其の弐 小春の入学4ケ月前
これは『星杜学園1年 波原小春 168㎝ 60㎏。 けっこう大食い!』の番外編で、本編のネタバレ?を含んだ裏話となっています。
という事ですので、本編を読まれていない方は、これを読んでも「だから、なに?」ってなるような……(笑。
藍原
「早見坂さん、少しよろしいですか?」
早見坂
「藍原くんか、どうした?」
藍原
「はい。実は来年度の学園映画の台本のことで」
早見坂
「仕上がったのか?」
藍原
「大まかな流れが固まったところです。お時間があれば今ここで目を通して頂いて、何かアドバイスなどあれば頂きたいのと、あと、ちょっとご相談が」
早見坂
「確か……学園の生徒VSクローン人間みたいな内容になるはずだと記憶しているが」
藍原
「ええ、そこは変わっていません。ここの学園には、地の気にひきつけられて特殊な力を持つ生徒さんが集まりますから、それを見逃す手はないと思うんですよね」
早見坂
「確かにそうだな。しかし、テーマが重そうだ」
藍原
「その点は大丈夫だと思います。コメディー的な要素も多くちりばめました。早見坂さん、とりあえずは読んで頂けますか?」
早見坂
「わかった」
黙々と、藍原の書きあげた台本に目を通していく早見坂。その横の座で、何やら静かに書きものをしている藍原。
早見坂
「ふむ、これはなかなか面白いな。主人公を交えた3人組の掛け合いがウリになりそうだ」
藍原
「はい、そのつもりで書いてみましたが……ただ役者さんが決まっていない現段階では、いまヒトツ、イメージを確定させられなくて困っています」
早見坂
「確かにそうだろうな。今回のような設定だと、イメージにあった役者を揃えるというより、役者に合わせて台本を書くという方が近い感じではあるな」
藍原
「はい、今は、そこがネックで。実は早見坂さんに相談したいというのも、その件についてだったんですが……思い切って新入生は選出の対象からはずしてしまって、現在の1.2年生の中から、さっさと主要な登場人物を選んでしまうっていうのはどうでしょう? 力を持たれている生徒さんの中から、早見坂さんと同じ2年生の陣聡介さんあたりを主人公にと考えているんですが」
早見坂
「うーーーん、陣ねぇ」
しばし腕組みをして考え込む早見坂。
早見坂
「どうだろう、藍原。主人公の人選は、もう少し待って貰えないだろうか?」
藍原
「はい?」
早見坂
「そうだなぁ……」
藍原
「いえ、早見坂さんがそう言うのなら、私に異存はありませんが。もしかすると新入生に、どなたか心当たりでも?」
早見坂
「心当たりというか、ちょっとした縁で知っているヤツがいてな。コイツも、確か力を持っていたはずなんだ。その中学校から星杜学園に進学してきた生徒は、これまでには一人もいないが……ヤツも、なかなか適役かもしれない」
藍原
「そんな生徒さんを知っているんですね。その方は男子生徒ですか?」
早見坂
「あぁ、そうだ。コイツはな、どんな時も冷静沈着で、背も高いし、頭も良くて、ルックスも悪くないぞ」
藍原
「まぁ、まるで早見坂さんを見るようですね」
早見坂
「いやいや、もちろん私の方がどれをとっても上のはずだが」
藍原
「(うっとりと早見坂を見上げながら)そんなうってつけの人がいるのであれば、それは是非ともこの星杜学園に進学してきて欲しいものですね」
早見坂
「そういう事だから、藍原。先ほどの相談内容については、もう少し返事を保留にさせてくれ」
藍原
「承知しました。嬉しい返事をお待ちしています」
早見坂
「あっ……と、それからな、藍原」
藍原
「なんでしょう?」
早見坂
「映画のタイトルなんだが、この『星杜学園を救う者、その名は○○○○! ~クローン人間は誰だ!?~』っていうのは……」
藍原
「はい、そこのマルの中に主人公の名前が入ります」
早見坂
「いや、な。その、これは仮題だな?」
藍原
「は? 何か問題でも?」
早見坂
「い、いや、特に問題って事もないんだが、タイトルにクローン人間は誰だ、なんてついてしまうと興ざめするというか、なんというか……ネタバレ的な感じにもなってしまうし、それにな、こうもうちょっと洗練された方がいいっていうか……」
藍原
「?」
早見坂
「まぁ、いい。私は時々、藍原の事がわからなくなる」
藍原
「……?」
早見坂
「映研の部長と相談してから決めてもいいだろうし、そう急いで決める事でもないな」
藍原
「では、早見坂さんのおっしゃる通りで」
早見坂
「タイトルの話はここまでにするとして。ふむ、生徒会長と副会長の関係、つまり私と藍原の関係というのは、映画の中ではそういう事になるわけだ」
藍原
「そうですけど。あら? 早見坂さん、困りますか?」
早見坂
「いやいや、今から楽しみだよ。藍原のことを、琴音と呼ぶのが楽しみだ」
2人、顔を見合わせて、にんまりと笑う。