第二話
「どうしたの?」
食べないの?
彼はそう言って、目の前に並べられた料理に手を伸ばす。
「あの・・・・・、」
彼女は苦笑すると、先ほどから話そうと決意していたことを口にしようとした。
「ああ、お金なら心配しないで。僕の奢りだから」
またもや目論みが失敗したことに、内心がっくりと肩を落とす。
そんな彼女を知ってか知らずか、彼は頗る上機嫌だった。
さぁ、遠慮なく。
断れずに、皿に盛ってあるシーフードサラダを口に入れる。
「美味しい?」
「はい」
正直、味なんか分からない。
床に赤の毛氈が敷き詰められ、天井を見上げれば豪華なシャンデリア。優雅なクラッシック音楽の生演奏。さながらどこかの式場のよう。
もう予約したからと半ば引きずられるように連れこまれた、洒落たレストラン。目の前の彼はともかくとして、制服姿の女子高生には、非常に居心地が悪かった。
「あのっ・・・・・!」
驚くほど、大きな声が出た。
周囲の人が、何事かと視線を向けるが、気づかない振りをして。
「何だい?」
「どこかで、会ったことあります?」
ここに来てようやく口にできた言葉。
名前も知らないような人に着いてきてしまった。真面目なことだけが取り柄な彼女なら、絶対にしないこと。
だから、自分をそうさせた理由を知りたかった。
少し間を置いた後、ぷっ、と笑いを堪えるような彼の声が聞こえた。
「あの・・・・・」
何か可笑しいことをしただろうか。
笑い続けていた彼は、困惑した瞳に気がつくと、ごめんね?、と小さく呟いた。
「僕は、こういう者です」
質問には、イエスともノーとも言わず。差し出されたのは、掌サイズの小さな紙。黒と白が基調の、和風デザインの名刺。華やかな彼には似合わない、とてもシンプルなものだった。
「・・篠塚・・・・銀之助・・、さん」
名刺同様、和風でシンプルな名前は、色素の薄い髪と翡翠の瞳をした彼には酷く不自然なように思えた。
「職業は・・・、届け人・・・?」
届け人。見慣れぬ言葉に、首を傾げる。配達人?郵便局にでも務めているのだろうか。
「当たらずとも遠からず」
言葉にするより早く、彼は答えた。