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道聴塗説  作者: 静梓
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大学2

 大学の項で単純に「大学」と述べたが、現代の大学と中世西洋の大学では二度の転換点が存在している。また、社会に対する役割も近代以後複雑化する社会の中で変化している。


 中世西洋の大学は基本的に共通の建物、つまりキャンパスを持たない。大学と呼ばれているのは教師や学生の組合であり、講義などが行われるのは教会や有力者の私邸である。コレギウムと呼ばれる寄宿舎がそのまま抗議の場になることもあり、そこを主軸に据えることはあった。土地に縛られないため、聖俗権力との対立などにより、大学の一部が別の都市に移住するということも起こり得た。


 学部というのは、中世西洋においては私塾に過ぎない。それらを連合体としてまとめたのは同郷者組合であり、聖俗権力の後押しである。


 現代の大学の役割は大きく分けて三つ存在すると言われる。


 一つ目は、伝統的な文化や学問の保存及び発展である。こうした側面は中世西洋の大学にも存在する。ただし、発展という観点から論じるならば、大学よりもむしろアカデミーがその役割を担っていたと言わざるを得ない。アカデミーとは徒弟制の工房や組合、大学などの制度から離れ、自由な学問や芸術、その振興を目的とした組織である。旧来の組織との対立の中で、有力者や君主に庇護を求め、自衛のために一つの制度として成立していく。


 二つ目は、専門・職業教育である。中でも教育関係、医療関係、法律関係を中心とした職業教育は現代社会から外すことができないものである。中世西洋の大学の直系というべきものがこうした側面である。そうした職業教育的側面は大学組織として考えるならば硬直化を促したともいえるが、一方で、徒弟制度を持っていなかった法曹界をはじめとして社会への貢献度は次第に高まっていった。


 三つめは、人間形成である。古代から連なる側面である。同時に、中世西洋で強まった専門職業教育という側面よりも、現代では高等教育としてこちらの側面が強まっている。


 転換点についても軽く触れておこう。


 中世西洋に自然発生的に生まれた大学は聖界や俗界の干渉を受けながら発展していくことになる。教皇庁は世俗権力や地域教会に対する優越を確保するために、積極的に大学を保護しつつ、その統制をはかった。都市や国王・皇帝は官吏や官僚の確保や自国・自都市の威信向上のために大学を創設していくことになる。こうした生まれによらぬ官僚の確保は後の絶対王政の成立に貢献することになる。


 一方で、宗教改革から続く動乱の時代の中で大学が大きな役割を果たしたというのは皮肉な話である。


 教皇庁からの干渉が緩まったことにより、神学を中心とした構造が崩れ、哲学やそこから発する諸科学を中心とした合理化が進められていくことになる。また、宗教勢力に取り込まれていた大学は徐々に国家権力を根拠とするようになる。


 宗教改革による聖界からの離脱、近代市民社会の成立による旧制度の解体、産業革命やそれに支えられた資本主義社会の成立による合理化、科学化というのが一つ目の変革である。宗教改革から学問研究の場としての大学や単科的な職業教育大学といった近代的大学の登場まで二百年、成立にはもう百年かかっていることになる。


 もう一つの転換点は第二次大戦後やソ連の崩壊に端を発する。大学の大衆化やそれに伴う大学紛争、大学紛争で問われた学生の立ち位置、公費に支えられる教育・研究と自由・自治の天秤、近代から現代への学問の再編成などが相互に絡み合っているのが現状である。


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