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道聴塗説  作者: 静梓
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仮名

 文字というのは、基本的に言語を表現するための手段であって言語そのものではない。音声言語ありきの存在であり、それを記録する必要性がうまれて初めて登場するものである。現在では、音声を記録し伝達することも容易になったが、古代においては多大な困難を伴う。


 文字が生まれることによって受け手と語り手が同じ時間同じ場所にいる必要性がなくなり、また、大量にまとまった情報を伝えることが可能になった。


 さて、仮名というのは表音文字である。


 表音文字というのは文字そのものは意味を持たず、読みだけを表すもののことを言う。特に、仮名のような子音と母音を一文字で表記したものを音節文字という。アルファベットのように子音や母音などの音素を表す文字は音素文字といい、漢字のように一字が一語を表す文字を表語文字、あるいは形態素文字という。表音文字の対義語として表意文字という表現も用いられる。


 音素文字は表音性に優れ、文字の数も少なくて済む一方で、表語性は低くなる。文字数が少なくて済むため、文字の形が簡潔であることも特徴である。


 音節文字は音素文字よりも表語性は高いものの、表音性はやや劣る。音素文字よりも字母数が多くなるため、字形も複雑になる。ハングルは音素文字と音節文字の中間。


 形態素文字は音ではなく語を表すための文字であるため、文字の数が膨大になり、当然一文字一文字が複雑化しやすい。表音性はかなり劣るものの、表語性は高く、パッと見で意味がつかみやすい。


 日本語の母音は上代には八音素あったという説があるが、現代では五音素しかなく、子音も十三音素と他の言語と比べるとやや少ない。音節構造自体も母音のみ、子音と母音、半母音と母音(やゆよ)、子音と半母音と母音の四種類であり単純である。音節文字で表現するのに向いており、仮名自体は漢字から派生したものであるが、日本語を表記しやすいように変化していったことがわかる。


 日本語は平坦だと言われることはあるが、強弱アクセントではなく高低アクセントであるため、文中の抑揚はそれほど大きくはないものの数は多い。日本語の多い同音異義語の区別に用いられ、単語と複合語では大きくアクセントが変わることもあり、日本語の習得の難しさの一因となっている。


 話を仮名にもどす。


 ひらがなは、平安時代に万葉仮名をくずした草仮名からできたもので、和歌や手紙などにもちいられた。私的な文書や文学などの芸術と結びついたため、流麗な字体が求められた。現在では、助詞や助動詞、漢字表記しにくい和語、送り仮名などに用いられ、字体も固定されている。現在のようにひらがなが多く用いられ始めたのは戦後の学制改定以後のことである。


 カタカナは、漢籍などの行間に注釈を打つために漢字の点画を省略して生まれた。漢籍の訓読自体は漢字が入ってきた当初から行われていたと考えられるが、仏教の広まりとともに訓読の補助が直接書き込まれるようになると、簡素な文字が必要となったのである。簡略化自体は朝鮮半島でも行われていたと言われるが、詳細は不明である。現在では、外来語や擬音語のほか、生物の名前を表記する際にも用いられる。


 日常的に用いるひらがなに対してカタカナは音を表すことに重点が置かれていると言われる。一方で、両者も表現している音は同じである。カタカナは視覚的な強調や言語感覚に訴えかける側面があるため、音を強調しているというよりもカタカナそのものが持つニュアンスに重点が置かれているとも考えられる。


 擬音語にカタカナが用いられると書いたが「キラキラ」と「きらきら」「綺羅」では受ける印象は異なる。個々の言語感覚にもよるだろうが、ひらがなの方がやや柔らかく、カタカナの方がやや堅く鋭い印象を受ける。


 ただし、日本語では幼児向けの本や詩歌、その他視覚的効果を狙った場合以外には分かち書きがなされないため、前後の語と区別するためにカタカナを用いることもあるため一概には言えない。


 万葉仮名や草仮名の字母として用いられた漢字は全体から見ればごく一部であるが、それでも現在の四十六文字(四十八文字)から見れば非常に多くの字体が存在していた。近代以後の合理化の中で整理されているものの、現在でも変体仮名として異字体が用いられることがある。例としては「し」を「志」をくずした仮名(「志」に見えるが漢字ではなく変体「仮名」である)や、「そば」を「楚者」をくずした仮名(「者」をくずした仮名は「を」や「む」に見える)で書いたものを見かけることがある。


 他にも常用はしないが「ゝ」「ヽ」「/\」などの記号も存在する。


 万葉仮名の時代には先に書いたような母音が多かったという説があり、その違いによって仮名の書き分けが存在していたと言われる。書き分け自体は実際に存在しており、上代特殊仮名遣いとよばれる。ただし、その根拠として音であるか否かは賛否がある。また、清濁の書き分けも文字によって行われていたが、仮名の成立過程において点を付す形に変わったことで失われている。

 仮名は表音文字と述べてきたが、日本語は書き言葉と話し言葉の乖離が著しく、戦後の諸改革の中で手直しはされているものの、完全に音を表している訳ではない。こうした乖離は平安時代にはすでに起こっていた。藤原定家は誤写や誤読を防ぐために伝統的な綴りを基本にしつつ音の高低などによる書き分けを試みている。江戸時代の契沖は文証に基づいて科学的に歴史的仮名遣いの確立を目指した。


 現代仮名遣いにおけるその代表例がオ列長音の「う」である。


 「功利」も「氷」もどちらも「コーリ」と発音するが、仮名表記を行う場合、前者は「コウリ」後者は「コオリ」と表記する。これは歴史的かなづかいに由来するもので、オ列長音は歴史的に「オ音」または「ア音」に「う」を添えるのが原則であり、「コオリ」はもともと「コホリ」と記されていたものを「オに発音されるホは、オと書く」と定められたことに由来する。


 他には助詞の「は」「へ」「を」などがあるが、これは視覚的区別によって分かりやすくするためのものである。


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