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道聴塗説  作者: 静梓
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粉挽き屋

 『フランダースの犬』を見れば分かるように、粉挽きというのは一種の特権階級である。産業革命以後、機械にその立場を奪われるまでそれは続いていく。


 古代ローマにおける粉挽きは、水車でも行われていたが、家畜や人力でも行われていた。家畜や水車で行えることを人力でも行っていたのは、奴隷や貧民に仕事を与えるためである。そのため古代ローマで水車の普及し始めるのは、国外から奴隷を獲得できなくなって後のことである。


 中世西洋の農村において、水車や風車による粉挽きは封建領主によって使用が強制されていた。その管理者である粉挽きというのは農村から離れて、風車や水車を管理しているため預けた穀物をくすねているのではないかと疑われていたようである。


 粉挽きは支配階級と被支配階級の中間に位置し、様々な特権があたえられていた。ほぼ下級役人と同等であり、水車小屋の場合はその用地として河川が含まれるため、その中であれば漁業権も認められていた。


 一方で、封建領主の粉挽きを任されていたり、貢納がほかの農民より重かったりしていた。また、器具の管理、維持を行わなければならず、修理費は自らの儲けの中から出さなければならなかった。ただ、それを加味しても粉挽きというのは儲かる商売であったようである。


 農村社会に所属していない水車小屋というのは何かと怪しい雰囲気が漂っていたようで、シューベルト作曲の『美しき水車小屋の娘』はこうした印象を元に作られたものだと考えられる。また、悪霊や悪魔、魔法使いや魔女といった存在とも相性がいい。


 都市部においても支配階級と被支配階級の中間に位置していることには変わりがなかったようであるが、都市当局による監視が厳しく、さまざまな制限が加えられているため、農村部のように特権としての側面は弱い。


 一方で都市の水車小屋は浴場と並んで売春が行われた場所でもある。禁欲的なキリスト教にとって売春というのは忌避されがちであり、そうした印象も粉挽きに対する悪評に繋がっていたと考えられる。


 森に囲まれた中世西洋にあってどこからともなく流れてくる水や風を用いて製粉を行うというのはどこか異能や神秘を思わせたようである。都市においてはそうしたケルトやゲルマンの信仰を思わせる粉挽きは異教的であり、農村では素朴な土着信仰から見て水や風といった神秘を利用するというのは冒涜的であった。


 こうした悪評を持つ職には他に羊飼いや浴場職人、亜麻布職人、理髪外科などが存在している。彼らはキリスト教の倫理や民俗信仰から見て異端であり、ハーメルンの笛吹で語られる人さらいとしての笛吹や女を誑かし連れて行くと信じられていた吟遊詩人と並んで蔑視の対象であったようである。


 封建制度下では恨まれがちであった粉挽き、特に風車小屋の主は封建制度崩壊後は農村の中心的役割を果たしていくことになる。


 水車や風車には水平式と垂直式がある。水平式は地面に対して回転が水平であり、軸は垂直、垂直式はその逆である。中世西洋では垂直式が多く用いられていたようである。水車や風車は粉挽きの他に、脱粰(脱皮/だっぷ:籾ずりのこと)や灌漑にも用いられる。


 また、水車や風車の発達は歯車の発達につながる。特に垂直式のものでは回転方向を変えなければならないため、歯車技術は必須である。

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