冒険者について少し
映画、小説、あるいはゲームでおなじみの剣と魔法のファンタジー。戦士や魔法使いが怪物と戦うを繰り広げるというのは人気の高いジャンルであることは間違いない。
コンシューマ・ゲームのRPGであれば、主人公というのは特殊な個であることが可能であるが、MMORPGやTRPGでは、システムによる部分はあるし、やや特殊性は持っている必要はあるものの、一般化された個であることが求められる。というのは、複数人が参加し、それぞれがそれぞれの主人公である以上、過度な特殊化は他の参加者を脇役に貶める可能性があるためだ。
そうしたキャラクターの一般化と、物語の主人公たりうる特殊化を同時に満たすことができるのが、冒険者というものなのだろう。ファンタジーである以上現実に即して考えるというのは愚行であるが、ややシステマティックなにおいがする。
ギルドの項で少し書いたが、同業者組合というのは共同の利益の保全と過度な競争の抑制のために作られたものである。単純に考えるならば定住しない自由民であろう冒険者に必要があるとは思えないものであるし、保護されるべき権利も薄い。一方で国王や都市領主などが労働力の管理を行うという側面から考えれば、個で高い武力を持っている冒険者を管理するという必要性は存在する。
もう少し突っ込んで考えてみると、フリーの武力が必要となるということは既存の軍制が機能不全に陥っているということが考えられる。西洋の中世後期において封建騎士が扱いづらくなったことによって、あるいは都市国家において必要な軍事力が確保できなくなったことによって、傭兵の需要が拡大した。理由は様々であろうが、常雇いができない程度には財政に余裕がなく、かといって既存の軍制はあてにならないず、需要があるというのが冒険者の成立条件であろう。
需要という側面で考えると始皇帝の徐福や十六世紀から十七世紀西洋でミイラ取りが行われたように(徐福は自ら具申しているが)、権力者や有力者の要求によって神秘を求めるというのも考えられる。また、それぞれの動機などは別であるがクリストファー・コロンブスやヴァスコ・ダ・ガマのような新規航路開拓も一種の冒険であろう。
供給ということに目を向けてみると、ファンタジーの冒険者というのは過剰労働力消費の一形態である。中世西洋において温暖期に増加した人口を小氷期において消費するというのは都市の課題であった。有力者による森林の保護やレコンキスタ、百年戦争、ペストの大流行などで労働力が確保できず農地が荒廃する時代と労働力過剰の時代とが廻ったことによるものである。
冒険者なるものが成立するためには、主に農村部で過剰労働力が生産されうるだけの食糧環境が整いつつ、それを消費するだけの労働が存在しないことが求められる。また、常時労働力を遊ばせておく余裕はないものの、非常時に労働力を雇えるだけの備蓄が存在していることが考えられる。
そして、主に都市部において一般労働力は確保できているものの、日雇労働者や軍制に編入されていない武力に対する需要はそこそこ高く、それらの労働力を維持していけるだけの備蓄が存在している。前提として、市民に自ら問題点を解決するよりも金銭で解決する方が良いという考え方が存在するか、あるいは、外部からの武力や労働力の流入を歓迎できるほど排他的意識が低いかという環境が必要となる。
冒険者ギルドのランク制というのはゲームのシステム的なもので、フラグ管理などに用いられるものである。労働力や武力に関する評価なのだろうが、ランクだけではどの人がどんな仕事に向いているかというのは全く分からない。
大抵が評価規準のみが設定されている到達度評価であり、一定の能力が認められればランクが上がるという絶対的な評価である。また、ギルドが都市に留まらない組織であることも多く、その規準が各都市のギルドで共有されている。評価規準が公開され、固定されている状況は単純に考えれば歓迎されるべきものであるが、フィードバックが存在しないため、時代の変遷による水準の変動に対応できない可能性がある。
特に、依頼の達成回数によるものであれば、常に冒険者の数に対応できるだけの依頼が存在しているかどうかが問題となり、下手をすると虐殺や乱獲が横行することになる。試験によるものであれば、評価者や受験者の数や質によってばらつきが出ることが予測される。
ポイント制による順位というのもあるようだが、冒険者の数によっては他者を蹴落とす方が楽に順位を上げられるという問題点が存在し、過剰且つ不当な競争を招きかねない。
常に監視がついている訳もないので、噂や評判とランクは全く乖離したものになるし、噂や評判を加味した評価であれば、流言飛語による評価の操作が可能となる。
依頼のランク分けというのはさらに奇妙で、需要や供給に関係なく難易度によって機械的に振り分けられ、個々の性質ではなくギルドの規準でのみ判断される。ギルドにはそれを設けるだけの経験的知識の蓄積が存在し、依頼者や冒険者はそれを信頼していなければ成り立たない。