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道聴塗説  作者: 静梓
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魔法についてほんの少しだけ

※ 個人の意見です。

 魔法とはすなわち「世界」である、などというと戸惑う方もあるかもしれない。


 強い言葉を使って不安な心を紛らわせようという企みがないわけではない。つまり、魔法というのは各作品によって様々な姿を見せるものであるのだから、一概に何々だと定義できるものではないのだ。


 であるからこそ、多少の悪ふざけを込めて「魔法=世界」と定義してみることにする。


 とはいえ、全くのあてずっぽうで定義している訳ではない。


 魔法は、ひとまず現実に存在しないものであるということは首肯していただけることと思う。もちろん、中には「魔法は現実に存在する」だとか「魔法を見たことがある」だとか、あるいは「魔法を使える!」などと主張する方もなくはないだろう。そうした方は「バカ言っていやがる」くらいに思っていただければ良い。


 さて、魔法は現実に存在しない。ならば、魔法のもつ効果とは現実との対比にこそあるのではなかろうか。


 古代より魔法に対する想像力というのは洋の東西を問わず存在する。ここで述べる魔法とは道教の神仙術だとか陰陽術などというものも含んでいる。


 魔法とは人知の及ばぬ事物に対する畏怖の心から発する想像力から生まれるものだ。名を持てば神なり化け物なりになるものの、一つの形態が魔法であると捉えて良い。そこには「異界」あるいは「他界」と同様の力学が働いている。


 自らのもつ常識的な考え方から外れたものを異化したものが魔法であるとするならば、それを文芸の世界に持ち込むというのはどういうことか。


 それはすなわち、読者のもつ常識的な考え方に対する挑戦的な批判であるというべきであろう。


 そもそも読者が「常識」と考えているものは「歴史」という大きな物語によって定義され、可視化されたものである。そうして可視化されたが故に当たり前となり、不可視に陥っている者に対して、別体系を提示することによって再び可視化し、時には揺さぶりをかけるというのが魔法の役割である。


 そうした魔法の役割の強度を高めるためには魔法というものは自律的であった方が良い。現実の「常識」に縛られ他律的になった魔法は、それそのものが本来持っているはずのある種の不気味さを失うと同時に、その強度を損ないかねない。


 魔法は世界である、などという文言を用いたのは、魔法は現実からかい離した想像力に支えられているということを述べたいがためである。つまり、魔法は物語世界に有機的に結びつき、時にはその基盤となるはずのものなのだ。


 一方で、ファンフィクション的あるいはシェアワールド的想像力に支えられた魔法というものも存在している。およそ似たような世界観であればどの作品内でも過不足なく機能しそうな魔法のことである。


 世界を制御する魔法はその権能を失い、世界或いはキャラクターに制御された他律的な存在となる。


 もちろん、そうした想像力を否定している訳では決してない。


 魔法の根源は畏怖であると述べた。キャラクターに取り込まれた畏怖はそのキャラクターによって完全であれ不完全であれ制御される。自身の外側に存在していた畏怖を一つのツールとして内側に取り込むことによってある種の全能感を得ることができる。


 一方で、そうした全能感は薄氷の上に存在するものだ。本来物語世界と密接にかかわっているはずの魔法は、そうした想像力の中では物語世界の外側の共通認識に接続している。それは極めて他律的な現象である。


 物語世界の内側では全能であるはずのキャラクターが、一歩下がって見つめると、物語世界の外側の力学によって他律的に動いているのだ。魔法物語世界群を統御する魔法オバケがいつの間にか形作られており、それを再生産し続けているのである。


 書き手が現実世界に(おそらく)属している以上、魔法の存在する世界が調和のとれた世界になることはあり得ない。現実世界の常識に対してどこまで魔法が強度を持ちうるのか、物語世界や物語世界群をもって挑戦すること。そこに生まれる緊張とともにそれを追及することが魔法物語のひとつのあり方ではないかと思うのだ。

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