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道聴塗説  作者: 静梓
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オンライン小説についてほんの少し

※ 個人の意見です。

 「オンライン小説」について語る前にはまず、「オンライン小説」とは何かということを定義しなければならない。しかし現状として、その定義を与えることは難しいと言わざるを得ない。とはいえ、まったくそのことに触れずして後の論を展開することも不可能である。ここではひとまず曖昧ながらも一応の定義をしておこう。


 さて、オンラインとは「インターネットやパソコン通信を介したものである」という意味であることに反論はおそらくでないであろう。一方で、そうした定義からどこまでを許容し、どこまでを除外するかという点で、恣意的な分類が可能であるというのもまた事実である。


 例えば、オンライン小説の下位概念としてケータイ小説があるが、これを除外し狭義としてのオンライン小説を形作り、ケータイ小説-オンライン小説という並置の関係に置くこともできる。電子書籍をふくむ書籍の小説とオンライン小説との境界をどこに置くかという問題もまた定義者の恣意であり、そこに必然的な境界を置くことは既に不可能であろう。


 小説とは何かという問いはさらに難しい。例えば、個人的な逸話や伝記と自分史的小説との差異とはどこにあるのかという問題がわかりやすい。作者の意図のみが重視されるという考え方はあまりにも権威主義的に過ぎると言わざるを得ない。


 かといって、読者の読解のみが重視されるというのも同じことである。娯楽性の強いスポーツ新聞や夕刊などを「これは小説だ」と言われれば小説になるわけではあるまい。逆に、新人作家が書いた物語を文芸批評家が「これは小説ではない」といったとして、それもまた小説でなくなるわけでもないだろう。


 文学の読みは得てして過保護的になると言われる。しかし、オンライン小説においてはその過保護な読者意識を生み出す環境に乏しい。もちろん、国語科教科書に載るような文学史的意義をもった小説であっても、歴史的不理解による非協力的な読みというのはあり得る。歴史的意義というレッテルにより、価値があると思いこんでしまうというのもまた問題ではある。


 他にも語句が有機的に結びついているだとか、日常言語-非日常言語という異化効果をもち言語を前景化させるだとか、芸術的であるとか娯楽性を有しているだとか、言語化によるフィクション性だとか様々な要件をあげていくことは可能であるが、そのどれもが小説以外にも当てはめうる。小説という言語表現の一形態からその特徴を抽出したとして、それが必ずしも小説を定義し得るものとは言えないのである。当然、言語表現はいかようにでも変化し得るものであり、一度定義できたとして、それが未来永劫適用できるものではありえない。


 結局のところ「オンライン小説とは何ぞや」という問いはどこまでいっても個々の意識によるとしか言えないのである。ここから述べるオンライン小説とは「ウェブ上で閲覧する言語表現」という程度の意味であることを留意してもらいたい。


 さて、オンライン小説がもつ特徴とはなんだろうか。


 一つ目はリンクの利用であろう。文書の中にポイントを設けることで、他の文書や絵図にジャンプすることができるのがオンライン小説の強みである。目次から本文だとか、本文から注釈だとか、あるいは本文のある箇所から別の箇所だとかいうリンクであればオンラインでなくとも可能である。しかし、世界中に分散する情報を簡単に自身の作品の中に取り込むことができるというのは、オンライン小説ならではということができるだろう。


 現状、完全とは言えないまでも世界中の情報が収集され、雑多な感は否めないが、広い範囲でアクセス可能な状態となっている。極端な言い方をすれば、現実の世界全てを自身の作品に所属させることができるのだ。以前に歳時記の例を出したが、それ以上の背景を得ることも可能なのである。


 二つ目は、ウェブページがソースコードによって形作られている点である。ブラウザやOSなどの環境によってうまく表示されなかったという経験はウェブに触れている者であれば、一度くらいは経験があるだろう。逆に個人サイトを経営している者であれば、そういった不具合がでないように様々な環境に対してチェックを行うということを行うはずである。


 単純にレイアウトというだけであれば紙媒体であれ、その他の媒体であれ、それぞれの特徴を生かした工夫は可能である。白地に白文字だとか、あぶり出しや水で浮き出すインクだとか面白いものはたくさんある。


 問題は表示されているページの後ろにソースコードが隠れているということである。ウェブページを閲覧している時に、あまりソースコードというのは気にするものではないが、そのデータが解析されることを前提に作品を構成することも可能と言えば可能である。


 こうした特徴を並べ立てると浮かんでくるものがある。勘のいい読者であれば気づいているかもしれないが、それは恋愛アドベンチャーやノベルゲームであり、ある種のメタフィクションでもある。


 三つ目は、読解の共有である。小説は読者に出会ったとき初めて完成するという考え方はどこかで述べたと思う。読者とひとまとめにしてしまうと見えづらくなるが、個々の読者が完成させた小説というのは互いに異なっているはずである。というのは、個々の読者は年齢も育ってきた環境も違うはずなのだから、それぞれの読者が小説の空所や不確定箇所を埋める場合、そこに埋まるパーツは異なっている。もちろん、作者の意図によらず作品がもつ、時代や社会の読解コードというものはある。それを完全に無視することは難しい一方で、そうしたコードが隠してしまう論点を発掘する読解を完全に拒絶することもまた難しいのである。


 前置きが長くなったが、今日の読者はインターネットの発達によって均質化している。しかし、インターネットを通じて簡単にオタク的な知識を手に入れることができるため、細部ではむしろ多様化しているといえる。ひとまずは日本のみで考えるならば、生活様式も教育も大きく変わるわけではなく、時代や社会のコードは共有している。その中で、個々の持っている知識や理解によって生み出される完成した小説というのは多様性を獲得しているはずである。


 オンライン小説というのは、一つの小説から生み出された多様な小説群を容易に共有させることができる。いうまでもなく、書籍類であっても電子メールなどを用いれば、作者の自身の読みを伝えることはできるし、SNSなどのサービスを用いれば、作者のみではなく他の読者とも読解を共有させることはできるであろう。そういった外部サービスに頼らないで済むというのは、単純に手順の簡易化のみならず、積極的に読みを披露することのない読者にさえも影響を与えうるのである。


 読解の累積による群れをなす小説は読解の深化のみならず、もともとの小説にもフィードバックが与えられるかもしれない。もちろん、もともとの小説に対する確定性や決定権は作者に依存するし、作者は小説群から強制を受けている訳ではない。ただ、作者が小説群に目を通しているかぎりにおいて、もともとの小説は小説群からの緩やかな監視を逃れることは不可能である。




 ここから下はあまりまとまりのないものである。


 さらにもう一つは紙幅の都合というものがあまり存在しないという点であろう。もちろん、サーバの容量なりPCスペックなり金銭なり限界というものが全くないというわけではない。また、ドストエフスキー的小説のようにやたら長い小説も存在する。


 オンライン小説としばしば対照されうるライトノベルと比較したとき、一巻分の一般的な長さは一般文芸としては少し短い十万字前後である。少なくともその間で何らかのオチが期待されているものと考えて良いだろう。


 オンライン小説であれば、もちろん上であげた小説群による監視もあるのだが、長さに対する規制というのは驚くほど弱い。それはある意味では冗長と言えなくもない部分ではあるのだが、しかし、小説(もともとの小説)の背景にある情報群としての「物語」に対する規制が弱いとも言える。


 小説というのは物語を語りによって切り取ったものだということは以前にも述べてあるが、語りには焦点化したい部分とそうでない部分がある。焦点化というのはつまり、情報の制限であり、それは量だけではなく順序やタイミングにも及ぶ。


 焦点のブレというのは小説を荒削りにするという側面も当然もっているだろう。しかし、物語の本来内包している仁王を掘り起こすことにもつながるのではないか。収まりの良いように縮こまっている仁王でもなく、もちろん無様に膨張した仁王でもない、本来の仁王。それがオンライン小説であればみられるのではないかと希望するのである。

2014/09/23 00:00

誤字脱字などの修正を行いました。

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