其の四 小春の入学前 事前オリエンテーション
いよいよ麻莉子と友哉の登場です♪
麻莉子は、たいそう面白い性格な女の子なので、書いていても楽しいんですよ~^^
司会者
「ということで、星杜学園に入学が決まったみなさん、本当におめでとうございます。以上でオリエンテーションは終了いたします」
緊張の糸もゆるみ、ざわざわと楽しげな声を発する新1年生たち。
司会をしていた生徒、他の生徒から白い紙を渡されると、それを読み上げる。
司会者
「ここでお知らせがあります。○○中学校の桐生誠也くん、波原小春さん、いらっしゃいますか?」
桐生と小春
「はい」「はい」
在校生
「お2人には、これから職員室の方へ行ってもらいます。係の者が案内しますので、その生徒の指示に従って下さい」
小春
「……?」
生徒に案内されて、講堂から出て行く桐生と小春。そんな2人の後ろ姿を見て、アイコンタクトを交わす早見坂と藍原。
新1年生の前に立ち、マイクの前で話し出す早見坂。
早見坂
「さて。ここからは、生徒会と映画研究会の方から話をさせて貰いたい。我が星杜学園が、来年度100周年を迎える伝統ある高校である事を、知っている諸君も少なくないとは思うが……」
演台から新1年生に向かって話す早見坂を見て、女子生徒どよめく。
新1年生
「ねぇ、今話している人、ちょーカッコよくない?」
新1年生
「あんなステキな人がいる高校に入れるなんて、ラッキー! バラ色の高校生活!」
早見坂
「諸君には、前もって封書が届いているはずだが、本日はこの後、来年度の星杜映画に出演する生徒を決めるオーディションを行う」
講堂の中、瞬間盛り上がる。
早見坂
「もちろん興味のない生徒もいるだろうから、興味のない者は順次帰って貰って構わない」
ちらほらと帰り仕度を始め、講堂を出て行く生徒たち。
そんな中。
???
「ねぇ」
??
「……」
???
「ねぇってば」
??
「……」
???
「ねぇ、聞こえてるんでしょぉ~?」
??
「えっ? ええっ? ぼっ、ぼくの事ですか?」
???
「そうだよぅ~。麻莉子がさっきから話しかけてるのにぃ、無視するなんてひどくなぁい?」
??
「い、いえ、そんなつもりはなかったんですけど……その、ぼくに話しかけてるとは思わなくて」
???
「私の名前ねぇ、久遠麻莉子っていうんだよぅ」
??
「はぁ」
麻莉子
「はぁじゃなくってぇ、ホントにもぅ~」
??
「あっ、す、すみません」
麻莉子
「名前は?」
??
「え?」
麻莉子
「だからぁ、キミの名前。相手が名乗ったらぁ、自分も名乗るのが日本の常識でっしょ~?」
??
「あ、はい。そ、そうですよね。それが常識なんですよね。あの、ぼく、紫月友哉です」
麻莉子
「しづきともや、クンかぁ~。うん、よろしくねぇ」
麻莉子、とまどう友哉に握手を求めて、右手を差し出す。恐る恐る麻莉子の手を握って握手をする友哉。
麻莉子
「でぇ、紫月クンも、オーディション受けるわけぇ?」
友哉
「あっ、やっぱり変ですよね? ぼくなんかが、映画の登場人物なんておかしいです、よね? いいんです、いいんです。そんな事、ぼく、最初から分かってますから……」
麻莉子
「ねぇぇ、一人でいったい何話してるのぅ~? 麻莉子、まだなぁんにも言ってないのにぃ」
麻莉子、友哉の顔を見てクスリと笑う。
友哉
「あっ、あの……」
麻莉子
「麻莉子はねぇ、登場人物に選ばれる自信があるんだよぅ~。紫月クンも一緒にがんばろうねぇ、おーーーっ」
友哉
「あっ、はっ、はいっ」
演台では、早見坂に代わって藍原が話しをしている。
藍原
「ご紹介にあずかりました藍原琴音です。来年度の、星杜学園の映画脚本は、私が手掛けることになりました。僭越ではありますが、本日は、私の脚本のイメージに添う生徒さんを、出演希望されるみなさんの中から選ばせて頂きたいと思います」
演台から新1年生に向かって話す藍原を見て、男子生徒どよめく。
新1年生
「すっげー美人じゃん!」
新1年生
「オレ、藍原さんの映画に出演して、仲良くなりてぇ~」
藍原を、一心不乱に見つめる友哉。なにげに横目で見ながら、麻莉子、友哉の肩をツンツンとつつきながら。
麻莉子
「ちょっとちょっとぉ、紫月クぅン」
友哉
「はいっ? いきなりなんですか?」
麻莉子
「鼻の下が伸びてるけどぉ?」
友哉
「ええっ? 鼻の下がっ!?」
慌てて口元を手で覆い隠そうとする友哉。
麻莉子
「あのねぇ、今のはモノの例えだからぁ。た・と・え」
友哉
「そっ、そうなんですか」
麻莉子
「でもさぁ、ホ~ント男ってのは、きれいな人を見ると、みぃーんなおんなじような反応するイキモノなんだねぇぇ~」
友哉
「すっ、すみません……」
麻莉子
「べつに紫月クンを責めてるワケじゃないんだけどさぁ」
友哉
「あのですね、久遠さん。今、お話ししている藍原さんって、ぼくの中学校の先輩だった人なんです」
麻莉子
「へぇー、そうなんだぁ」
友哉
「はい。藍原さんって、中学時代から、男子生徒からも女子生徒からも人気があって……。キレイで頭もいいし、ぼくも憧れていて」
麻莉子
「ふぅん?」
友哉
「そっ、それでぼくも、藍原さんと同じ高校で青春を送りたくて、星杜学園に進学を決めたっていうか」
麻莉子
「そっかぁ~」
興味なさげな麻莉子。
友哉
「それでですね、ぼ、ぼく、藍原さんから直接お誘いを受けて」
麻莉子
「えっ? お誘いって、なんのお誘い?」
友哉
「藍原さん、来年度の星杜映画の脚本は自分が担当するんだけれど、その中に出てくる主人公のクラスメート役が、ぼくの雰囲気にピッタリなので、オーディションだけでも出てみないか、って」
麻莉子
「ええっ!? なにぃ? 紫月クンったらぁ、そんなコネがあるわけぇ??」
友哉
「そんなコネだなんて……もちろん実力勝負なんでしょうから、こんなぼくなんて最初から無理だとは思ったんですけれど……でも、藍原さんに直接言われちゃったら、なんとなくその気になってしまったっていうか」
麻莉子、がぜん瞳がキラキラと輝き始める。
麻莉子
「うんうん、オッケーオッケー。紫月クンの雰囲気がピッタリっていうんならぁ、麻莉子みたいなのがそこに混じるとぉ、良い味を出せそうな予感がビンビンしてくるよぉぉ~」
友哉
「予感……ビンビンですか」
麻莉子
「そう、予感ビンビン!」
友哉、力なく笑う。
麻莉子
「いぃい? 紫月クン、機会があったら、藍原さんに麻莉子のこと、ちゃあんと推薦しておいてよねぇ」
友哉
「推薦? 何の関係もないぼくが、ですか? それに、そんな機会があるかどうかなんて……」
麻莉子
「紫月クンねぇ、ぜんぜん関係なくないんだからぁ~。脚本を書いた人からイメージに合うって言われたって事はさぁ、これはもうどう考えたって、可能性大でっしょ~。だから紫月クンが選ばれるとなるとぉ、演じやすいように一緒に出演する人について意見を求められる可能性は、大有りなんだよぅ~」
友哉
「そんな単純なもんなんでしょうか。それにぼくが選ばれるとは思えませんし……」
麻莉子
「絶対にそう! 情報通の麻莉子の辞書に間違いはないのぉ!」
友哉
「久遠さんって……情報魔なんですか?」
麻莉子
「情報通っ!!」
友哉と麻莉子が話をしている間にも、オーディションは粛々と進行していく。
藍原
「……私からは以上になります。さっそくここからは審査に入りたいと思いますので、では映研の部長さんにマイクを譲ります」
自分たちの順番を待つ、友哉と麻莉子。