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日常

 ダイスケは頭の中に、学校にある構造物のおおよその見取り図を描いていた。


 その中から、地下のある建物を選択し、さらにそこに設立当初からある物という条件を加えて、候補を絞る。

 そうして残ったものを数えると、三つとかなり少なくなっていた。

 

 本校舎、別棟にある訓練棟、資料庫。


 それがダイスケの絞り込んだ、地下書庫の候補だ。


 ダイスケは考えていたのである。

 地下書庫がどこにあるかを。


 まったく別の建物ではありえないから、どこかに隠蔽されていると考えるべきで、現在ある建物の中にそれを見いだすとしたら、そういった絞り込みが有効だと思ったのだ。


 ただ、そこまでは絞り込むことが出来ても、そこから先が問題だった。

 地下書庫かどうか、あとはその場所を実際に調査しなければならないのだが、必ずしもその場所に入れるとは限らないからだ。


 とくに資料庫。

 そこは一般生徒の立ち入りが制限されている。


 なんでも貴重なLOAロアや、聖カウスにまつわる遺物なるものが展示されているスペースがあって、厳重なセキュリティが敷かれているからとか。

 そうなるとあからさまに怪しさが増してくる資料庫なのだが、先入観でここと決めつけることは、さすがにしなかった。

 やはり実際に見て確かめなければ。

 確証らしい確証を持ち合わせていない現状からすれば、そうやって調査していくのが常道である。


 ゆえに、ひとまずはどうすれば入れるか、それを考えておく必要があった。

 もっとも、いまはそれ以上に優先すべき事項もあったのだが。


 情報収集である。

 手持ちの情報があまりに少な過ぎて、心許こころもとないのである。


 記憶をなくすような事故すら実際に起きている。

 なにが起きるか分からない。

 準備もなしに、実地調査にのぞむのはできるだけ避けるべきだ。


 ということで、まずやらなければならないことは……


――聖カウス、だろうな。


 ダイスケは頷いた。


 まずは彼についての知識を深めることが必要だ。

 ダイスケには決定的に、彼についての情報が無いと言うのもあるが、地下書庫を作ったであろう人物を調べることは、そこから見えてくるものも多いだろうとの判断だった。


 ということで、ひとまずこの人物から調べていこうとダイスケは決めた。


 そう、決めた。

 決めたのだが――


 ……。


 あー……。


 ダイスケは面倒臭そうな顔をして、見上げた。

 実はこうして黙考している間に、厄介な問題が一つ起きていた。


 まぁ、理由は目の前で起きていたので、わかってはいる。


 これは明らかに彼の失態だった。


 ダイスケは一つため息をつくと、あらためて目の前の人物を確認していた。

 自分の机の前に、一人の少女が仁王立ちしていた。


「……ダイアさんと言ったかしら?」


 そう言ってその少女が声をかけてきたのは、ほんのついさっきのことだった。

 昼休みに入ってすぐのことだ。


 彼女はエーコ=ビスマルクとダイスケに名乗っていた。

 こんな時代に、盛大に髪をカールさせた、中世のお嬢様然としたヘアスタイルの少女だった。

 見るからに、それなりの家柄であるとわかる。


 しかし、その家柄と性格――もしくは品位は必ずしも一致するものではなく、彼女はその典型のような少女だった。


 ダイスケは彼女に、持っていたスタイラスペン(机がタブレットになっている)を、突然、遠慮無く はたき飛ばされていたのである。


 もちろん彼女にも理由はあった。

 ダイスケが熟考のあまり周囲が見えなくなっていて、しばらく彼女が声をかけてきていることに気付かず、無視する形になっていたからだ。

 怒るのは当然ではあった。


 とは言え、そこで怒らなくとも、負けん気が強いうえに、不適合者ハスクに対する嫌悪感も人一倍のようなので、どう振る舞っても結果はそう変わらなさそうではあったが。


 やれやれと思いながら、ダイスケは床に落ちたスタイラスペンを拾い上げると、あらためてエーコを見上げていた。


 周囲にいた男子たちも、その様子を見てハラハラしているようだったが、声をかけてくるまでには至っていなかった。

 どうやらエーコはこのクラスの中心的な存在であるようだった。


 そういえば取り巻きらしき少女が二人、その後ろに控えていた。

 これはいよいよ面倒臭そうである。


「気付かなくてすみません。集中してしまうと、周りが見えなくなってしまうんです。それで、どうかしましたか?」


 ダイスケは丁寧に謝罪し、努めて冷静に対応した。


 それを意外に思ったか、両腕を胸の前で組み、こめかみをヒクつかせていたエーコが腕をおろしていた。


「あら、みすぼらしい割にはそれなりの礼儀は心得ているようね? けれど不適合者ハスクは、どこまでいっても不適合者ハスク。いますぐ学校をお辞めになった方がいいわ。これは善意で申し上げているのよ?」


 しょっぱなからコレである。

 ダイスケは苦笑いだ。


 直球で自分の願望を投げつけておきながら、それを善意だとのたまつらの皮の厚さ。

 不適合者ハスク嫌いもさることながら、ずいぶんとままにそだてられたようである。


 ともあれ、ダイスケの答えなど決まっている。

 が、ここはあえてこう答えることにする。


「いいですよ」


 エーコの眉がぴくりと動いていた。


「……意外ですわね。ずいぶんと素直ですのね?」


 その後ろの方で、ひどく男子たちが落胆するようなため息が聞こえた気がしたが、ダイスケは聞かなかったことにした。


「ただし、『いますぐに』というのはさすがに無理です」


 エーコが一瞬不快そうに顔をしかめたが、取り巻きの一人にヒソヒソと耳打ちされると、平静を取り戻していた。


「そう。それもそうですわね。出て行く準備くらいは、もちろんさせて上げますわよ。私は心が広いですから。なんなら私の家の使用人を手伝いに向かわせてもかまいませんわよ?」


「……」


 指摘されなければ分からないとは、どうやらこの少女、おつむのほうは少々弱いらしい。


 ……そう言えば、最近どこかで、同じような単純な思考の持ち主に会ったような気もするが、さて誰だったろうか。

 

 そんなことを考えながら、ダイスケは用意していた答えをそのまま口にした。


「それは嬉しいのですが、それには及びません。それでもまだ急ですから。そうですね、四年……いえ、三年くらい頂ければ大丈夫ですから」


「三年? 分かったわ……それくらいなら――」


 納得しかけて、再度取り巻きに指摘され、エーコはハッとする。

 再び睨んで来ていた。


「どういう事かしら?」


「そういうことですが?」


「あなたっ。私をバカにしているの!?」


 まさか。


 大まじめな顔で、ダイスケは首を横に振る。

 ただの本心を言ったまでである。


 この学園では半期に一度、考査テストがあり、そこで優秀な成績を収めれば、学年を上げることが出来る。

 それを踏まえ、半期に一学年ずつ上げていくとすれば、ダイスケの言葉どおりになるハズなのだ。


 とは言え、当然問題にされているのはそんなことではないのだろうが。


「わかっているのかしら? 私が誰か」


 ワナワナとエーコが肩を震わせていた。


「さっきお名前はお聞きしましたけど?」


「そういうことではありませんわ!!」


 顔も真っ赤である。


 もちろん彼女の言わんとしていることは、ダイスケも承知していた。

 それは彼女の姓がビスマルクであることを聞けば、さすがに彼女を知らなくとも大概の人は気付くからである。


 ビスマルクと言えば、クーリエを含む♯07地区の議員の一人。

 過去の時代で言えば、それは県議や都議にあたる役職である。


 彼女の家は代々その代議士の家系で、それだけ財力を有していると同時に、大きな権力、発言力を持ち合わせているのだ。


「では、どういうことでしょうか?」


 ダイスケはわざとすっとぼけて聞き返してみた。


 ここで家の名を持ち出せば、実はそれはその時点で彼女の負けなのだ。

 例え権力を握っていたとしても、ここは学校だ。


 それもラフィンズベイグ教団の運営する教育機関である。

 そこに一議員の娘が、強引にことを起こせば、たちまちその家の醜聞となって話は広まるし、なにより教団への心象が一気に落ちる。


 ラフィンズベイグ教は世界宗教。

 たかだが一議員の影響力など、その教団の前には知れたものである。

 つまり、確かに彼女の家には権力があるのかもしれないが、それをここで振りかざすことはもともと出来ないことなのだ。

 

 そのことを取り巻きの一人に耳打ちされて、エーコはますます怒り心頭で、ダイスケを睨み付けていた。

 いい参謀がいらっしゃるようである。

 いや、むしろお目付役と言った方が正解なのかもしれない。


「わかりました。あなたがそういうおつもりなら、私も容赦はいたしませんわ! いくら年下で庇護ひごすべき対象であっても、こうまで馬鹿にされてはビスマルク家の名折れ! 私が道を説き、見事にしつけてさしあげます!!」


 しつけ?


 そうダイスケが首を傾けるとほぼ同時、エーコは腕を振り上げていた。


「なにを――」


 取り巻きの一人――お目付役が止めに入ろうとするが、すでに間に合うタイミングではなく――


 スパァンッ!


 スナップの利いた見事な平手打ち。

 目から星が飛ぶかと思うような、衝撃がダイスケの頬を襲っていた。


「身の程をわきまえなさい!!」


「……」


「くふ。いい気味だわ」

「そ、そうよ! エーコ様の言うとおりよ!」

「生意気にもほどがあるのよ! 不適合者ハスクのくせに!」

「いますぐあやまって!」


 と外野からもヤジが飛んでくる。


 どうやら女子の大半はエーコのシンパであるらしい。

 もっともその彼女の家の威光に当てられている者も多そうだが。


 ちなみに男子は男子でオロオロとするばかりである。

 ダイスケが応援したくなるくらい腰が引けていた。


 しかし、これでダイスケもよく分かったのだった。

 クラスメイトたちのだいたいの立ち位置だ。


 ただ、さすがにあおりすぎた感はいなめなかった。

 このまますんなり教室を出させてくれるかどうか、それすら少々不安になるほど場はすさんでいた。


 さすがにここでリンチ――とまではいかないだろうが、せっかくの昼休みも調査時間どころか昼食抜きになる可能性は大きい。


 学食がうまいって聞いてたのに……


 それだけが心残りである。


 と、場違いにもそんなことを思っていると、予想外な声が横から飛んでくるのだ。


「何をやっている!」


 少年の声だった。


 目を丸くするエーコの視線を追うように、ダイスケは顔を横に向ける。

 その人物の顔を目の当たりにして、ダイスケはさすがに困惑した。


 なんでここにいる?


「大丈夫かい?」


 そう自分に声をかけてくる美少年に、ダイスケはほとんど反射的に頷いていた。


 あまりに意外だった。

 普通ならば、彼はこのあたりをうろうろしているような人間ではないはずなのだ。


 ボンド=ウッドワークス。


 割って入ってきたのは彼だったのである。

 マルソーの秘蔵っ子をかたるあの少年だ。


 さらにその後ろには、


「ビートお兄様っ」


 エーコがそう呼んだ男子生徒もいた。


 釣られるようにダイスケも目を向けると、さらに現れた人物にますます微妙な顔をした。

 なぜならそこにいたのは、昨日会っていた人物でもあったからだ。


 エルセリンデをなぶっていた、あの角刈りの少年。

 名前をビートと言うらしい。


 お兄様と呼んだが、なるほど。

 どうりで彼女に既視感を覚えるわけであった。


 彼にも昨日、いまのエーコと同じようなことを言われた記憶があった。


 『わかってんのか? 俺が誰か?』


 一方、ビートもビートで、こちらを見てまさかこんなところにダイスケがいるとは思わず、ぎょっとしていたが、昨日のことはさすがに無かったことにしたいのか、意図的にこちらの存在には触れないようにして、寄ってくるエーコと話していた。


「お前が会いたがっていたからな。連れてきてやったんだぞ? コイツがマルソーの秘蔵っ子、ボンドだ」


「まぁ!」


 とそれまでの態度はどこへやら、途端に目をキラキラさせてエーコはボンドへと顔を向ける。


 しかし、だからといってそれまでのことが無くなるわけではない。


 ボンドがダイスケの頬に残った殴打のあとを見て、困惑するようにエーコを見ていた。

 そしてひどく残念そうな表情で、


「君はお姉さんだろ?」


 指摘する。


 一瞬なにを言われているか分からなかったようだが、ダイスケを見て彼女はハッとしていた。


「ち、違いますボンド様! 勘違いをなさらないで下さい。これは躾なのです。物事をわきまえない不適合者ハスクには、上の者が責任を持って教えなければならないのです」


「そう……不適合者ハスクには、ね」


 ボンドは端的にそう答えると、ガッカリしたようにビートを一瞥いちべつし、息をついた。


「なら、ボクが代わって教えるよ。教えるのはさらに年上の人間の方が良いだろう?」


「なっ!」


 エーコが目を剥く。


 その言葉に驚いたのはダイスケも同じである。


 一体この少年は何を言い出すのか。


 それは周囲も同様のようだった。

 咄嗟にはかける言葉も見つからないようだ。


「ほら行こう」


 ダイスケもダイスケで返事をする暇もなかった。

 強引に腕を引っ張られる。


 どうやらこの少年、分かっていないのだ。

 そんなことをすればダイスケの立場が、ますます悪くなるということが。

 いや、それとも分かってなお、この場にいる方がダイスケにとっては悪いとの判断なのだろうか。


「お待ち下さい、ボンド様!!」


 我に返り、すがり付こうとするエーコ。

 しかし、ボンドは片手で制止し、自分も止まらなかった。


「悪いね、ビート。先戻るよ」


 ボンドはその返事を待たず、ビートに告げるだけ告げて、ひどく悲しげな顔をするエーコを無視し教室を出ていた。

 さすがに五歳児と一〇歳児では体格も違うので、ダイスケは為す術なく連れ出されていた。


 去り際、一瞬、エーコに激しい憎悪のこもった視線を向けられたが、こればかりはダイスケのせいではなかった。

 完全にとばっちりだ。


 それにボンドもボンドなのだ。

 エーコがボンドに好意を持っているのは、その熱っぽい表情をちょっと見ればすぐにわかるだろうに。

 あきらかに一目惚れした、乙女の顔だったのだ。


 ダイスケはボンドを見上げつつ、ため息をつくのだった。


 *


――学食。

 それが移動先だった。


 不適合者ハスクであることは、クラスメイト以外にはまだほとんど知られていなかったので、ここではさすがにダイスケが心配するような状況にはならなかった。

 が、それでもなぜだか注目の的であるから不思議であった。


 やはりダブル編入生というのは珍しいからだろう。


 いや――


 このイケメンめっ!


 ダイスケは席の向かいに座るボンドを、ぶすっとした顔で見た。


 しゅっと鼻筋の通った怜悧れいりかお

 エーコでなくとも黄色い歓声の一つでも上げたくなる、それはそれは端正な作りだった。


 もちろん、男のダイスケにそんな趣味はないので、ただの感想以上の感情をそこに持ちはしなかった。

 

 が、それでもなお忌々(いまいま)しい。

 作者的に。


 ――おっと、話が逸れた。


 さて、いまのダイスケであるが、こんな場所に連れてこられた以上することは決まっていた。

 昼食だ。


 目の前にはいま、クスクス――粒パスタのトマトソースがけ――があり、ダイスケはそこにスプーンを突っ込んでいるところだった。

 ただし、頭の中ではまったく別のことを考えながら、だ。


 この美少年がわざわざ自分を助けた理由について考えていたのである。


 ボンドはダイスケが不適合者ハスクと知っても、いまだ微塵の躊躇ちゅうちょも見せずにいた。

 不適合者ハスクの肩を持つ者も、基本的には忌避の対象になりかねない世の中だというのに、だ。


 これで何も意図しているところがないと思う方が、むしろ違和感があろう。

 善意だけで不適合者ハスクとなれ合うメリットなど無いのだ。


「……どうしたんだい? 口に合わない?」


 さすがに無言で居続けたせいか。

 同じ物を口にしていたボンドが、気にしたらしく首を傾げて聞いてきていた。


 ダイスケはスプーンに視線をやりながら、首を振った。


「すみません。まだ食べてないので」


 言って、よくやく口にスプーンを運んでいた。


 はむはむはむ。


 とくに料理の味に興味があったわけではなかったが、


「!!」


 思わず目を丸くしていた。

 凝視したのはクスクスである。


「うまっ!」


 勝手に口から言葉が出ていた。


 うまっ!

 超うまっ!

 このクスクスうまっ!!


 ガツガツと口の中にかき込んでいく。


 クスクスは米とはまた違う、不思議な食感の食べ物だった。

 カデンツァに居たときはマルソーの指示もあってか、和風洋食がメインで、普段は米料理中心だっただけに、クスクスははじめてだったのだ。


 とくにトマトと羊肉を煮込んだソースがまたうまかった。

 

「ふふふ。そうだろうそうだろう。僕の一押しだからね」


 ボンドが素直に喜んでいた。

 ダイスケに、ここはコレが一番なんだと、注文時に勧めてきたのは実は彼なのである。


 が、ダイスケは思い出したように緩んだ顔を引き締めていた。


 ハッ!? これは懐柔工作?

 懐柔工作なのか!?


 ふたたび警戒する。

 お互い、自己紹介はすでに済ませていたが、まだうち解けるほどには言葉を交わしてはいなかった。


 もっとも警戒しているのは、一方的にダイスケからであって、ボンドはそうでもないようだったが。

 

「さて、それはそうと――」


「なにが目的ですか?」


 ダイスケはボンドが話を切り出そうとして、そこに自分の言葉をねじ込んだ。

 主導権をとろうという腹積もりだ。


「んー、目的?」


 白々しくボンドが首を捻っていた。

 そのまま彼はしばし考える素振りを見せると、


「可愛い子がいたら声をかけたくなるのは自然なことだよね?」


 平然と言ってのけ、満面の笑みを見せたのだった。

 白い歯がそれはもう目に痛いくらいに輝き、キラキラオーラ全開である。


 が、当然同性にそんなはぐらかし方が効くはずもない。

 ……というかそれ以前に犯罪チックなセリフなので、作者がこっそり通報したい気分ですらある。


 念のために言っておくが、幼児へのいたずら、ダメ。絶対! である。


 もちろんダイスケもそんな少年の態度には、持っていたスプーンを少年の顔のど真ん中にめり込ませてやりたいほどの衝動に駆られていたが、なんとか押さえ込むことには成功していた。


 ひっひっふ~。


 落ち着こうと呼吸を整えるが、嫌悪感で何か生んではいけないものが生まれそうである。


「って、ごめんごめん。もちろん冗談だよ。ふふふ」


 軽く笑いながら、謝罪してくるが、まったくもって上辺うわべだけである。


 しかし、そのせいでダイスケが油断したのも確かだった。

 まさかこの話の流れで、そんなセリフをぶん投げてくるとは、そもそも思いもしなかったのだ。


 少年は言っていた。


「それで話は変わるんだけど、ダイアちゃん。僕は知っているんだ。君のことをさ。よーく知っているんだよ」


 そう笑顔を浮かべた瞳の奥は、まったく笑っていなかった。


 ダイスケは持っていたスプーンをぴたりと止めていた。

 まっすぐ見返す。


 吸い付いてくるような彼の視線がそこにはあった。

 そこから目をそらすことを由とはしない強い意志が感じられた。


「他の誰もが知らないはずの、君のことを、さ」


 ボンドの放つ異様な気配。

 覚えたのどの渇きに、ダイスケは生唾を飲み込んだ。


 ……コイツ、何だ? 何者だ?


 そう肝を冷やしていた。

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