其の八 4月 入学式から数日後
この「其の八」あたりで外堀もだいたい埋まることになり、本編での撮影話が進むことになりました。
番外編は、其の九にていったん終了します。
続いて、本編の第二弾をUPしていければいいなぁと^^
其の八 4月 入学式から数日後
放課後、生徒会室のドアをノックする桐生。
桐生
「失礼します。1年桐生誠也、入ります」
早見坂
「あぁ桐生くんか。待っていたぞ。遠慮しないで中へ入ってくれ」
桐生
「はい、ありがとうございます」
早見坂
「入学おめでとう。君の入学を、私もここにいる琴音も待ちわびていた」
藍原
「桐生くん、ご入学おめでとうございます。お会いできて本当に嬉しいわ」
桐生
「それは、星杜学園の映画撮影のためでしょうか」
早見坂
「ふむ、やはりいきなり核心をついてくるか。君と話す時は、気をつけないとならないな」
桐生
「自分で言うのもどうかとは思いますが、僕と早見坂会長は似てるように感じますが?」
早見坂
「そうかもな」
くっくっと笑う早見坂。
藍原
「それじゃ、もう映画の話を始めちゃっても大丈夫かしら」
桐生
「はい、構いません。その為にここへ来たんですから」
藍原
「ありがとう。えっと自己紹介が遅れましたけど、私は藍原琴音といいます。早見坂会長から、直接、映画の話を聞かれているとは思いますが、今年度の脚本は私が担当しています」
桐生
「藍原……副会長さんですね。1年の男子生徒の間でも、いろいろと話題になっていますよ」
藍原
「まぁ、話題だなんて、悪口だったら嫌だわ」
桐生
「きれいな先輩だって、もっぱらの評判です」
早見坂
「ゴホンゴホン。あー、桐生くん。琴音は、昨年の創立記念前夜祭でミス星杜に選ばれているくらいだ。そういう男子生徒もたくさんいる事だろう」
桐生
「そうですか」
早見坂
「まぁいい。琴音を誉めて貰うと、私も嬉しいからな」
桐生
「……。その発言の意図は、ストレートに受け止めて構わないのでしょうか」
藍原
「桐生くん、ヤボな質問はなしね」
桐生
「すみません。失礼しました」
早見坂
「琴音、いいじゃないか。恥ずかしがる事でもないだろう」
藍原
「えぇ、でも……だって」
早見坂と藍原、すっかり自分たちの映画設定にはまり、藍原、もじもじと恥ずかしそうに頬まで染める。
藍原
「それでね、桐生くんには、キーパーソンを演じて貰うつもりなの。桐生くん、私の想像していた雰囲気にかなり近いみたいだし、いいものができそう!」
桐生
「僕なんかでお役にたてるんなら、いいですけど」
早見坂
「桐生くん。君にはこの映画の全容を明かそうと考えている」
桐生
「ということは、他の生徒は、ちゃんとしたストーリーを知らされないんですか」
藍原
「そうね、各自が自分の出演するシーンから想像するくらいかしら」
桐生
「なぜ、僕には?」
早見坂
「以前桐生くんからも言われたんだが……主人公役の波原さんには、映画の件を話さないで進めることに決めた。映研の部長の見たてで、彼女には演技はできそうにもないだろうという事もあってな」
桐生
「本気でいい映画を制作したいと思うのならば、僕もそれが最善だと思います」
藍原
「なのでね。主人公が映画のストーリーを知らないままで、撮影が進んでいく事になってしまうのよ」
しばらく考える桐生。
桐生
「要するに、僕から波原の情報を引き出したい、ということなんですね」
藍原
「流石は桐生くん、その通りよ。そして、できれば私が思い描いているストーリーに沿って撮影が進むように、まわりの登場人物たちへの接し方などのアドバイスを頂きたいわ」
桐生
「そうですね……アイツの性格は単純ですし、手に取るように分かりますが」
早見坂
「それは良かった。桐生くんに力を貸して貰えるならば、主人公が何も知らなくても、なんとか琴音の脚本通りに進められそうな気がしてくるな」
藍原
「本当にそうね」
早見坂
「ということで、まずは桐生くんの立ち位置を確認しておきたい」
桐生
「立ち位置といいますと?」
早見坂
「映画の中での設定なんだが、君の本当の年齢は、私と同じということになる」
桐生
「僕は高校3年生なんですか?」
藍原
「桐生くんはね、この星杜学園に早見坂会長と一緒の年に入学したのよ。そして1年間、2人はクラスメートとして時を過ごし、ひょんなことから学園のある秘密を知ってしまうこととなるの。2人は学園を守るためには特殊な力を持つ生徒が必要で、桐生くんは高校2年に上がるはずの年に、中学3年と偽って波原さんの中学校へ転入することにする。そして、その力を持つ生徒というのが波原さんである事を確信し……」
藍原さんの説明が続く。
桐生
「だから僕は、本来は高校3年生のはずなのに、今年波原と一緒にここの星杜学園に入学したきた、という設定になってるんですね」
早見坂
「そうだ。君と私は、誰も知らない秘密を分かち合い、完全なる信頼関係で結ばれている親友同士だ」
桐生
「会長と、僕が親友同士って」
早見坂
「どうだ、なかなか面白いだろう。入学したての1年生が、3年の生徒会長と親しいんだぞ」
桐生
「そういった事にはあまり興味はありませんが」
早見坂
「まぁ、いい。そうそっけ無い事を言うな」
藍原
「それでね桐生くん。あなたには、これから早見坂会長のことは『恭一』と呼んで貰うわ。早見坂会長は、あなたのことを『誠也』と呼ぶことになる」
桐生
「きょう……いち……」
「桐生くんには、私を下の名前で呼ぶところから始めて貰う事になるな」
藍原
「会長。『桐生くん』じゃなくて、『誠也』ですよ」
早見坂
「おっと、そうだった。気をつけないと、なかなか呼べないもんだな」
藍原
「ちゃんとお願いしますわ」
早見坂
「わかってる。大丈夫だ、心配するな。琴音の時にはすぐに馴染んだろう?」
藍原
「そうでしたね」
早見坂と藍原、意味ありげな微笑みを交わし、多少とまどい気味の桐生。
3人、続けて具体的な小春攻略作戦を練り始める。