第5話 取材当日(2)
あ…大事にとっておいたお菓子が…ない。
しまったァ!お菓子を入れていた引き出しの鍵、開けたままだったァ!
くっ!やっぱ油断ならないなあのぬいぐるみッ!
でもちゃんと部屋を片付けてくれたし怒らないでおくか…。
鍵を閉め忘れた私のミスだし…。
次の日、ちゃんと約束通りテレビ局が我が家にやって来た。
あんな動画を見て取材を決定するなんてテレビ局って案外暇なんだな。
私が学校から帰るとちょうどハルがカメラに向かって喋っていた。
ああ…何てシュールな光景だろう。
だってカメラに向かってクマのぬいぐるみが喋ってるんだよ?
私だって初めてこの光景を見たなら笑っちゃうよw
私が帰ってきたって事でインタビューのマイクが私に向けられる。
えっ?そんな急に振られても頭の中真っ白だよ…(汗)。
「ハルさんを最初に発見してどうでしたか?」
どうでしたかって何?もっと具体的に質問してよ…。
えぇと、何て答えよう?何て答えたら正解だろう?
「え、えっと…最初はびっくりしました。でも今はうまくやっています」
こ、こんなのでいいのかな…?
あ、OK出た。
そうか…こんなのでいいのか(安堵)。
カメラはその後またハルに戻ってヤツは何か特技みたいなのを披露していた。
何か初めて見るダンスみたいなのをしている。結構上手い。
思わず私は初めて見るハルの意外な一面をお客さん視点で楽しんでしまった。
昨日折角片付けたのに結局カメラは私の部屋を映す事なく取材は終了した。
何だ、こうなる事が分かっていたなら別に部屋はそのままで良かったのにな。
「何かバタバタしちゃったけどやっと終わったねー」
お母さんがお疲れのジュースを出してくれた。
取材はお母さんのワガママだから付き合わされたこっちとしては労われて当然だと思う。
それでもテレビの取材って言う貴重な体験が出来たのは良かったと思う。
多分もう今後一生そんな機会はないと思うから。
「カメラに向かって喋るってやっぱ恥ずかしいよ…」
「これで僕も少しはこの家の助けになったかな?」
慣れない私に対してハルのこの堂々とした態度。
やっぱ向こうの世界で色々と経験してるのかな…。
「ハル…」
「ん?」
「やっぱやめた!気にしないで」
ハルの事を詳しく知ると変に同情しそうで聞くのが怖くなってしまった。
どうせ後二ヶ月もしたら別れてしまうんだから…。
そうお思うと何だかちょっと寂しくなってしまった。
(もう一ヶ月経ってしまったんだ…)
季節は一年で一番輝く初夏になっていた。