第六話
足を止めた、というより立ち尽くした、という表現が正しいのか。
「・・・・・・・」
鏡に姿を映せば、こちらを見つめ返してくるのは着物姿の少女。
和装に似合いの狐の面で顔を覆う、その姿はまるで今しがた縁日にでも出掛けてきたようで。
洋風で揃えられたこの部屋で、彼女は異質な光を放っていた。
志貴は、失礼だと思いながら彼女から視線を逸らすことができなかった。
艶やかな長い黒髪は胸まで伸び、照明に当たりつやつやと輝くそれは、たいそう美しかった。
ところどころに咲く梅の花が可愛らしい、薄桃色の着物。まだ雪の残る早春に咲く梅花は、彼女の雪のように白い肌によく似合う。
不思議だ、と思った。
表情が見えない為であろうか、それとも彼女自身が放つ独特の雰囲気に引き込まれたせいなのか。
・・・鏡の中の少女が自身であると気づいたのは、それからしばらく経ってからのことだった。
「・・・えぇぇぇえええええ?!!」
素っ頓狂な声が響く。
思わず裏返ってしまった声は壁に当たり跳ね返ると、再び自分の耳に戻ってくる。
顔が見えなかったのが悪いと心の中で言い訳をしてみる。思い当たる節は、確かにあった。
だが、しかし。
羞恥に、顔が自然と下を向く。
自身の顔は見えないが、これを外すことができたなら茹でダコのように真っ赤に違いない。
何故か外れない。鏡の前でしばらく格闘してみたが、面はそれこそ、タコの吸盤のように張り付いて離れなかった。
はぁ、と大きなため息をついた。
鏡の前で自分の姿を長いこと見つめていた、なんて。しかも、それが自分だと気づかずに。
周囲に誰もいなくて良かったと、心底思う。
でなければ、羞恥で死んでしまいそうだ。