其の七 4月 入学式から数日後
どんどんお膳立てが整っていきます。
知らぬは小春ばかりなり……。
その日の夜、寮棟の談話室片隅で、ヒソヒソと何やら話し込む友哉と麻莉子。
麻莉子
「ほんっと麻莉子ねぇ、驚いちゃったんだよぉ~。今日、クラスで始めて波原さんを見た時に、ものすっごく背が高かったからさぁ~」
友哉
「そうそう、そうですよね。僕も一瞬驚きました。僕と同じくらいありましたから、170㎝近いでしょうね」
麻莉子
「本当にぃ~!? 波原さん、モデルみたいだねぇ~。主演女優にはピッタリだぁ。あ~あ、麻莉子も、もうちょっと背が高かったら良かったのになぁ」
友哉
「久遠さんは、とても可愛いですよ。僕は今のままで十分だと思いますけど」
麻莉子
「紫月くんは、いい人だねぇ~」
麻莉子、ほくほく顔で。
麻莉子
「でもぉ、波原さんって、なんとなくなんだけどぉ」
紫月
「そうそう、なんとなくですけど」
麻莉子と友哉
「「面白そうな性格してそう!」」
麻莉子
「だよねぇ~」
友哉
「ですね」
麻莉子
「あっ、紫月くぅん。意見が合ったねぇ」
友哉
「はい、そうですね」
麻莉子
「ってことはぁ~。脚本じゃなくってぇ、演技でもなくってぇ」
友哉
「ええ。そういう事に関係なく、普通に仲良くなれそう!な気がしますね」
麻莉子
「うんうん、だねぇ~。紫月くぅん。波原さんが、波原さんで良かったねぇ」
友哉
「実は僕……映画には出てみたかったんですけど、今だから言うと、嫌な相手とか、気の合わない相手だったら、自分には演技だとしても無理かもしれないって心配してたんです」
麻莉子
「うん、分かるよ、分かるぅ。紫月くんのその気持ち、麻莉子にもよぉく分かるよぅ。だって紫月くんはさぁ、その主人公役の女子生徒を好きになる役でもあるんだしぃ、なおさら心配になるよねぇ~」
友哉
「はい、そうなんです」
麻莉子
「でさぁ紫月くぅん。紫月くんはぁ背が高い女の子でもいいのぉ?」
友哉
「えっと、それは現実での話ですか、それとも映画の中での事ですか?」
麻莉子
「もちろぉん、映画の中の話に決まってるけどぉ」
友哉
「映画の中なら、とくに問題はないと思います」
麻莉子
「ふぅん?」
友哉
「え? なんですか、その反応は?」
麻莉子
「うぅん、深い意味はないんだけどぉ」
友哉
「それって、深い意味はなくても、浅い意味ならあるって事ですか?」
麻莉子
「紫月くんったら、なぁんでそんなに喰いついてくるのかなぁ~。やっぱり無意識のうちにも感じてるのかもしれないよねぇ~」
ニヤニヤ顔の麻莉子。
友哉
「久遠さんが何の事を言ってるのか、僕にはちっとも分かりません」
麻莉子
「いいの、いいの。大丈夫、大丈夫ぅ~。麻莉子は、いつでもどこでも……うん、映画の中でも現実ででも、紫月くんの味方だからねぇ~」
友哉
「???」
麻莉子
「麻莉子の直感ってぇ、昔っからよぉく当たるんだぁ~。だから紫月くんはぁ、麻莉子に任せておけば、なーんにも心配しなくていいよぅ~」
友哉
「はい……? ありがとう……ございます」
談話室で2人、その後も楽しげに続く会話。