表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/34

プロローグ

 眼科に行ったところまでは覚えている。

 それなのにどうして、こんなところにいるのだろう。


 相浦大介あいうら だいすけは、ただ遠くまで広がる砂漠のど真ん中にいた。


 玄武げんぶ岩の砂礫されきが混じった黒砂の砂漠。

 見渡す限りが、砂で覆われていた。

 砂丘のさらに遠く見えるのは、また砂丘と砂丘――


 日差しが有れば、おそらく灼熱に包まれていてもおかしくないこの広大な場所で、ダイスケは声すら出せず、ただそこにいた。


 ……いや、違う。

 声は出そうと思っても出せないのだ。

 いまさらながら彼は自分の身体の異変に気が付いていた。


 視線がいつになく低い。

 そういえば自分は、二つの足で立ってすらいない。

 なぜ手足で地面を這っているのか。


 手を持ち上げた。


 いやに小さな手が目に入った。

 プニプニとやけにはれぼったく、頼りない。

 彼のよく知る、自分の手だったものとは全く違っていた。


「!」


 ダイスケは息をのんだ。

 焦りを覚えていた。

 急いで、くまなく自分の姿を確認し――


 愕然とした。


 オレじゃない!?


 ようやくそのことに気付いた。

 

 ダイスケは今年の誕生日が来れば二一になるはずだった。

 だというのに、なぜこんな身体なのか。


 赤子だったのだ。

 まだ二足の足で歩けもしない、そんな幼子の身体が彼の身体だった。


 だが、ダイスケは夢を見ているわけではなかった。

 五感が認識していた。

 これが現実なんだと。

 この砂の感触は嘘ではないのだと。


 ダイスケは間違いなくここにいた。

 理由も、原因もなにもかもわからないまま、彼は砂漠にいた。



「いよぉ? 気分はどうだい?」


 どれだけそうしていたか。

 呆然としていた彼にかけられた声。


 焦点の合わなかったダイスケの目が、上を向いていた。


 次第に鮮明になるその人物の顔。


 いつの間に来たのだろう。

 ダイスケを上からのぞき込んでいた。


 頭に、赤と青の綿で織られたターバンを巻いた、三〇代くらいの男だった。


「お前がダイスケだな? オレはマルソー。マルソー=ブラッディアルバ。お前と同じ帰還者リターナーだよ。迎えに来たぜ」


 男はそう言って、さわやかな笑みをダイスケに向けていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ