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ミステリアス・パラメータ  作者: なべりゅー
不死者を殺す密室
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 万理がラミアに意見を聞きたいことはふたつあった。

 まずひとつは、どう推理を伝えるか。

 わけあって万理は人前で目立つ行動を避けている。話し合いのなかで自然と犯人がわかるような流れに持っていくか、あるいはラミアにこっそりすべてを教えて披露してもらう必要があった。

 もうひとつは自分の推理が当たっているかどうか。

 自己判定では99パーセント間違いないと思っているが、言い換えると1パーセント外れる不安を残している。

 それにあくまでも主観の確率だ。

 事前にラミアの意見を聞いて、少しでも客観視しておきたい。自信がないのだ。


「犯人とトリックがわかったよ。これから推理を始めるね!」

「――!?」


 ヤドババが衛兵を呼びに行った直後、いきなりラミアが自信満々に言い放ち、万理は度肝を抜かされた。

 容疑者たちも一斉にどよめき、そのなかでもリザッドが食いつくようにラミアに迫る。


「なんだと!? おい、隊長を殺したのはだれなんだ!?」

「まあまあ、落ち着いてよ。順序立てて説明するから」


 ラミアは万理にだけ見えるように、脇の下から二本指をぴんと立てた。

 念話を送れというサインと思われる。


『……まさかきみ、僕に推理を念話で伝えさせて、同時進行で話すつもりか』

「もちろん、わかりやすくね」


 ラミアが口頭で、これまでの会話に違和感が出ないようなかたちで返事をした。

 宣言をしたラミアに全員の注目が集まっている。万理が一方的に念話を送るだけなら気づかれないだろう。

 

 ――打ち合わせなしに、念話ごしの解答なんて……。


 いくらなんでも無茶すぎる。

 しかし宣言されてしまった以上、いまさら止めるのはどうかとも思う。

 それに相談もなくいきなり宣言したのには、なにか事情があるはずだ。


『わかった。やれるだけやってみよう』


 万理は腹をくくって念話を飛ばし、推理を披露し始めた。


『まずみなさんのスキルやステータスだけではダールトンさんを殺すことは難しいでしょう』

「――『まずみなさんのスキルやステータスだけではダールトンさんを殺すことは難しいでしょう』」


 万理の念話をそのままラミアが声に出す。

 口調までそのままだったが、へたに気をまわして失敗するよりはマシだ。ツッコミがはいったら、ラミアは推理を披露するときだけ丁寧になるとでもフォローすればいい。


「『ダールトンさんを殺すには、ダールトンさん自身の力でライフを大きく削ってもらったと考える方が自然です。さっきから自殺や脅迫の可能性を考えていたのはそのためでした。が、どちらにしてもダールトンさん自身でとどめの一撃を――ライフをゼロにして自殺扱いにできます。わざわざ他殺にする理由がわかりません』」


 ここまでの内容はすでに話がされた前提条件である。

 万理は本格的に推理を伝え始めた。


「『そこで第三の可能性として、ダールトンさんはべつの事情で、死ぬ気がないままライフを寸前まで削り、犯人はそれを利用してとどめを差した――と考えるのはどうでしょう?』」

「べつの事情ってなによぉ? 結局、わけわかんなくない?」

「『まあ人の性癖というものは、よそから見ればわけわかんないことが多いわけですが……」』


 万理は言いづらそうに言葉をにごす。

 

「『変だと思いませんでしたか? ヤドババさんの記憶が正しければ、ダールトンさんは「なかにはいってる」って声をあげたんですよ。女性が言うならわかりますが、男性は「挿れる」側です。ふつうならこういう受け身な言い回しにはならないんです』」

「あら、ただの言葉のあやじゃないの?」


 クロコの言葉に万理はうなずいて、それを見たラミアが遅れてうなずく。


「『そうかもしれませんね。ですがダールトンさんが「挿れられる」側だったと考えてみるといかがでしょう? ひとつの可能性が浮かんできませんか?』……えっと、お尻の穴に、挿れられた……とか?」

『おい――!?』


 勝手にラミアが推理を継ぎ足して言ってしまった。 


「えええぇ。なにを挿れられたのかしらぁ? そういうおもちゃ? それとも男同士で自分のモノを――」


 フーグがどこかうれしそうに困惑の声をあげると、一同の視線がリザッドに集まった。

 ヤドババが盗み聞いたのはダールトンの声だけで、愛人の声は聞いていない。エリザベスという女性名が呼ばれたことから、勘ちがいしたとしても仕方ない。


「リザ……あなたがダールトンを好きなのは知ってたけれど、まさかそういう意味で好きだったなんて」

「んなわけあるかっ!」

「そっか、男同士の禁断の愛――それがこじれて殺人事件を引き起こしちゃったんだね」


 リザッドは間髪入れずに否定したが、探偵役のラミアまでもがしみじみと同調してしまった。


『ちがーう! ラミア、その推理ちがーう!!』

「……ほえ?」

『尻の穴じゃないし、男同士でもない! 訂正、訂正っ!!』


 万理は焦りに焦って、念話の声を荒らげる。

 ラミアは「あー」とうめいて額に手を当てた。気を取りなおすように大きな咳ばらいをして、目をそらしながら言った。


「ま、冗談はこれぐらいにして――」

「…………」

「…………」

「……冗談で済むか!!」

「『ではダールトンさんの愛人のエリザベスとは何者なのでしょうか』」

「おい待て嬢ちゃん話を途中で――」

「『じつは何者でもないのです。3人のなかのだれでも、そして外部の人間でもない。フーグさんが言った「おもちゃ」に近いです。――エリザベスは人ではなく物なのですから』」


 万理は遺体の右手を見下ろした。


「『ダールトンさんは自分が愛用する武器をエリザベスと呼んでいました』」


 全員の視線が遺体の右手に握りしめられた武器――閃きの殴打器(ブレイズメイス)に集まった。


「『なかにはいってるという表現は、自分の武器が自分の身体のなかにはいっているという意味です。ダールトンさんには、みずからダメージを与えて痛みやライフポイントが減る感覚を楽しむ性癖があったんです』」

「んなっ……んなわけある、かっ! ……えっと。いや、ない……よな?」


 リザッドはいったん強く否定したものの、だんだん自信なさげに言葉尻をすぼませた。

 ダールトンの人物評や戦い方を見ていると、自己犠牲精神らしきものがあったり、敵の注目ヘイトを自分に集めたりと、すすんでダメージを引き受けている。

 ダメージは痛いものだ。痛いものはいやだ。

 つい先ほど牙に噛みつかれたり、腹痛の毒を受けた万理は身にしみて実感する。

 ダメージを積極的に受ける行為は、ポジティブに見れば「勇敢」などという言葉に置き換えられるが、うがった見方をするならM(マゾ)な気質があるようにも見受けられる。

 付き合いの長いリザッドには、なにか思い当たる節があったのだろう。

 しかしリザッドは疑いを打ち消したいらしく、別方面からの反論を試みる。


「だけどそりゃあ、エリザベスが武器の愛称だと仮定したらの話だろうが。ふつうに女の名前だったかもしれねえ。証拠でもあるのかよ」

「『証拠はありませんが、根拠ならあります』」


 そう伝えて、万理はラミアに武器を持ち上げネームプレートを表示させるよう指示を出した。


「『文字遊びです。殴打器(メイス)は正しくはmaceなのに、「閃きの殴打器(ブレイズメイス)」の表記ではmeithとなっています。おかしいですよね。そこでBLAZE MEITHの文字を入れ替えると、Mを残してElizabeth――エリザベスになります』」

「ぐっ……なんて、こった……」


 リザッドが歯がみしながらも万理の説を認めた。

 万理のメッセンジャーとなっているラミアも感心し、ついで勝手に自説を加える。


「残りのMはマゾのMかなあ」

「いや、さすがにそりゃあ違うだろうよ!?」


 思いっきりツッコミが入った。

 順当に考えれば、残りのMはセカンドネームのイニシャルといったところだろうか。

 リザッドが大きくため息をついて、悩ましげに言った。


「しかし、隊長の自傷行為でライフポイントがゼロ寸前まで削れていたとしたら、オレたち3人のだれにでも殺せるよな」


 ダールトンのステータスを計算すると、ライフをちょうど1ポイントだけ残すこともできる。

 そんな状態でターンを消化せずギリギリ感を味わっていたとしたら、たとえ万理でも殺害可能だ。


「あら、だれにでも殺せるってだけで、だれにでも犯行が可能になるわけじゃないわ。忘れてない? 私やリザがとどめを刺したなら、密室はどう説明をつけるのよ」


 クロコが口の端をつりあげて、フーグを指差した。


「でもあなたのストマック・ポイズンなら可能よね?」

「そ、そんなぁ」


 ストマック・ポイズンのスキルは発動するまで4ターンの時差がある。万理に使って見せたように、毒を仕込んでから発動まで気付かれにくい。ダールトンの行為中に部屋へと闖入し、ひそかにスキルを使ってから退出。その後ダールトンが部屋のかぎを閉めて行為を続行すれば事件のつじつまが合う――ように見える。


「『なるほど。はじめからあなたは、ダールトンさんの性癖がバレない場合はリザッドさんを、バレた場合はフーグさんが犯人であるかのよう誘導する二段構えだったんですね』」

「……なんですって?」

「『フーグさんにはアリバイがあってあなたにはありません。いや、あえて作らない。そうしておけば、性癖バレした時の疑いはより一層フーグさんに集中します』」


クロコは憎々しげに牙をむいた。


「言いがかりよ。フーグのスキル以外に密室を作りようがないじゃない」

「『遺体の両手を見てください。右手は武器をにぎり、左手は床に投げ出されています』」

「……それがなに」

「『ストマック・ポイズンで起こる腹痛は強烈でした。もし本当にそのスキルで殺されたのなら、遺体の両手は――少なくとも片手は腹をおさえていないと不自然です』」

「っ……!」


 クロコは表情をゆがめる。

 これでフーグのストマック・ポイズンによってダールトンが殺されたわけではないと説明がついた。

 では実際にはどう犯行が行われていたのか。


「『クロコさん、あなたは僕た、いや、わたしたちに向けてバイト・バインドのスキルで攻撃してきましたね』」

「……なによ、いまさら蒸し返して」

「『あれは嫌がらせではなく、バイト・バインドを人に向けて使うものだと印象付けたかったからと違いますか?』」


 万理はベッドのシーツに付いた歯型のシワを見た。

 ラミアが牙を避けた際、代わりに噛まれた痕跡だ。すでに牙は消え、シワだけが残っている。


「『だれかがターンを消化しないかぎり、3ターンは何もしなければ180秒。つまり、人ではなく物に対してスキルを使った場合、180秒後に牙が消える。あらかじめ牙に凶器を噛ませておけば、部屋を退出したあとに発動するトラップがつくれます』」


 万理が密かに指をあげるのを見て、ラミアはクロコを改めて見据えた。


「『犯人はクロコさん。あなたです』」


 リザッドとフーグが目を見開いてクロコに顔を向けた。

 クロコはくちびるをちぎれそうなほど強く噛みしめ、ぎょろりとした目玉でラミアを威嚇した。

 ぶつぶつぶつとうめきながら、


「トラップってなによトラップってなによ。そんなものこの部屋にないじゃない」

「『頭の上は盲点になりやすい……なかなか気づきませんでしたよ』」


 万理は窓の段差に座っているラミアのちょうど真上、カーテンレールを見上げた。

 そこにあるのはふたつの真新しいへこみ傷。ちょうどバイト・バインドで噛ませたような痕跡だった。


「『まさか今更、ほかの理由でついた傷だなんて言いませんよね?』」

「……傷があったところでなに? それがトラップの痕跡だというのなら、牙に噛ませたっていう凶器の本体はどこに消えたのよ」

「『あるじゃないですか、すぐ足元に』」


 そこにあったのはダールトンのよろい輝きの両甲羅(シャイニーシェル)だ。

 窓には段差がある。カーテンレールから傾くよう引っかけておけば、牙の消失とともによろいは転がり落ちる。重いよろいだ。下に人間がいればダメージを与えられる。

 クロコは声を荒らげた。


「はあ? わざわざ窓の前によろいなんて置かないわ。不自然よ。私が持って行ったのなら、ダールトンは不審に思うはずよ」

「『ただ置いていたんじゃありません。干していたんです』」

「……!」


 部屋を見上げると、室内干しされた洗濯ものが目立つ。

 それらは細いワイヤーで吊るされている。


「『重いよろいを他の洗濯ものと同じようには干せません。もっと低い位置で、ワイヤー代わりの頑丈な支えがあり、なおかつ日光が当たる場所――この窓ぎわはうってつけじゃありませんか』」

 

 亀の甲羅の天日干しである。

 クロコが部屋に闖入した際、よろいに牙の細工を加えても、見た目の変化はほとんどなかったことだろう。

 ダールトンは部屋からクロコを追い払い、気づかずに行為を続行し、背後からよろいの一撃を受けた。


「『そして、はじめから干されていたのですから、牙の細工前にはよろいを吊るしていた洗濯バサミのようなものがあったはずです。しかし、どこにも見当たりません。よろいを吊るすのですから、かなり大きい。隠す時間もかぎられています。そうなると隠し場所は――』」

「……ちっ。自分の荷物のなかってことになるわよね、当然」


 クロコは服のなかから、ふたつの大きな止め金を放り投げ、観念したように言った。


「認めるわ。私がダールトンを殺した、のよっ!!」


「――!?」


 床に落ちた止め金に注目が集まる隙を突き、クロコのバイト・バインドがラミアを襲った。

 牙はラミアに食らいつく。硬直スタンが発生する。


「動くと殺るわ。私が逃げ切るまで、ラミアちゃんには人質になってもらう」


 クロコはラミアを抑え込み、そう脅した。


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