乳製品
他の哺乳類の乳を飲むというのは、人間以外ではあまり見られない行為である。人間が乳利用する哺乳類には群居性であり草食性の比較的おとなしい動物が選ばれる。これは人間が多数を同時に管理することが容易だからであろう。代表的なものは牛やヤギであるがその他にも、羊や馬、ラクダやトナカイなどが用いられている。
牧畜文化は世界で広く見られるが、日本のように平地が少ない地域では放牧に対する適正が低いため、農業の傍らで行われるにとどまった。また、欧州のように冬季の飼料が不足する地域では舎飼いし、飼料を人工的に作り、冬季に与えるということも行われている。
家畜の管理において、生産性の低いオスは去勢されるか、屠殺される。もちろん、交尾能力のあるオスを残しておかなければ再生産が行われないため、ある程度の種オスは残される。去勢されたオスは調教され、群行動を制御させるために用いられる。羊などは先行個体に追随する性質を持っているため、こういった個体を作ることは管理を容易にするうえで重要である。
また、種オスにしても、メスの出産時期を合わせるために別管理がなされる場合がある。いずれにしても、家畜を管理する場合、オスに何らかの干渉を行う場合が多い。牧畜を主体とした文化を形成している場合、こういった傾向は文化全体へ影響を与えている場合がある。
さて、生乳を直接用いるようになるのは近代以後、都市型消費社会が形成されてからである。[※注意]それまでの家畜の乳は、ヨーグルト、チーズ、クリームの三種類に代表される加工がなされた後に利用される。
ヨーグルト系では、乳酸発酵などによって酸凝乳させる。こうすることによって腐りやすい生乳を保存しやすい状態にすることができる。空気中の乳酸菌によるものもあるが、植物に含まれる乳酸菌を利用するものや、古い発酵物を用いる方法もある。乳を一度煮沸消毒したのちに菌を加え、ひと肌ほどの温度で一晩置けば完成する。
チーズ系では、仔牛の第四胃からとれるレンネット (凝乳酵素) の作用や乳酸菌などの細菌、アオカビなどのカビあるいは酵母など、各種の微生物の働きを利用して、酵素凝乳させる。世界各地で作られており、製法も千差万別である。チーズ大国フランスだけで四百種類ものチーズが存在すると言われている。中世西洋では古代ローマ帝国崩壊以後、地方ごとに発展していき、流通が回復した後には、各地の傾向によって一種のブランドも生まれていたようである。
基本的な製法はハードチーズでは、殺菌した乳に乳酸菌を加え発酵させた後に、凝乳酵素を加えて凝固させる。この牛乳凝固物をカードと呼び、それ以外の水分をホエーと呼ぶ。カードを賽の目に切断し、ひと肌ほどの温度で撹拌する。そうしてできたカード粒を型に入れ圧搾、整形する。整形したチーズの表面に食塩を擦り込むか、塩水に二から三日漬け込む。その後、ロウなどで表面を覆い、一か月から半年ほど熟成する。
クリーム系では、乳を静置しクリームを分離する。また、そこから撹拌することでバターを分離する。遠心分離を行うことができない時代には、クリームの分離は不十分かつ時間がかかる。静置している間に乳酸発酵が起こり、サワークリームのような形になっていたと考えられる。当然、バターも発酵バターであり、食用バターの場合には保存用に食塩がかなり入れられていたのではないかと考えられる。古代西洋では一般的にバターは化粧品や灯火用に用いられており、食用には特に南欧を中心にオリーブオイルをよく用いる地域ではあまり普及しなかった。北欧ではバターが保存しやすいため、徐々に食用として普及していくことになる。九世紀ごろにはガリアでも食用利用がされ始めることになる。
生クリームが一般的に用いられるようになるのは十七世紀ごろからのことであり、ホイップクリームが用いられるようになるのはその更に後のことである。生の状態で使うには冷蔵技術の発展が不可欠であり、バターを水あめや卵黄を用いてふわっとさせたバタークリームの方が常温保存には適している。
この他にも過熱によるタンパク質凝固膜を用いる蘇や加熱などで濃縮をするクロテッドクリームや練乳などが利用法として存在する。
2014/04/05 17:00
[※注意]
古代より生乳の飲用があったようです。また、直接利用では、乳粥や汁物、煮物のほか、パンや菓子類などにも用いられています。釈迦へスジャータが与えた乳粥は有名です。保存が難しいため限定的であったというだけということのようです。お詫びして、訂正いたします。




