよあんな男、ただ生まれつき、パラメータが抜きん出て高いだけじゃない!」
「それだけだからこそ、そういうふうに言うんだよ」
「あ?」
ラミアの横入りにクロコが顔をゆがめる。
「パラメータが高いだけで、みんなを守れるわけじゃない。守れるようになりたいと思っているから、守ってみせるって言うんだよ」
「知ったような口を……!」
「わたしは、わたしの約束を果たすよ。『すぐに解決してみせる』って言ったものね。あなたを捕まえないと、事件は解決したことにならないものね」
拘束されたままラミアはつぶやいた。
「こうげき」
「……っ!」
行動である。
ラミアは硬直状態なので実際になにか行動ができるわけではないが、これで1分を待たずして1ターンが消化された。
「いいかげんにしなさい、このガキが!!」
クロコは激昂し、ついに自分の装備の小太刀でラミアを切りつけた。
「えっ……?」
だがクロコは気の抜けた声をあげる。
たった1ポイント。
攻撃の命中とともにあらわれたラミアのライフゲージは、それだけしか削れていなかったのだ。
ラミアはふたたびターンを消化する。
クロコはうろたえながらも攻撃を仕掛けるが、やはり1ポイントしかダメージを与えられない。
そして3ターン目の消化を終えてラミアは自由になった。
「こうげき」
ラミアはパイプの火皿をクロコの正面に向けて、炎を放った。
彼女のパイプは魔法の杖だ。
「ぐああああ!?」
クロコの全身を炎が包み、ライフゲージを半分以上削った。
「残念だったねクロコ。人質を選ぶなら、容姿よりパラメータを見ておかないと」
【ラミア】
ライフ:1778/1782
・
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攻撃力:600
守備力:630
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・
ラミアが弾いたネームプレートには、ダールトンに匹敵する凄まじい高さのパラメータが並んでいた。
それを見る余裕もなく炎にもがくクロコ。
ただただ唖然とするリザッド。
つぶらな瞳をぱちくりさせるフーグが、思い当たって言った。
「まさかラミアってぇ……あの『塵焔』の大魔術士ラミア!?」
――へえ、本当に術士としては有名なんだな、ラミアのやつ。
万理は心中でつぶやいた。
幼い容姿もあいまって、いままで同名の別人と思われていたのだろう。
万理の知らないことであったが、『塵焔』とはいまや知名度において『護煌甲羅』の守護戦士ダールトンをしのぐ、若き天英のうちの一人の異名だった。
クロコが炎から解放されると、リザッドが彼女を取り押さえた。
その後ヤドババが呼んだ衛兵が駆けつけて、クロコは連行される。
こうして、ラミアが「すぐに解決してみせる」と大見得を切った今回の事件は、解決のときを迎えた。
推理については万理の力であったものの、それが最終的な結果であった。
「さてラミア、そろそろ教えてくれないか。どうしていきなり、念話ごしに推理のお披露目なんてやったのか」
簡単な事情聴取のあと、ラミアとふたりきりになった万理は仏頂面で尋ねた。
場所はふたりが宿をとっている部屋のなか。
ラミアはベッドに腰掛けて、あっけらかんと言った。
「へたに相談して時間を取られるより、さっさと解決しちゃったほうがいいでしょ」
「……思いのほか軽い理由だな」
万理はため息をついて、口をとがらせる。
「もし僕の推理が間違ってたらどうするつもりだったんだ。……いや、それ以前に、もしも僕が念話ごしでも話すことができなかったら」
「そのときはごめんなさいって言うしかないかな。推理を披露してたのはわたしだから、しくじって恥をかくのもわたしだし」
「…………」
「とにかくあの時点で推理材料が揃ってたなら、聞き取りはもうおしまい。女性との密会とか、気持ちの良くない話がつづいてたしね」
「柄にもないことを言うじゃないか」
「赤の他人だったらそうかもだけど。あることないこと吹き込まれて、恩人の名誉をあれ以上は汚されたくなかったんだ」
「ん、んん? ……そうか、やっぱり知り合いだったのか」
万理はその点については納得した。
ラミアはクロコとの言い合いでダールトンのことを知っていたような口ぶりだった。
なによりダールトンの顔を見た瞬間に彼の正体を言い当てていた。いくら有名人でも、写真のないこの世界で顔がわかるはずもない。ということは、以前にどこかで出会っていたのだと推察できる。
「まだわたしが7歳ごろの話だけどね。彼がリザッドたちとパーティを組むより昔だったんじゃないかな」
懐かしむようにラミアは話す。
「危険な旅路の護衛についてくれたんだけど、同じように『必ず守ってみせる』的なことを言ってくれてね。心強かったなあ。本当に頼りになるおじさまだった。ううん、頼りにされるように振る舞っていたんだと思う」
「それでさっきの発言ってわけか」
「うん、クロコはダールトンのこと、傷つきたい欲求を満たすために戦っていたなんて言ってたけれど、そんなことは絶対にありえないってすぐにわかったよ」
「……さて、どうだろう」
万理は否定的に返した。
「僕はダールトンさんの人格について知らないが、たしかにクロコさんはコブランさんの死をだれかのせいにしたくて、歪んだ見方をしていたように見える。けれどラミア、きみだって彼に憧れを抱くあまり、『そうあってほしい』という色メガネを掛けてはいないか」
「……うーん?」
「人の想いに真実なんて見出せない。むしろ『そうあってほしい』という雑念は、推理の邪魔にさえなる。考えないほうがいいんだ」
どこか自分に言い聞かすような口ぶりになっていた。
万理は推理の前に言った。
『犯人とトリックがわかった』と。
フーダニットとハウダニット。
すなわちホワイダニット――人の感情がからむ動機について、わかったとは言ってない。
分かろうとも、思わない。
ラミアはパイプを棚に置いた。
「でもね万理さん、そうあってほしいって感情は推理のさまたげになるかもしれないけど、そうありたいって気持ちは大事だよ」
チェック柄の両つば帽子を脱いでもてあそぶ。
「わたしが自信たっぷりに『名探偵』を名乗るのも、本当にそうありたいって願うから」
彼女の衣服や小道具は、名探偵シャーロック・ホームズをリスペクトして自分でアレンジしたものだ。
英国のないこの世界において、ふたり以外の誰もわからないことである。
「たんに自信があるからってだけじゃないんだよ」
「自信はあったんだ……」
ラミアの推理力の残念っぷりを知る万理は、ただただ呆れるしかない。
「次は万理さんに負けないよ。わたしがすべてを解決してみせるんだから」
「まったく、事件が起こるたびに言うつもりなのか……。無責任だな。解決できる保証なんてどこにもないのに」
「なんで?」
きょとんとラミアは首をかしげて、
「わたしが間違えても、万理さんがいるじゃない」
いままでのなかでも特に自信満々に言ってみせるのだった。
それこそ無責任なことを、自信の持てない万理にかわって。
名探偵を名乗るは小さな大魔術師――ラミア。
真相に到るは探偵助手にして異世界人――万理。
ふたりは探偵コンビとして様々な謎に立ち会っていくことになるのだが、ひとまず第二の事件についてはこれで終幕である。




