第五話
暖かい。
手を伝って流れ込んでくる誰かの体温。
それは手から全身に流れ、心まで包んでくれるようで。
すやすやと寝息を立てて眠っていた彼女には、そのじんわりとした温もりが、体の熱ばかりでないことに気づかなかった。
「・・・・・から。・・どうか・・」
誰かの話声が耳に届く。
内容までは定かではないが、浅くなった彼女の眠りを妨げるのには十分だったようで。
パチり、と目が開く。
まだ朦朧とする意識の中、黒いものが動いているのが見えた。
闇色。まだ夜の中にいるのではないかと錯覚させられるその色は、自身の持つ色より更に深い色。
光を通さないのに、透明な風に似たそれを何処かで見たような気もするが、上手く思い出せない。
ゆらり、とまた黒いものが動く。
徐々にはっきりとしてきた意識の中、それが自分を見つめる双眸の光だとようやく気づくと志貴は文字通り飛び上がった。
「うわっ」
「おい、起きたぞ」
低い声。
やや掠れた、しかし決して聞き苦しくないそれは室内に響き、こだまする。
彼女の顔をじっと覗きこんでいた男は目覚めたことを確認するなり、立ち上がりどこかへ行ってしまった。
バタンと扉が閉まる音がする。
誰もいなくなったことを確認すると、もぞもぞとベッドから這い出た。
「ここは・・・・?」
まず目に飛び込んできたのは、彼女の背丈の二倍はあろう巨大な本棚。
ぎっしりと隙間なく並べられた本は、一段で百冊くらいはありそうだ。
無類の本好きな彼女は、巨大な本棚に目移りしつつも、部屋全体を眺め見る。
本棚の隣には、そこそこ大きなクローゼット、そのまた隣には身体全体を映しとれる姿鏡がある。
こうして見ると、かなり広い部屋なのにそう思わないのはきっと所狭しと並べられた調度品や雑貨のせいなのだろう。
しげしげと眺め歩いていた彼女は、ふと足を止めた。