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道聴塗説  作者: 静梓
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 寒色と暖色という表現がある。確かに、青系統の色はやや涼しげに感じるし、赤系統の色は暖かく感じることがある。ただし、こういった感覚は文化に根差しており、一概に言えるものではない。


 寒色に類する青であっても、鮮やかな青は青海や蒼穹などの暖かい、暑いイメージも付属している。冷静なイメージというのも、顔面蒼白というのは血の気が引いているし、青筋を立てれば憤怒の印象である。ただ、顔面蒼白というのは「赤みが失せる」と言う意味であるため、実際に青くなっている訳ではなく、色としても灰味の淡い赤を表すこともある。


 また、涼しげな印象を受けるが故に、その周辺領域には夏などの印象が付属する場合がある。一般に、鮮やかな青は夏っぽく感じ、淡い青は冬などの印象がある。


 赤についても、紅葉や茜色というのは暖かい印象はあまり強くない。東雲色、梅や桜というのも暖か気な印象とはやや離れる。ただ、これから暖かくなるという印象はある。色彩感覚からは離れるが、炎や恒星は赤よりも寒色系の色合いの方が温度は高い。


 暖色はディープあるいはダークな色合いは秋、淡い色合いは春の印象がある。ただ、鮮やかな色合いになると、夏や冬のクリスマスの印象が出てくるため一概に言えるものでもない。


 日本においては文房具や撫子の印象から赤系統、特に淡い色は女性的に見られる傾向にある。乙女色なんてものも存在する。一方で、赤に限らず紫系統の色合いは古くから女性に愛された色である。


 紫と言えば最近は下品な印象が広まっているが、神社などの神聖さや仏閣の厳かさを感じさせる色合いであるし、長く禁色であって高貴さを感じさせる色合いでもある。確かにけばけばしい色合いに感じる場合もあるし、艶やかさを感じる色合いでもあるのだが、淡い色にせよ濃い色にせよ落ち着いた印象を受けやすいように感じる。


 性別に話を戻すと、赤色系が女性的、青や黒色系が男性的という感覚はトイレなどの表示には残るものの、ある種の記号性に過ぎない。淡い色合いが女性的、派手な色合いが男性的と感じる場合もあるが、最近では主にファッションにおける色合いの流行り廃りも早いので単純に言えるものではない。これは上記の紫系統の色にも言えることである。


 日本の古代の色彩感覚は白と黒が中心となっていたと言われる。明暗と色彩感覚の区別がやや曖昧で現在では「赤」の字があてられている「あか」も「明」が主体であったという。そこから純粋な色として紅、紫などが区別されていったようである。


 逆に現在でも緑系統も「青」と表現するように、青の範囲はかなり広かったようである。一説のよれば、淡く渋味の橙まで青と呼んでいたともされる。また、「明」を意味した「アカ」や「暗」を意味する「クロ」に対応して、薄暗い色つまり今で言う「灰」系統の色を「アヲ」は示していたのではないかともされる。


 平安時代に見られる文学や和歌では色彩感覚はかなり熟成されている。これが実際の感覚によるものなのか、言語表現の熟成によるものなのかは現代から推し量るのは困難である。両方が原因であろうとお茶を濁すほかない。


 色の通りや集目性によって、イメージが多少固定されている色もないではない。黄色と黒の組み合わせは注意を促すものであるし、赤というのは交通では重要な情報が含まれる場合には大抵赤が入っている。一部のスポーツでは退場を示す色でもある。


 他にも麦わら色と言えば、麦の色づく夏、麦わら帽子で日差しを防ぐ夏というイメージがある。色とは離れるが時期からの連想で、タコの旬を示すこともあるし、タイの旬外れを示す場合もある。


 とはいうものの、大抵は色は多義的であり、個々人で受け取る印象は異なることが多い。色を示す言葉も多いが、正確な色合いやニュアンスを伝えるのは難しい。絵や写真ですら伝えきれないものを言葉でどう伝えるられるのか、というのは、言語や文字の限界でもあろうし、一つの可能性でもある。

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